第314話・篝火花とのこと
「よし。そろそろ落ち着きましたか?」
円卓に座り、テーブルに頬杖をついてオレを
「
なぜオレの言葉遣いがおかしいかというと、ニネミア――いや不正ログインの罰則としてNODでのプレイングアカウントを剥奪された(さいわいVRギアそのもののアカウントは削除されなかったようだ)カルムを殺しかけようとしていたオレに対して、ビコウが最大出力の魔法文字で黙らせようとしたからである。
その爆撃をもろに受けたオレは、顔はぼこぼこに膨れ上がり、四肢は壊死して、動けるのが可笑しいレベルにダメージを食らっている。
まぁ、死なないというか、デスペナにならないのは、ここが[恵風]の店内だからだろう。
いや、むしろ痛感があるから激痛があったし、今でもからだじゅうが軋むように痛い。正直、喋るのも辛い。
「お、おねえちゃん……、さすがにやりすぎ」
セイエイですら冷や汗を強いられる始末。
「人が事前に忠告していたのに、それを聞こうとしないで
そんな姪っ子の、オレを心配した声を聞いてか聞かずか、心猿は右手に持ったワンドをかるく天にかざし、左手に魔法盤を取り出しては、ダイヤルをグルグルと回していらっしゃる。
「って、ビコウッ? あんた言葉遣いが若干間違ってるからッ! まぁ襲い掛かろうとしたことに関しては間違ってないけど」
ナツカからのツッコミを耳にかけながらも、
「それで、結局のところ、****……って、今はカルムだっけ? あなたがジンリンをVRギアのテスト募集に誘ったところまでは間違っていない――と?」
ビコウが睨みつけるように、カルムを
「――こ、答え……る……前に……ひとつ……きいて……いい……です……か? ど、どう……して、こん……な恥ず……かしい格……好に……させ……られて……る……んでしょ……うか?」
今のカルムを簡単に説明するなら、釣り上げられた大間のマグロといったところ。
たた両手首、両足首を縄で結ばれて天井に釣り上げられているというよりは、亀甲縛りで四肢を結び上げられている。
「まぁ、議論の結果、カルムも被害者だったということにはなるけど、まだ不安要素が消えているわけじゃないからね」
それを仕掛けた妖精が、ちいさく笑みを浮かべる。
キミら、何気にやることなすこと酷くない?
「というかひとつ確信しておきたいのは、どうしてボクのリアルのことを知ってるのかなってこと。一応名前に関してはそこで達磨同然になっているバカがボクの本名を暴露したことだけならいいけど」
ジンリンがカラカラと笑いながら言う。
チラリとオレを見下ろしながら、話を進める妖精を一瞥するや、ギロリと笑みを返される。
――はい、言葉や態度とは裏腹に、全然笑っておりません。
「そ、それは……名前だけ……なら、シャ、シャミセン……さんのした……ことで間違っ……て……ない」
カルムの回答に、全員がオレを見据える。
自分が仕出かしたこととはいえ、疑うような視線を向けられると、それはそれでこたえる。
「で、でも……それ……だ……けな……ら、ジンリンの本……名……くらい……しか……わか……ら……な……い」
「つまり、あなたにジンリンの本名だけではなく、ありとあらゆる個人情報を伝えた人がいる……ってこと?」
「それってサイレント・ノーツの中で? それともボクをVRギアのテスト募集を教える前?」
「…………」
ジンリンの問いかけに、カルムはすこしばかり黙り込んでから、
「そろそろキャラ作りはやめたほうがいい? ちょっと長時間こういう喋り方をすると肩がこるから」
と、
「普通に喋れたのか?」
オレがおどろきを隠せずにそうたずねると、
「いいえ、普段はあの喋り方ですよ。というか現実だと
「ひとつ聞いてもいい?」
カルムの言葉をさえぎるように、セイエイが挙手する。
「もしかして、それが理由で――――」
「……ご想像にお任せします」
カルムは小さく哀れみを孕んだ笑みで答えた。
「……わかった」
その回答で察したのか、セイエイはちいさくうなずいてみせ、椅子に腰を下ろした。
「聞くだけ野暮……かね?」
「まぁ、ご想像にってことだからね。近からず遠からずってところじゃない?」
オレの問いかけに、ナツカや白水さんたちはちいさく肩をすくめた。
カルムのリアルを推測するつもりはないが、おそらく吃音が原因でいじめられていたことがあったのだろう。まぁ、イジメなんてもんは理由があればなんでもいいくらいだからなぁ。
「……ッ? でもなんでそんな流暢に話せるんだ?」
いつもみたいに言葉が途切れ途切れなのがカルムの特徴といえばそれまでなのだが、むしろ話すのが辛いなら、最初からそうすればよかったのではと思う。
「あぁ、たぶん彼女のVRデバイスには言動用のキーボードデバイスがあるんじゃないですかね? さすがに思ったことを言葉にするほど高性能ではないですし、
ビコウの説明に得心する。
「あぁ、だからちょっと冷たいなって思ったんだ」
セイエイの言葉に、カルムはけげんな顔で彼女を見据えた。
「どういう――こと?」
「あぁ、気にしなくてもいいわよカルム。この子もこの子で対人恐怖症が無いわけじゃないけど、生と機械とじゃ感じ方が違うってこと」
カルムが首をかしげるような仕草をするにたいして、ビコウがそう答える。
「セイエイ、どうかしたのか?」
「さっきまで話してたカルムの言葉遣いは正直言ってイラッとしてた。でも今みたいな話し方だと思ったことをあえて話していないって気がする」
「たしかに、基本VRギアの会話ってマイクデバイスを使ったやつだから、ちょっとした独り言でも聞こえちゃうことってあるんだよね」
ナツカが嘆息をつきながら眉をしかめた。
「だからジンリンに聞きたいんだけど、ジンリンを誘おうとしていた人って――本当にカルムだったの?」
「――っ?」
セイエイの問いかけに、聞かれたジンリンは理解できないといった焦りの色を見せる。
「――ちょ、ちょっと待ちなさいセイエイ? みんなの話を聞いてた? 私たちはカルムがジンリンを誘ったって言う流れで話をしていたのよ?」
さすがに冷静を保っていたコクランが、たったひとつの疑問だけでここまで狼狽するか。
だけど……だからこそ、セイエイが疑問に思ったことは理解できる。
「いや、セイエイの疑問は間違ってないぞ」
「***、それってどういうこと?」
セイエイの疑問に勘付けなかったジンリンが、焦燥とした顔つきで俺を見据える。
「考えてもみろ、今オレたちが使っているデバイスと、サイレント・ノーツをプレイするために必要なデバイス……。このふたつの大きな違いを考えればすぐにわかるはずだ」
オレの確信を得たような言葉に、何人かがハッとする仕草を見せた。
「【言動】か【文字】かの違い?」
ハウルの言葉に、オレではなく、セイエイがうなずいた。
「それを視野に入れると、さっきまで話をしていたカルムの言葉遣いはリアルの……生の声なんだよ。だからそれに関してイラッとはしても、こういう障害なんだなって納得はいく。」
「だけど、わたしたちのことを考えて、キーボードデバイスを使って言葉を作っていたとしたら、それはMMORPGによく使われる文字でのチャット機能を音として伝えている」
セイエイとビコウが説明していく。
「ってことは、それって……」
「私の名前を使って、ジンリンを誘った人がいる」
縄を解かれたカルムは、それこそ肩を落とすかたちで椅子に腰を下ろした。
「あぁ、しかもご丁寧に誘ったカルムが応募していないことを不信がらせないように、カルムの家にもテスター用のVRギアを贈与したってことだ」
話を解けば解くほど、どんだけ用意周到なんだと疑問が湧き水のように溢れてくる。
「それでボクはテスト中に彼女とあったわけだ。まぁ基本使い慣れた名前でプレイする人もいるしね」
ジンリンが、あきれたような苦笑で嘆息をつく。それこそオレのほうを見ながら。
はい、面倒だから普段使っているプレイングネームでやってる人がここにいますよ。
「たぶん、それも織り込んでだろうな」
「だけどあの時、ジンリンが私の近くからいなくなったのはどういうこと?」
カルムがジンリンを見据え、そうたずねた。
「そこが一番の謎なんだよね。ボクがカルムから橋渡しのクエストの攻略法を聞かれた後、視界にボヤッとなにかが光ってさ、何かあるんじゃないかって調べようとしたら、急に意識が遠退いた感じだったし」
「その時の記憶はあるんだ」
普段、あまり顔の表情の変化が乏しいセイエイが、頭に『?』を作るように目を小さく見開き、ジンリンを見る。
「全部が全部覚えているわけじゃないし、たぶんボクという人格や記憶からいくらか取捨していることは確かだけど」
ジンリンがそう説明しながら、ちらり……とオレのほうを見据える。
「それなのにシャミセンが好きだった事とかはひとつもわすれていなかったんだ」
「ぶぅぅううううううっ?」
猟犬の一言に、妖精は盛大に吹いた。
「い、いやあの……そのですね? シャ、シャミセンさまのことはほとんど忘れていなかった……というか、記憶として消されていなかったのは、自分の名前とか家族構成。そ、それからか、彼と一緒に遊んでいた頃の思い出とか云々……」
慌てふためく妖精に、セイエイ以外の、女子の何人かがニヤニヤと笑っておられる。
まぁセイエイの場合は、思ったことをそのまま口にしただけだからだろうけど。
「って、なんでみんなして笑ってるんですか?」
妖精がそう愚痴をこぼすや、
「いやだってねぇ。『
と
「シャミセンさんのことが好きなんだなぁってのは行動とか色々と察してましたけどね」
「まぁ、こうやってまた好きな人と一緒にいるってのは神の悪戯ってことで諦めなさい」
煽るように
「違いますからね? いや***が好きだったのは本当ですけど、だからってそれとこれとは話がまったく違いますからねぇ?」
三妖にからかわれている妖精は、更に顔を真赤に染めていく。
一言云って無視すればいいのに、反論とかしてると更にからかうと思うぞ。
「あぁっと、色恋沙汰とかで姦しくなるのは事が終わってからにしてくれないか? 今はジンリンを誘ったのが誰なのかっていう話だろ」
脱線しようとしたのを黑客が止めに入った。
「そうですな。とどのつまり、カルムさんを
シダさんが、カルムを見据えそうたずねる。
「平日だと可能だったとは思いますけど、当時の私は今と変わらず学生なので、学問優先だったからログインする時間もそんなになかったはずです」
と答えた。
「逆に休みの日だと、オレや斑鳩がジンリンと一緒にいることが多かったから、ジンリンひとりを誘うこともままならないってことか」
「まぁ、そもそも犯人の狙いはジンリン一人だけだったとしたらってことになるんだろうね」
「そういえば、ひとつ確認したいんだけど、カルムってボクのレベルを利用してレベル上げしようとかって思ったことない?」
「あぁ、シャミセンが掲示板で聞いたことか?」
ナツカとビコウ、ハウルといった、オレが書き込んだ掲示板の内容を見ている三人が、ポンと手をたたくように理解する。
「私もその掲示板を読みました。というよりはフレンド登録していたNODのプレイヤーから教えてもらったんですけどね」
カルムは苦笑を見せながら、
「はっきり言って、私じゃないですよ」
と口にした。
「それじゃぁ、私が見た、ジンリンさんが自殺したっていう与太話が書かれていた掲示板も」
テンポウが暗澹とした顔でビコウやみなを見渡す。
「今回の事件の犯人が仕向けたってことでしょうね」
「ボクが自殺したことは本当ならここにいる人間で知っているのはたった二人」
ジンリンはオレとハウルに視線を向ける。
「言っておくが、オレは友達を売るようなことはしないぞ。ハウルなんてもっとだ」
ハウルを見ると、沈思黙考してはいるものの、ジンリンの問いかけに激しく首を振った。
「それは疑ってもいないから心配しないで。ボクが懸念しているのはヒロトの存在だよ」
「たしかNODのβテスト中の事故で意識だけの存在になったっていうプレイヤーだっけ?」
ビコウが眇めるように、誰に聞くわけでもなく言った。
「彼がどういう経緯でそうなったのかは、本人が覚えていない以上突き止められない。だけど……」
「もしジンリンと同じようなことだったら――魔女に殺されたプレイヤーはどこか別々の場所でさまよっているってことか」
オレはそう言うや、シダさんや黑客に向かって……、
「ひとつ確認したいんですけど、
そうたずねたが、予想していた通り、名前が伏せられる形で発せられた。
当然、なにを聞こうとしていたのか判らず、首をかしげるシダさんとムッカ。
「いや、誰のことを聞こうとしたのかわからないことには」
「シダさん、そんなに気にすることはないよ。今この場に二人がいる状態でプレイヤーネームが使えないってことは――本当の魔女は運営スタッフの中にいるってことになるっ!」
ビコウの言葉に、運営スタッフであるシダさんと黑客が唖然とする。
「どういうことだ?」
「それはあっちらにも心当たりがあるなビコウ。……お前さんが運営アカウントを使って送ったメッセージで****の名前がいえなかったことと繋がっておるのだろ?」
ケツバが二本の指を見せるようにたずねる。
おそらくだが、ニネミアのことを言ったのだろう。
「はい。本来なら運営スタッフがこうやってプレイヤーの前に出ることはありません。あるとすれば警告とかそういうことを直接伝えるためだと思います。だからこそ本来プレイ中は使えない不謹慎な発言やクエストなどのネタバレなんかはNGワードとして伏せられる。だけどプレイヤーのネームだけはNGワードにはならない」
「それが使えないってことは、魔女は殺したプレイヤーの名前を、運営スタッフを通しても使えないようにプログラミングしたってことか」
「たしかにその方法なら、こうやって運営スタッフが一緒にいて、何もかもが使えるような状況でも、NGワードとして処理されれば誰のことを言っているのかがわからなくなりますね」
お茶酌みをしていた麗華さんが、ひとりひとりのティーカップに飲み物を注ぎながら言う。
ちなみにお茶はロイヤルミルクティーとかコーヒーとかココアとか、緑茶とか、梅昆布茶とか……。
「また想像していたやつよりも渋いものをお飲みになりますな」
自分の前に出されているロイヤルミルクティーで一口喉を潤わせてから、ちらりと、梅昆布茶が注がれているティーカップに口を添えている白水さんに視線を向けるや、
「そうですか? まぁ一緒に出された茶菓子を見て、一度変えてもらいましたからね」
と、何食わぬ顔で言った。ちなみにみなの前に出されているお茶請けは、塩豆大福とバタークッキー。そのバタークッキーとおそらく同様の生地とココアを練りこんだ生地で作ったチェックと渦巻きのクッキー。
それらを思い思いに口に運びながら、話を進めていた。
「ぬぐぅ……、そういえば、なんでカルムのアカウントを削除なんてしていたの?」
セイエイが塩豆大福を口に含みながら、器用に話す。
「あぁ、たぶん前にシャミセンさんがあった時と同様じゃないかしら。あの時は無罪放免だったけど、今回ばかりは不正アカウントとか乗っ取りの疑いもあったからね。NODに対しては已む無しってところでしょう」
ビコウが、片眉をしかめながらカルムを見据える。
おそらくそれに関して文句のひとつくらいは言われると思ったのだろう。
「たしかに退院してからログインしようとしたらアカウントが削除されていたので慌てたのは本当です。だけど話を聞く限り、魔女が私を使って悪いことをしていたというたしかな証拠にもなった」
「不正アクセスを察しすることって――」
「できなくもないが、なにせ彼女が普段ログインしている時間帯であったし、言葉遣いもおかしくはなかったからな。システムも正常に動いていた」
「システムも正常……ねぇ――」
それに関して、ひとつ疑問が出てきたのだが、
「VRギアにある、【人の感情を読み込むシステム】は?」
と、
「ハウル、なんでそんなことを?」
ビコウも理解が追いつけず、苦い表情を見せる。
「不正ログインって、他人が使っているネットサービスとかにログインして、データを書き換えたり、悪いことをするってことですよね? ほら青い鳥のアカウントが乗っ取られて、フォローしている人にウイルスがあるページのURLをダイレクトメールで送ったりとか」
「まぁ、そうだけど……」
ナツカが口に手を添え、
「ちょっと待って、これってムリじゃないの?」
パッと何かに気付いたのか、ビコウを睨んだ。
「どうかしたの? 美人が夜叉に堕ちたみたいな顔をして」
「誰が夜叉よ。ってそんなことよりビコウ、――VRギアをデバイスとしたVRMMORPGって痛感とかそういうシステムがあるから、たしか人の脳波が正常じゃないとログインすらできないんじゃなかったっけ?」
ナツカの一言で、ビコウは口をポカンと開いた……次の瞬間――、
「あぁぁああああああああああああっ!」
と、それこそ猿の雄叫びかのごとく、悲鳴を上げた。
「うわぁ、なんでそんな極々当たり前のことを思い浮かばなかったんだろ?」
「え? どうかしたんですか?」
「いちおうセーフティー・ロング製のVRギアに限ったことなんだけどね、精神……というか躁鬱っていうのは心じゃなくて脳にも影響を与えるから、大怪我や瀕死レベルといった下手な痛感を長時間受けると、現実と非現実の区別がつかなくなって、最悪ゲームどころかリアルにも影響を与えるから健康状態じゃないとプレイできないようにセッティングされているのよ。睡魔に襲われたプレイヤーに対して、これ以上のプレイは危険だと判断してギアが強制ログアウトを促すのはそれが理由」
「で、犯人が他人のデバイスをハッキングしてプレイしていたとしたら、まずBMIによる脳波検査ができないから、普通に考えてログインすらできない」
「つまりはあれか? カルムや魔女が殺したプレイヤーが所有しているVRギアを通してではなく、自分が使っているVRギアを使って、相手のアカウントでログインしていたってことか?」
「そういうことになるわね」
「でもたしかそれって話し合いの中で推測として出ていたことじゃない」
ギアの中にあるHDDのデータを抜き取って、それを自分のデバイスの中に保存すれば――、
「いや、その方法だとどう考えても普通はムリだ」
どうあがいても、最初のログインの時に検問を受けて、データの不正改竄をしたとして弾かれる。
「そういえばシャミセン、星天遊戯であったイベントの前にアップデートし忘れていて、それを直したことってあったよね? その時って、プレイングデータだけをバックアップしてたの?」
「あぁ、プレイヤーの情報が保存されているデータは別のフォルダにあったからな、それだけを別のところにバックアップして……」
セイエイの質問に、オレはそう答えてから、
「もしかして、ゲームの基本データファイルの中にプレイヤーのアカウントデータが入ってるのか?」
ビコウや、シダさん、ケツバといった運営スタッフにそうたずねるや、みな答えるようにうなずいてみせた。
「シャミセンさんがバックアップしたのは、あくまでゲーム内でのキャッシュに過ぎないんです。アップデートによってプレイヤーのステータスに修正があったりした場合、そのデータがキャッシュとして残っていると、バックアップでプレイヤーのデータファイルを上書きされてエラーを起こしてしまう危険性があるから、それを回避するためにプレイヤーのアカウントなんかは基本データの中に入った状態なんですよ。もしこれがVRギアに登録されているアカウントデータと照合できないとログインどころか、最悪デバイスそのものが使用不可になるんです」
それをログイン時に検問して、問題がなければログインできる。という流れか。
「逆にそれが改竄できるかといえば、到底ムリだな。実を言えば、おれですらハッキングできん」
黑客が苦言を呈するように肩をすくめた。
中国の一流企業が利用しているデータサーバーですらハッキングしてしまう男だ。
余程のセキュリティーがされているってことはたしかだな。
「そのシステムを作ったのは、もしかしてマミマミとかじゃないよな?」
彼女が言うには、サイレント・ノーツのGMだったみたいだし。
「いや、それはないですな。彼女はたしかにサイレント・ノーツのスタッフでしたが、NODはそれよりも後からシステムなどを組んでいますから、彼女が関わったということはありません」
シダさんの一言で、オレの考えは叩き壊される。
「そうか。彼女の言うとおりなら――」
んっ? そういえば、マミマミ――ザンリとあって色々と話をしたあと、去り際に言っていたのって――。
『だが、忘れないでほしい。あこがれを向けることは大いに結構だが、それが次第に自分の視野を狭める。相手は人間だ。たとえそれが嫉妬によるものだとしてもだ』
――嫉妬?
オレは言葉を口にしたつもりはない。
だけども、
「シャミセン、どうかしたの?」
「シャミセンさん、嫉妬がどうかしたんですか?」
色々な人が、オレが口にした言葉について問いかけていた。
オレは、そんなみんなの声が聞こえないほどに、自分の考えが間違ってほしいと思えたし、
「ま、まさか――魔女がジンリンを苦しめようとしていた理由って――」
その想像が嘘であってほしいと願いたかった。
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