第158話・澆季とのこと
さて、気を取り直して目の前のナイトサラマンダーに狙いを定める。
地中に潜ったサンドラゴンをどうするべきか。
モンスターの特性なのか、自動的にヒット・アンド・アウェイというか、サッカーで言うチェンジ・オフ・ベースみたいなことをしてくるから、攻撃を仕掛けようにも、いつの間にか潜っていてなんともタイミングが計れない。
「[
まぁ、避けられることのほうを懸念すると、魔法盤のダイアルを回しているうちに攻撃されるのがオチだろうな。
ここは素直に、ナイトサラマンダーとの間合いをイエローに保って、攻撃魔法を使ったほうが無難か。
「魔法盤展開っ!」
そういえば、魔法文字って属性が違うやつで合体魔法みたいなことってできないんだろうか?
「それは可能です。このゲームは魔法文字(英語)が他のRPGに使われる魔法に準じていれば、いくらでも組み合わせることも可能になります」
ジンリンがそうアドバイスをくれた。
「えっと、例えば[砂]と[嵐]とかだったら[砂嵐]みたいなこともできるってこと?」
「はい。まぁどう組み合わせるかはプレイヤーの知識によりけりですけどね」
まぁ、教えてもらった以上試してみますか。
魔法盤のダイアルを回し、魔法文字を展開させる。
【CYQMCWZVJ】
砂嵐が吹き荒れ、ナイトサラマンダーを飲み込む。
ダメージはかなりあたえられたが、ギリギリのところで耐えやがった。
「あぁこういうのが一番イラつく」
自分の場合は助かったと思うけど、攻撃して倒せなかったことには苛立ちが出るな。まぁほかのゲームでもそうなんだけど。
あれだ、フルコンボできると思って油断してたらミス一個がでるとかそんなところ。
「オオオオオオオオオオオッ!」
攻撃を耐え切ったナイトサラマンダーが、咆哮をあげ、こちらへと近寄った時だった。
どことなく、フィールドに窪みがあるんだけど、気のせい?
その窪みにナイトサラマンダーが足を踏み出した時だった。
「オオオオオオオオ? おおおおお? オオオオ?」
落とし穴?に落ちていくナイトサラマンダーがなんとも拍子抜けした叫びを上げ、終いにはその落下ダメージでロストしたようだ。
「えっと? なにこれ?」
なんであんなところに落とし穴ができてるの?
「あっと、おそらくハウルさまが爆裂魔法みたいな、フィールドにも影響を与える魔法を使ったことで、フィールドの状態に変化があったんだと思います」
ジンリンが唖然とした声を出しながらもしっかりと説明してくれた。いや、それでも落とし穴って……。
まぁ、気を取り直して、一向に出てこないサンドラゴンに警戒をもとうか。
「っていうか、ちっとも攻撃してこない件について」
他の三人は結構戦闘してるんだけど、今サンドラゴンと戦ってるのってオレだけなんだよなぁ。
それにモンスターが出て来ないとダメージ与えられないし。
「いっそのこと、そこら辺のモンスターを一掃するか?」
「――ダジャレですか?」
オレの言葉に、ジンリンが唖然とした視線を向ける。
偶然そうなっただけ。というかさほど面白くねぇから。
「魔法盤展開っ!」
ダイアルを回していき、なにがいいかなと考えていく。
そういえばあのスィヌスィアって闇属性だよな?
ってことは光属性の魔法を使えば……。
「あっ!」
ピカーンと、頭に電球が点きましたわ。
【HZXXRYVNY】
魔法文字を展開させていき、ちょっとおもしろい魔法文字を使いましょう。
まぁ、これで判定されなかったらただのJTの無駄遣いだけど。
魔法が成功したらしく、オレを中心に光が円形状に広がっていく。
バトルBGMの中に
「しゃみせーん」
んっ? なんか不服そうな声がひとつ。
声の方を見るや、セイエイが頬を膨らませ、ジッとオレを睨むように視線を向けていた。というかすごい怒ってる。
「どうかした?」
「人のモンスター倒したらいけないってみんなで決めたのに、今の魔法でわたしが倒そうとしていたの一匹倒してる」
マジで? まぁ全体攻撃とかそういうレベルのやつじゃなかったし、そもそも攻撃範囲にモンスターがいたことも悪いわけで……。
「反省はしてない」
てへ。とオチャラケた時だった。
「……………………………………………………っ」
セイエイから禍々しい負のオーラが見えてる。
「ちょっとムカってしたから叩いていい?」
「まさかのMK5ッ?」
ただ、相手に了解を得ようとしているところを見れば、まだ自制できてるようだ。
「ごめんなさい」
頭を下げて許しを請う。さすがにやり過ぎた。
この子の場合、根が素直だからこそ、変に煽ると真に受けて事態が悪化する。ここは素直に謝るほうが得策だな。
「次、気をつけて」
刺が抜けたような声色から察して、すこしだけど許してくれたみたいだ。
「中学生に怒られる大学生って」
ハウルとセイフウがあきれた声で失笑している。
さて、今の攻撃でどうなったんだろうか? いちおう全部倒したってわけではないけど。
「回復っ! 回復ぅっ! 今のうちに回復しとこうっ!」
さほどダメージを食らっていないオレとセイエイを余所に、結構ダメージを食らっていたセイフウとハウルが、ここぞとばかりに回復魔法とかポーションを使ってる。
スタンは幸運値とかに影響してるから、どうなんだろう。
スタンが解除されるまでに二人のHTが回復し切るかね。
「……ふたりとも、スタン直後の攻撃は当たるとキツイから、離れて回復したほうが――」
セイエイがそう教えた時だった。
ゴボッ――。
なんか聞き覚えのある声が聞こえて……。
「くそっ! すっかり忘れてたっ!」
そうだ。そうだった。サンドラゴンのことを忘れていた。
あんにゃろ、土の中にいたから、[
ズズズ……と、土が轍のように盛り上がっていき、一気に加速していく。
あれか? モグラにとって土の中は水の中。水を得た魚ってことか?
「くそっ! セイエイッ!」
オレの声に反応してくれたが、タイミングが遅かった。
セイエイの足元の土が盛り上がり、そこから飛び出したサンドラゴンがセイエイに攻撃を仕掛ける。
「っ!」
ただただやられるほどやわなセイエイじゃない。
肉を切って骨を断つと言わんばかりに、攻撃を受けた腕とは逆の手でサンドラゴンのカラダを掴み取り、そのまま地面へと叩き付けた。
サンドラゴンのHTが急所攻撃の影響か、かなりダメージを与えられている。
サンドラゴンの残りHTは半分を切ったし、スタン状態になってくれたのか、ピクピクと動いているだけで攻撃してくる気配がない。
「セイエイ、大丈夫か?」
「……大丈夫。部位破壊判定にはなってなかった」
それは良かった。ただ、声にいつもの元気さがない以上、そうとうダメージを食らっているのは確かだ。回復だけはしてあげたほうがいいな。
スタン状態のサンドラゴンに強い攻撃魔法をお見舞いしますか。
「魔法盤展開っ!」
魔法盤を出した状態でも、制限時間はないので、出した状態のまま、なにを使おうか考えた時だった。
「てやぁっ!」
セイフウが、弓矢を使って確実にクリティカルを狙っている。
さすがリアルで弓道をしているだけあって、その立ち振舞はまさに弓道女子。
「ちょっと気になるんだけど、パーティーを組んでいないプレイヤー同時の協力魔法ってどうなるの?」
「それはできませんね。まぁ他のプレイヤーが出した攻撃魔法を利用して、自分が出した攻撃や補助魔法でモンスターを倒した場合は、最終的にその魔法を出したプレイヤーに経験値が入るみたいですけど、それ結構難しいですよ」
ジンリンが、思い出すように説明する。
なるほどね。まぁやってみる価値はあるかもしれん。
「セイフウッ! 今から言う単語で魔法武器作れるか?」
「いちおうやってみますけど、どういうやつですか?」
「
セイフウは「なにそれ?」と首をかしげ、オレを見る。
「いいから。あ、それとモンスターを狙わず、オレをねらえ」
「はぁ? それどういう……」
「いいからいいから」
慌てふためくセイフウを横目に、オレはセイフウに手の平を向ける。
「どうなっても知りませんよっ!」
セイフウが魔法盤を取り出し、ダイアルを回していく。
【GDVQNQK VFQMZ】
セイフウの頭上に魔法文字が展開されていき、彼女の手にはクロスボウのような形をした弓矢の上に、木製の箱が備え付けられている。
たしか[
「えっと、どうやって使うんですか? これ」
「クロスボウって使ったことある?」
「いちおう星天の方で使ったことはありましたけど」
「感覚的にそれと思えばいい。ただ一発じゃなくて連写できるから」
へぇ……と、セイフウはゆっくりとオレに狙いを定めていく。
「魔法盤展開ッ!」
魔法盤を取り出し、ダイアルを回していく。
「行きますっ!」
セイフウの声と同時に、四本の、炎をまとった矢がオレに向かってくる。
【JNVVZVVZZW】
オレの頭上に展開されていく魔法文字が完成されると、二枚一組の鏡が姿をあらわす。
サンドラゴンをその一枚に映し出し、もう一枚でセイフウが打ち出した炎の矢を貫通させた瞬間、サンドラゴンの上空には、セイフウが打ち出した炎の矢が降り注ぎ、サンドラゴンにダメージを与えていく。
「鏡に映るは未来の自分ってな」
矢がサンドラゴンのカラダを居抜き、そして最後の一撃と言わんばかりに、炎とともにサンドラゴンのカラダは火花となって散った。
◇経験値[1]取得しました。
◇セイフウとの連携値[42]
経験値を見て、まぁそうなるよなと嘆息。
「モンスターのXbの合計が7なら、もらえる経験値は1しかないんだよなぁ」
モンスターを倒したところで手に入れられる経験値は期待通りしかない。
ただひとつ、経験値とともに、見覚えのない情報がポップされているのが、妙に気になって仕方がないのだけど――。
「……どういうこと?」
これって、俗にいう信頼度とかそういうやつ?
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