第163話・六弦とのこと
「あぁ、セイエイちゃんがそのアホプレイヤーからしつこい勧誘にあっていて、その人からのメッセージを拒否したいけど、フレンド以外のメッセージを拒否してしまうと、NPCからのクエスト依頼メッセージが受け取れないから、その対策法として『ブラックリスト』の魔法文字を使わないと特定のプレイヤーからのメッセージ拒否ができないってことですか」
事情を説明したオレとテンポウを見ながら、白水さんは片眉を顰めながら確認を取るように聞いてきた。
「昨日はセイフウが魔法文字で[B]を使っていたけど、メイゲツからもらったって本人が言っていたし、セイエイも一緒にいたから、多分オレが聞く前に確認していると思います」
「しかし、解せないことがあります」
白水さんが、ジッとオレを見据える。
「どうしてシャミセンさんは誰かのために身を削るようなことをするんですか? そもそもそのことだってセイエイちゃんが一人で解決できたことではなかったんですか?」
そう訊かれ、オレはテンポウを一瞥する。
その不自然な行動に勘付いたのか、
「テンポウさんも……その理由を知ってるってことですか?」
と、白水さんは質疑をテンポウに向け直した。
「正直に言いますと、オレのトラウマと関係してるんですよ」
「トラウマ……ですか?」
「ちょっとその話をするには、このゲームのシステム上どうもひっかかるところがあるみたいなんで――魔法盤展開っ!」
そう口にしてから魔法盤を右手に取り出す。
【INTHFV】
オレの頭上には六文字の魔法文字が展開された。
◇【サイファー・モード】が使えるようになりました。
・このモードでの会話のみ、NGコード対象外となります。
・プレイヤー同士、もしくは対面しているプレイヤーにのみ会話ができるようになります。
◇【白水】・【テンポウ】・【ジンリン】と【サイファー・モード】をしますか?
・【は い】/【いいえ】
サイファー・モードの選択ポップが出て来た。まよわず[はい]を選択する。
「あれ? シャミセンさんからなんかメッセージが来ましたけど」
「あ、私の方にも」
白水さんとテンポウが同時にオレを見た。どうやら相手にはまずメッセージとして送られてくるようだ。
「思ったけど、これって[
「できなくはありませんけど、クエスト情報などに関してNGコードが働きますからね。やっぱり[暗号]や[陰行]のほうが情報交換にはいいですし、そもそも[
なるほどね。ジンリンから改めて聞いて納得。
二人からはそれぞれO.K.の返事が来た。
「それじゃぁ話しますかね。と言っても単純明快で、テンポウはもうその理由を知ってるんで、二度手間ではあるんだけど」
一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「オレのちいさい時からの親友が、現実どころかネットでもいじめにあって、それを苦にオレの目の前で投身自殺をしたんです。そのどちらとも気付けばオレがキッカケだった」
「気付けば? その両方の元凶がシャミセンさんじゃないんですか?」
「うん、それにひっかかってくれたってことは、違和感があるってことでいいですかね?」
そう聞き返すや、白水さんはゴクリとうなずいた。
「イジメをしていた人間が、いくら長い付き合い……とは言いませんけど、未だにネット以外での接点がない私に知られたくない過去をこうやって呑気に話している以上、その言葉に違和感があるとわからなければ、まず誰しもがシャミセンさんがイジメの元凶だと思ってしまいますからね」
「それに関しては私から説明させてもらいます。私もシャミセンさん本人から聞いた話なんですけど、[サイレント・ノーツ]っていうMMORPGに[エレン]というプレイヤーがいて、シャミセンさんと斑鳩さんがその人のリア友だったんです。その時シャミセンさんが間違ってテキストチャットの時にエレンさんの本名を書き込んでしまったのが原因みたいで」
「つまりそのエレンさんのリアルを知っている人がそのゲームのなかでイジメをし始めたってことですか?」
「[サイレント・ノーツ]自体はエレンが自殺する前からやっていたし、かなりの有名プレイヤーだったらしいですからね。まぁ高校をどうやって受験したのかって話になるんだけど……あれ? そういえば漣ってどうやってオレや鉄門と同じ高校に来たんだろうか?」
「たしかその人は小学生の時にあることが理由で引っ越してませんでした?」
テンポウが思い出したように、それこそ引っかかる部分があったように言う。
というか、再会するまで連絡すら取ってなかったものなぁ。
「もしかしてですけど、試験による入学ではなく、転入試験によるものだったんじゃないでしょうか?」
「そんなの可能なんですか?」
逆に考えれば……学校には通っていたけどカウンセリングルーム通いにしてイジメをしていた人間とは接点を断っていれば学校には登校していたことになるだろうし、どこの高校を受験するのかも隠匿していた可能性もあるな。
「高校入学は本人の自由ですからね。義務教育はあくまで中学までで、高校からは試験をしないと入れません。でもこういう考えができませんか? もともと入っていた高校でもイジメを受けていた。それに耐え切れずに転校をした。小中学生ならそもそも転校するか私立に入るかしないといけませんけど、高校なら少々遠いところからでも通うことはできますからね。学校には一身上の都合によりとかなんとか言い訳をして転校すればいいわけですし」
連と再会したのはあくまで高校を入学してからだったけど、そういう考えも可能ってことか。
ただ実体験みたいに話してませんかね? 白水さん?
「なんかすごい実感じみてるんですけど」
オレが思ったことをテンポウが代わりに聞いてくれた。
「あぁ、私の高校のクラスメイトがイジメにあっていましたからね。結構陰湿なもので、しかもその子自殺未遂をするほどでしたけど、学校側は特に何のアクションもなくスルーしていたようです」
身近にそういう人がいたからこその反応だったってことか。
「外からの評判重視だからなぁ学校って、イジメなんてどこでもあるようなものだけど」
「私はシャミセンさんとその……エレンという人との関係とは違って、どこか冷めた関係でしたからね。それにイジメられて当然というべきか、女子って出る杭は打たねばがありますから」
「たとえに、ビコウとセイエイと友人でもなんでもなければ、ってことか」
「それってどういう意味ですか?」
テンポウが首をかしげる。
「テンポウがオフ会でのビコウとセイエイにすごい嫉妬心を吐露してたでしょ? ああいうのをオレなんかに話すようなことじゃない。でもオレや白水さんも共通して知り合いであり友人だ。だから愚痴を聞かされてるくらいで、嫌な気持ちにはならない」
というより、そういう愚痴を零すっていうのは信頼されてると思っていい気がする。
「あ、私そんなつもりで……でもちょっとそんな気持ちはあったかもしれませんけど」
「別に誰かを羨むってのは可笑しいことじゃないからね。羨むというのは妬むって意味と同じだから。テンポウがあの二人のスタイルの良さに嫉妬してるってのは星天遊戯の時から知ってたし」
「シャミセンさんは、ちょっと一言多い気がするんですけどね? わざとですか? それとも天然でそういうことを平気で言うんですか?」
いやさすがに気心の知れた人以外に素は出しませんよ。
「話を戻しましょう。つまりセイエイちゃんが執拗な勧誘でゲームが嫌になって、挙句学校でもイジメみたいなことがあったら……そのエレンさんと同じようなことがあるかもしれないって思ったから見過ごせなかったってことですか?」
「極論を言えばね。ただネットでしか自分の居場所がないって思ってる人もいるってのはたしか。MMORPGだと結局はVRみたいに長時間画面を直視する環境ではないから、部屋に閉じこもって何時間でもやってる人だっている。ビコウが病院で植物人間状態であっても脳が生きていたからVRギアを通じて星天遊戯にログインすることはできていたけど、オレの知る限り長時間での連続プレイはしていなかったと思う」
「星天遊戯のスタッフでもあった自分はログイン時間に制限がなかったって本人は言ってましたけど、深夜帯のログインは極力していなかったみたいですからね」
そこは本人から、「夜は寝るものでしょ?」って至極当然のこと言われたからなぁ。
「あぁ、それであんまり深夜帯にログインしてもフレンドリストに入ってなかったってことですか」
白水さんは嘆息をつきながら、
「分かりました。これもなにかの
なんか白水さんから安堵したような視線を感じたんだけど、まぁこれでセイエイの問題は解決したでいいのかな?
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