第323話・天の美禄とのこと
十一月最初の第一土曜日。……わかりやすく言えば十一月六日のちょうどお昼を過ぎたころ――。
「えっと……?」
オレは、バイトの時間(夕方五時)までのあいだ、久しぶりに星天遊戯で、覚えているスキルの熟練値をあげようとログイン。
ログイン場所は、相も変わらず魔宮庵の間借りしている客室で、普通なら目覚めた時は和風旅館のような木工住宅特有の渡木が交錯している天井が見えるのだが……。
「……っと、
「
ふたりの、高校生と思わしき少女たちが、挟み込むようにオレの顔を覗き込んでいた。
左側の少女は若草色の腰まである長い髪を
右側の少女は
見た目はまったく、静と動といった感じに違うのだけど、顔立ちだけはなんとも、目つきは違えど、合わせ鏡のように瓜二つ。
いや――どちらかといえば、左側の少女のほうがあきらかに一部勝っているともいえる。
……というか、愚僧も売僧も対して変わらない気がする。
どっちも僧侶に対して罵倒する言葉だしな。
「はて、オレの知り合いにこんな娘いたか?」
オレは胡坐を組み、目の前の美少女ふたりを見渡しながら、腕を組むように首をかしげた。
魔宮庵にある客室は、借主であるオレとセイエイ以外、そのどちらかの許可がない限りはほかのプレイヤーが入室することはできない。
そのため、目の前の少女二人は、そのどちらかから許可をもらわないといけないわけだ。
「オレが知らないってことになると、セイエイが入室の許可を出しているってことになるわけだけども」
うーん、そんなにフレンドがいるわけではないし、そもそもこの子ら、いったい誰?
「ところでシャミセンさん……」
左側の、活発そうな少女が、そうオレに声をかける。
「聞きましたよ。教会の中で死に別れた恋人とキスしたんですってね」
もう一人、右側のおとなしそうな少女が、続けるような感じで言う。
「……えっと?」
なんでこの二人がそのことを知っているのだろうか?
あの場にいたのは、オレとジンリンを除けば、デートを盗み見していたビコウ・セイエイ・テンポウ・ケンレン・ハウルの五人だけだったはず。
それにNODの運営スタッフも気を利かせてくれたらしく、長期メンテナンスというかたちで、オレやビコウたち以外のプレイヤーがログインしないように努めてくれたようだし。
「えっと、ちょっと簡単な質問なんだけど、なんか変化の術みたいなことってしてる?」
「いいえ、してませんよ」
オレの質問に対して、右側の少女がそう答える。
「っと、違うのか?」
まぁ変化の術を使えるプレイヤーなんて、かなりの上級者だろうしなぁ。
「さてさて、シャミセンさんでも気付きませんか?」
左側の少女が、右側の少女にアイコンタクトを送るような仕草をみせた。
「ほら、ここ。ここをよーく見てください」
言うや、右側の少女は、横髪をかきあげるように隠れていた耳元をさらすと、その一部分に注目してほしいといわんばかりに、かきあげている手の親指で耳たぶをはじいた。
その耳元には、かわいらしいアゲハチョウの耳飾りが着けられていた。
それを見て、オレはある装飾品と、それを持ったプレイヤーを脳裏に思い浮かべる。
いや? えっと? ちょっとまって?
たしかあの装飾品は白水さんのオリジナルだから、依頼されて作成されたのならまだしも、店とかに出回るってことはあまりない。そもそも特殊アイテムは売買できない仕様となっている。
だからこそ、オレの知り合いでそれを持っているのはたった一人だったはず……。
「あれぇ? こんな誰にでもわかるヒントを与えられて、もしかして答えられないんですかぁ」
左側の少女があきれたといわんばかりにためいきをつく。
「がっかりだなぁ。あぁ、がっかりだなぁ」
右側の少女は、口を尖らせ、がっくりと肩を落としてみせる。
が、実際はチラチラとオレに視線を向けていた。
「いや、ふたりが誰なのかはわかってんだよ? でもね頭が追いつかないの」
うん、オレが思っていることが正しいとすれば、そもそも目の前の美少女が見た目は違えど顔立ちがそっくりだってことも納得がいく。
だけどもキミたち……たしかまだ小学生だったよね?
なんでちょっと見ないあいだに、見た目が十六、七の高校生になってるの?
「あはははは、リンクプログラムはおおむね良好かしらね」
オレが懊悩としていると、ひとりのプレイヤーが笑いながらことを見ていた。
「っと、ビコウ……? なんなのこれ?」
オレは、部屋にやってきた心猿を眇めるような視線でそうたずねた。
「オレの推測が正しければ、目の前の二人は、左側がセイフウ、右側がメイゲツなんだけど?」
オレがそういうや、その当事者……つまり美少女ふたりはパッと花を開いたかのように笑顔を見せた。
「よかったぁ。これでシャミセンさんまで気付いてくれなかったらどうしようかと思いましたよ」
左側の……セイフウと思わしき少女が胸を撫で下ろすように安堵の表所を浮かべる。
気のせいか胸元のふくらみが歪んだ気がする。
「ほんとだよね。ギルドの人たちも誰だ誰だって大騒ぎになっちゃったくらいだし」
右側の……メイゲツと思わしき少女も、妹とにたような感じで、ちいさく安堵の息を漏らす。
「っていうか、そろそろネタを教えてくれるとうれしいんだけどね」
「あっと、そうでしたそうでした」
オレが声をかけると、双子はあわてた表情で正座し、オレに視線を向けなおした。
Д Д Д Д Д Д Д
「[成長過程予想アプリケーションソフト]?」
双子から、ふたりがどうして女子高生みたいな見た目になっているのかという理由を教えてもらったのだが、いまだに理解が追いつかない。
「わかりやすく言うと、ほらテレビとかの通販番組でダイエットとか、無理な腹筋しないで科学の力でやせようぜみたいな商品を紹介するさい、使用前と使用後の写真が出てきて照らし合わせるってやつがあるじゃないですか。そのダイエット過程を実行した時に、使用者の見た目がどう変わるのかを予想してVRモデルに反映させるソフトなんですよ」
「それと、この状況はどう関係してるの?」
痩せた太った以前の問題なんですが? 見た目完全に高校生だし、顔つきは一緒でも、からだつきがぜんぜん違ってきてるぞ。
「いきものって、ある程度成長すると止まったって言っていいくらいにかわらなくなるんですよ。成長ホルモンが落ち着いてきたともいえるんですけど、見た目とかは肉付きとかでかわりますからね」
そう説明するビコウはあははと苦笑する。
まぁ、そもそもビコウは中学のころからほとんど身丈は変わっていないって、本人が自虐しているくらいだからなぁ。――一部を除いて。
「それでこのアプリは、現在の生活を質問とかでサンプリングした結果、『将来、こういう風に成長しますよ』っていう予想過程機能があって、ついでにVRMMORPGのキャラメイクで一時的にその見た目が反映されるっていう設定がついていたんですね」
聞けば、そのアプリを開発したのが、
「つまり……、双子はそのアプリで変化した自分たちを誰かに見せておどろかせようと?」
ちらりと双子を見据えるや、ふたりはこたえるようにうなずいてみせた。
「でも、なんでビコウはそのことを知ってるの?」
「あぁ、さっきバトルデバッグを終えて、ちょっとフィールドにでも出てスキルの熟練値を上げようかなって思っていた時にナツカからメッセージが来ていたんですよ。双子がかわいらしいJKになって、シャミセン誘惑しにいったから……みたいなやつで」
心猿の言葉に、双子はこぞって、
「べ、別に誘惑する気はないですからね?」
「そうですよっ! ちょっとからかおうかなって思っただけですから」
と慌てふためいた。
Я Я Я Я Я Я Я Я
さて、大人(?)になった双子を両サイドに、オレは魔宮庵からすこし南へと下ったところにある、森林地域へとやってきていた。
鬱蒼とした森で、ここではウサギやオオカミといった野生動物をモチーフとしたモンスターが多数出現する。
木の枝を調べれば、ハチドリくらいの大きさをしたミツバチなんかも出てくる。
「さて、なにから狩ろうか」
双子に視線を向け、そうたずねる。
「ウサギを狩って、食料にするってのはどうでしょうか?」
「私とセイフウがまだ習い立てですけど解体スキルを覚えていますし、毛皮とかはドロップで手に入れられなくもないですしね」
先はセイフウ。その次がメイゲツの言葉。
たしかに解体スキルは覚えていて損はない。
「でもたしか毛皮って血がついたら値段下がらなかったっけ?」
獣の皮を売るさい、見た目が重視されるからなぁ。
「そうなんですよねぇ……」
セイフウはそういうや、肩に背負っていた弓矢を取り出し……、
「[一撃必中]っ!」
命中率増加の体現スキルを使って、目の前のウサギを矢で射抜いた。
「きゅう……っ!」
スキルのおかげか、ウサギは急所を衝かれると、ピクピクと痙攣を起こしていく。
「[サイレント]ッ!」
それを狙ってか、今度はメイゲツがスタッフを天にかかげると、スタッフにつけられた朱色の宝玉が輝きだし、薄紫の霧が生じるや、さきほどのウサギを包み込んだ。
◇イガスオン/レベル14/属性【木】
・【熟睡】
ウサギの簡易ステータスを見ると、状態異常として【熟睡】が付与されている。
「あぁ、なるほどね」
それを見て、オレは得心する。
「これで解体スキルをつかえば、毛皮をきれいな状態で取れるってわけか」
まぁ、残酷だけど毛ではなく皮を取るので、殺すことに変わりはないけど。
「そういうことです。ほらマグロって吊り上げると暴れだして血が活発になるからかえって美味しくなくなるから――」
「急いで血抜きをするって聞いたことがあったんですよ」
まぁ、もうすこし詳しく言えば、暴れて身を傷つけたり筋肉が強張って食えたものじゃなくなるのが一番の理由だけど。
「さてと……」
セイフウは、太もものベルトに挟んでいた果物ナイフくらいのダガーを取り出すと、誰かから教えてもらったのだろう、慣れた手つきでウサギを解体し始めた。
解体スキルは基本的にプレイヤースキルに準じている。
なのでリアルで解体などをしたことのある人はそのままの感覚でやることもできるし、やったことのない人でも、どこをどう切ればいいかといったライン状のものが浮かび上がるのだという。
まぁ基本的に熟練値が上がればきれいに解体できるから、覚えていて損はない。
「どうかしたんですか?」
オレの顔を覗き込むようにメイゲツが首をかしげる。
普段、彼女たちはビコウとどっこいどっこいの身長しかないので、首を下に向けるのだが、今は一五六センチの高校一年生くらい身長が高くなっているので、下げる首の角度もそんなにない。
「いや、人間見た目が変わると雰囲気も変わるのかなぁって」
オレがそう思うのも無理はない。
なにせ、ふたりとも……出るところはきっちり出ている。
メイゲツはだいたいDに近いC。セイフウはFくらいか……。
まぁ、そもそもケープを羽織っているとはいえ、その隙間から胸の谷間が見えてしまっていることもあって、目のやり場に困る。
「――っ? どうかしたんですか?」
首をかしげながら、さらにオレの顔を覗き込むメイゲツ。
「あぁっと……、次はなにを狙おうかなって思ったりな」
言葉がしどろもどろとなり、咄嗟にメイゲツから視線を逸らした。
いや、そもそも着ているダルマティカが胸元が開いたタイプのようで、サイズが合っていないのか、メイゲツが姿勢を前に出すとその胸元が開いて目に毒だ。
「ふたりとも解体終わったよ」
いうや、セイフウがこちらへとかけてきた。
「毛皮とついでに肉も手に入れられた」
「それはやっぱりギルドのほうに?」
チラリとセイフウのほうに視線を向けるが、
「…………っ」
あわてて視線を逸らした。
「どうかしたんですか?」
キョトンとした声で、セイフウがそうたずねる。
上がノースリーヴだからか、健康的な二の腕があらわとなっているし、首もとのカラーから胸にそってスリットが入っているようで、それを冬物コートのように紐で結びとめられているだけ。
さらにいえばミニスカートが走るたびに揺れるので、システム上見えないとは思うけど、見える危険性もあって目のやり場に困る。
「そういえばシャミセンさん、さっきビバードが飛んでいくのを見ましたよ」
「んっ? どっちにだ?」
「あっちです」
オレの問いかけに、セイフウがモンスターが飛んでいった方角を指で示した。
「ビバードの巣で取れる蜂蜜は、結構品質がいいですからね」
「それに、シャミセンさんなら簡単に取れるでしょうし」
双子はそういうけどね、なんかいやな予感がしてならない。
セイフウが指で示した方角へと進んでいくと、森の奥へとずんずん進んでいく形となっていく。
森はうっすらと、来たものを帰さないといったように道が険しくなってきている。
「どうですか? センサーがなにかに反応してます?」
「まぁ、ビンビンきているのはたしかだな。モニターのほうにもハチがいる場所が点滅しだしている」
草を掻き分けながら、奥のほうへと進んでいく。
「っと……」
すこしひらけた場所に出ると、目の前に一際目立つほどの大樹が聳え立っていた。
「もしかしてここにあるんですかね?」
セイフウが首をかしげるようにいう。
「かもしれんな」
しかし、アイテムってのは触れないと取れないっていうシステムだからなぁ。
上のほうにあるとしたら、さてどうやってとろう……。
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ
耳障りな羽音が聞こえ出してきた。
「シャミセンさん? 私……いますごく周りを見たくないんですけど」
「いますよね? これって絶対いますよね?」
双子があたふたとした涙声を上げる。
うん、見た目は変わっても、やっぱり中身はまだ小学生。
なんかすごく安心した。
「っていうか、なんでシャミセンさんが一緒にいるのに攻撃態勢に入ってるんですかね?」
セイフウがにらむようにオレを見据える。
「あぁっと――たぶん[
チラリと、一匹のビバードを一瞥し、モンスターの簡易ステータスを表示させる。
◇ビバード/レベル20/属性【木】・【陰】
・【反逆者】
予想通り、王への抵抗を意味する[
「なぁろぉっ! メイゲツ……[チャージング]でVIT上昇を頼むっ!」
パッと攻撃態勢に入ると同時に、周りに展開していた十匹以上のビバードが、一斉に攻撃態勢に入った。
「[チャージング]・[フィジカルベイレ]ッ!」
メイゲツが防御力上昇の魔法を詠唱する……。それと同時に……、
「[
セイフウが弓矢を構え、空のビバードを五匹、連続で射止めていく。
「ちょっと時間がかかるが……」
「こっちは大丈夫ですよ」
「大より小を兼ねるっていいますしね」
オレがなにをしようとしているのか、それを聞かず、メイゲツは補助に、セイフウは攻撃にそれぞれ役割分担をはじめた。
こういうところは、やっぱり双子である二人にしかできない芸当だな。
「そういえば、こいつら属性が[木]だったよね?」
「それだったら、[フレイム・ストー]……」
と、炎の渦を巻き上げる魔法を唱えようとしたのメイゲツを、
「待てっ! 待て待て待て!」
オレは咄嗟に彼女の口をふさぐように魔法の詠唱を止めた。
「ちょっ? いったいなんですか?」
メイゲツが目をぱちくりとさせ、おどろいた表情でオレを睨み返す。
「っとだな、このゲームって結構自然の摂理が働いているところがあってな」
「それはわたしたちもなれていますから知ってますけど」
「うん、知っているなら話が早い」
オレはうむとうなずいてみせると、近くにあった木から生えている一枚の葉っぱを手でつかみ、
「[ファイア]っ!」
簡単な火の攻撃魔法を唱えるや、指に持っていた葉っぱが、カッと炎上し、灰となった。
「「…………っ」」
それを見て、双子は青褪めた表情を浮かべると同時に、
「メイゲツゥッ! 炎系の魔法とか攻撃はやめようっ!」
「これって、下手すると山火事ならぬ森火事になってもおかしくないじゃないっ!」
そういった具合に、オレがメイゲツを止めた理由を察してくれたようだ。
「でもこれだと[ライトニング]も役に立ちませんよね?」
セイフウが、矢でビバードを射抜きながらたずねてきた。
「あぁ、だから……物理で落とすっ!」
オレは地面に落ちていた石を手につかみ、ビバードに向けて投擲した。
ビバードは羽をひるがえし、投げた石を軽々と避ける。
「うん、やっぱり避けられるか」
とはいえ、予想通りだ。
「なら、これならどうだ?」
オレは手に持った錫杖の石突を地面に叩きつけると、半径五メートル圏内にある、片手で持てるくらいの大きさをした石ころがゆっくりと浮上していく。
「ふたりともっ! あたらないように身を屈めてろっ!」
オレがそう指示すると、双子はその場で、パッと身を低くして屈んだ。
「キュゥイイイイイイイゥっ!」
ビバードの群れが、一斉にオレへと反逆する。
「[龍星群]っ!」
浮かび上がった大小様々な石が流星となって、空で羽ばたいているビバードの群れを一掃していく。
レベルの差があったのか、それとも急所に当たったのか、何匹かは地面に叩きつけられるように落ちていく。
「メイゲツっ、炎じゃなくても巻き込めばいいんじゃないか?」
「……っ! そうか――」
メイゲツはスタッフをまだ落ちていないビバードに向けると、
「[ストリーム]っ!」
渦を発生させ、掃除機のようにその渦の中へとビバードを吸い込んだ。
「シャミセンさん、ひとつ聞きますけど……炎じゃなかったらいいんですよね?」
セイフウが弓の弦をギリギリと引っ張りながら、視線をオレに向ける。
オレが答えるようにこくりとうなずくと、
「だったら……凍らせるってのもありですかね?」
ピンと張った糸を弾くように、セイフウは矢をメイゲツが生じた渦の中でかたまっていたビバードへと放った。
「[絶対零度]っ!」
放った矢が寒々とした青色へと変化するや、まわりの空気を冷やしていき、一種のスノーダストを作り上げていく。
矢がビバードの一匹に刺さると、連鎖していくように凍りだしていく。
そして氷の塊は重力に引っ張られるように地面へと叩きつけられ、粉々に破壊された。
「ビバードの数が少なくなってきましたね」
周りを見渡しながらメイゲツが言う。
彼女の言うとおり、巣と思わしき周辺以外にいたビバードが息を潜めたかのようにいなくなってきている。
「でも巣の周りにはまだいるんですよね?」
げっそりとした声でセイフウが肩を落とす。
「……いや、そうでもなさそうだぞ」
[極め]を使って、遠くにいるビバードのステータスを確認してみると、
◇ビバード/レベル13/属性【木】・【陰】
「どうやら、攻撃してきたほうは[反逆者]持ちだけど、それ以外はもっていないみたいだ」
「ということは……」
双子が明るい声を上げる。
「当然、オレのスキルで簡単に巣が取れるってわけだ」
やっぱり蜂蜜は巣ごと機械にかけて撹拌したほうが品質がいい。
「ヨッと……」
木のくぼみに手足をかけ、木のてっぺんへとよじ登る。
難なくして、ビバードの巣へとやってきたのだが、以外にも手が届きそうで届きにくい場所に巣を張っていた。
「うーん、どうしたものか……」
無理してとれなくもないのだけど、落ちてダメージを受けるってのは地味にきつい。
かといって[ライトニング]で巣を地面に落とすと、下にいる双子に向かって、巣の中のビバードが襲い掛かる危険性だってあるわけだ。
なら、考えられる解決策として、オレのHPが減るほうが安全策だな。
どうせ法衣の効果で回復するんだし……。
身を乗り出すように、手を伸ばすと、指先が巣に当たると同時に、
◇[ビバードの蜜]を手に入れました。
というアイテムゲットの情報がポップされた。
よし成功……と安心したのも束の間――、
ツルッ!
「――あっ?」
足が木の肌からすべりはがれ、オレは空へと放り投げられた。
「「シャミセンさんっ!」」
砂煙を巻き起こすように、オレは地面へと落ちた。
「――っと」
ふにゅり……。
むにゃり……。
起き上がろうとしたとき、二種類の、それぞれ異なる大きさをしたやわらかいなにかを、オレはそれぞれ片方の手で握り込んでいた。
「「…………っ」」
その手の先には双子の、それぞれの胸がつかまれており、彼女らはおどろいて口元をわらわらを震え上がらせている。
「っと? ごめんっ!」
オレはあわてた声で謝ると、パッと両手を彼女たちの胸から離した。
「まぁ、突然のことだったんで気にしてないといったら嘘になりますけど」
メイゲツは立ち上がるや、砂埃を払い落としながらオレに視線を向ける。
「とはいえ、ちょっと感覚がなぁって思うところもあるんですよ」
セイフウも立ち上がり、砂埃を払い落としながらオレへと視線を向けた。
「どうかしたの?」
オレがけげんな顔でそう首をかしげるや、
「いや、大人になった私やセイフウの胸に対する感想はないのかなぁって」
「やっぱりそこは、まぁ小学生の時よりは幾分成長してますからね」
そんなことを突然聞いてきた。
「っと、素直な感想を言うとやわらかかったとしか」
「ハリとかは? セイフウは私のと違って大きいから触り心地はよかったんじゃないんですか?」
ズイッ……と、メイゲツがにらむように聞いてきた。
「メイゲツのおしとやかなおっぱいもよかったんじゃないんですか?」
セイフウも、詰め寄るように問いかけてくる。
「キミら、どう答えたら納得してくれるの?」
見た目が女子高生だから違う意味でドギマギするんだが。
「「触るとしたら、どっちの胸のほうが好みかって話です」」
「だから、なんでそういう話になるのよ?」
「だって、あのアプリを友達から教えてもらった時に、ちょうどセイエイさんと一緒に遊びでやったんですけど」
「高校生になってすこしは届くかなと思ったら……ぜんぜん勝てませんでした」
オレからの質問に答えながら、まるで自滅したかのように落胆する双子を見下ろしながら、
「あぁっと……」
オレは眉間に皺を寄せながら、猟犬が高校生になったときのことを想像した。
いや、予想とはいえ、目の前にいる双子の高校生状態も、魅力的といえば魅力的だ。
だけど双子の反応から言って、セイエイのとある部分は今でもじゅうぶん目立つからなぁ。
それが高校生くらいになれば、今より成長しているのは確実だろう。
「っと、あの二人は母親もスタイルいいらしいからな、大きいのも遺伝らしいし」
そもそも、これ見よがしにみせないだろうしな。
そんなオレの的外れな(どういえば正解なのか)フォローはむなしく空回りしたようで、
「それでも……高校生くらいのセイエイさん――予想だとHくらいはあるって結果が出たんですよっ!」
悔しさのあまり、メイゲツは恥じらいもなく愚痴を叫んだ。
「お、おぅ……」
もしそれが本当だったら――、いやさすがにセイエイに失礼だからやめておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます