ステラファンタジア~チート片手の異世界譚~

龍凪風深

アルガンダ編

00 プロローグ

 始まりは、いつだっただろうか……?


 確か、白雪が舞い踊る冬の季節。

 軽快な音楽に、色とりどりのイルミネーション。

 街全体が陽気な雰囲気を醸し出していた。

 そんな日。聖なる夜の事だった。


 私はいつもと変わらない日常の中にいて、いつもと変わらずに笑っていた。


 それが当たり前だと信じて疑わずに──。


 当たり前の世界が暗転するのは一瞬で、余りにも呆気ない変化に、頭の中は一面の雪景色さながらに白く染まる。


 その一瞬で色を変えた世界が私の、私達の前に広がっていた。




 ◆



 「……っワカナッ!!!」

 「!!」


 唐突に名前を叫ばれて、はっと我に返る。


 私は、何をっ……?


 まるで、走馬灯のように思い起こしていた始まりを、瞼の奥へ追いやり、迫る氷の刃に慌てて身構える。

 ああ、戦闘中に考え事なんて自殺行為だぞ、自分。

 自嘲しながらも、構えた片手剣で氷の刃を砕き落とす。

 ぱらぱら、と氷の粒が風に舞った。


 「あら、考え事はもうやめたの?」

 「あははは、私のレベルでそんな事したら自殺行為ですから」


 唇に微笑みを湛え、私に氷の刃を放った女性が可笑しそうに問う。

 私は苦笑気味に返すと、片手剣を握り直した。


 今は、事の発端なんて思い出してる場合じゃない。

 目の前の敵に集中しろ。


 「ワカナ、平気?」


 心配そうに側に来た黒髪の彼の問い掛けに、もう大丈夫だ、と頷く。

 彼はまだ何か言いたげだが、後で聞く事にしよう。


 「さあ、行くわよ?」

 「……わざわざ攻撃宣言ありがとうございます。転職ジョブチェンジ魔法使いウィザード!」


 己が武器たるレイピアを構えて告げる女性に、私は嫌味を言いながら、能力を使う。


 戦士ウォーリアから魔法使いウィザードへ。

 服装が変化し、片手剣が杖に変わる。


 「氷の息吹ハレイネディラグラス!」

 「炎矢フレイムアロー!」


 女性がレイピアを前に振り翳し、詠唱。

 襲い来るのは触れたものを一瞬で氷付けにする、凍結の風。

 私は瞬時に炎矢フレイムアローを唱え、打ち消す。

 そして、彼が地を蹴り女性に接近、二本の短剣を振るう。


 「っ、ふふふ。甘いわよ」

 「さっさと倒れなよ」


 彼の攻撃を躱し、たんっ、たんっと軽やかに距離を取る女性に、彼はムッと顔をしかめる。

 私は静かに杖を構え直し、再び詠唱。


 勝ちたい。勝たなきゃ。進めない。


 「火球ファイヤーボール!」

 「そんなの効かないわよ」 


 放った火球ファイヤーボールは、あっさりとレイピアで防がれる。

 けれど、私は気にせずに何度も詠唱し続ける。

 その間、黒髪の彼も女性とまた距離を詰め、短剣で攻撃を続けた。


 私は彼に当てないように注意しながら、火球ファイヤーボールを繰り返し詠唱。

 女性は彼の振るう短剣を弾きながら、身体を捻り、火球ファイヤーボールを躱す。


 私も、彼も、多分純粋に経験値が足らないんだと思う。


 そして、私達は互いに武器を構え直した。


 「これで、終わりにしましょう?」


 ニヒルに微笑んだのは一体、どっちだったか。




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