第131話・広言とのこと
翌日。日曜日ということもあってか、お昼前になると、第二フィールドの拠点である[エメラルド・シティ]の街道は店番や、道行くNPCよりもプレイヤーのほうが多くなってきていた。
オレはといえば、本日は珍しく一日オフ。
しかもこのゲーム、星天遊戯の時と違ってログイン時間に制限がない。
「これを
そう粋がってみたが、
「今のシャミセンさまのXbだと、今日中にひとつ上がればいいと思いますよ」
ジンリンがツッコまれた。
確かにそうなんだよなぁ。ビコウからの情報では第二フィールドで出てくるモンスターの最低Xbが3からだから、今のレベルだと経験値は0.5になる。最大Xbの10だともらえる経験値は4だ。
「ちなみに小数点二位以下は計算に含まれません」
「ってことは、例えば経験値が0.99だった場合、もらえる経験値は0.9ってことか?」
そう聞き返すと、ジンリンは首を横に振った。
あれ? でも小数点二位以下が計算にはいらないならそういうことになるんじゃないのか?
「そうとはいえませんよ。今はまだそう思われるかもしれませんが、Xb20の状態で第4フィールドのモンスターの最大Xbはレイドボスを
「えっと?」
「つまり、その状態でXb19のモンスターを倒した場合、計算上は0.95になりますが、四捨五入されるので1になるんです」
うん。言ってることはだいたい分かった。でもレベル上げがすごく厳しくなる気がするんだけど。
まぁ星天遊戯をやっていた身としては、後どれくらいでレベルが上がるのかがわかるからいいけど。
目標は高いより、目視できた方がやる気が出ていいね。
「というか、強いモンスターを倒したのに経験値がほとんどもらえないっていうプレイヤーからの
すごく嫌そうな顔でジンリンが愚痴をこぼす。
◇ハウルさまからメッセージが届いています。
*現在プレイヤーはフレンド申請NGとなっています。
*現在プレイヤーはフレンド申請NGとなっています。
*現在プレイヤーはフレンド申請NGとなっています。
ハウルからメッセージが来ていた。それからフレンド申請も来ていたけど、設定でNGにしているのがポップアップで連続三つ来ている。
後は公式のダイレクトメッセージなんだけど、内容はさっきジンリンが言っていたとおり、経験値における修正内容だった。
とりあえず、ハウルからのメッセージを先に確認しよう。
◇送り主:ハウル
◇件 名:コンバートしたよ(・∀・)
・セイフウちゃんとメイゲツちゃん、ならびにテンポウさんがNODにコンバートしたらしいから、煌兄ちゃんともフレンド登録したいって。
・まだ昼前だからログインしているかわからないけど、午後一時くらいなら大丈夫? 大丈夫ならその時間くらいに恵風に来て
ということは、今NGだったのは、その三人から申請が来ていたってことか。
いちおうフレンドを確認してみると、セイエイとメディウムがログインしている。
ビコウは午前からバイトがあると、彼女から今朝メールでもらっていたので知っているし、おそらく夕方あたりからじゃないだろうか。
∬
第一フィールドの拠点である[ルア・ノーバ]へは、戦闘もふくめて一時間くらいかかってしまった。
そのあいだ、戦闘したモンスターの数は合計で二〇匹。
「それでもレベルがひとつも上がらなかったのがすごく悔しい」
いちおうステータスを確認するために、メニューを開いてみた。
【シャミセン】/見習い魔法使い/4382K
◇Xb:6/次のXbまで52/60【経験値202】
◇HT:54/54 ◇JT:210/210
・【CWV:7+2】
・【BNW:7+2】
・【MFU:12】
・【YKN:7】
・【NQW:20+15】
・【XDE:75+14】
「二回くらい死にかけてましたけどね」
ジンリンが嘆息をつくと、オレのフードに隠れた。
そのまま、パッと消えればいいんじゃないの?
なにやら慌てた様子だったのが印象的だったけど。
「わう」
足元から犬が吠えた。というわけじゃないな。
「おー、チルル」
視線を低くして、見覚えのある黒狼を自分のところへと呼び寄せた。
ついでにテイムモンスターのステータスも確認してみますか。
◇チルル/Xb1/属性【風】
テイムモンスターでも属性はつくのね。
「チルルがここにいるってことは、近くにハウルがいると思うんだけど」
いや、それ以前にどうやって[O]の魔法文字を手に入れたんだろうか?
オレと違って自力で手に入れたってことでしょうかね?
「くぅん?」
首をかしげながら、オレを見つめるチルル。
「ん~っ? どうかしたのか?」
その視線がオレのフードに向けられている。というかジンリンに気付いているな。
「わぁたぁしぃはいぃまぁせんょぉ」
震えるな震えるな。ちょうどうなじのところにいるから、すごくくすぐったい。
「それにしても、まったくほとんど見た目が変わっていない気が」
「い、いちおうテイムモンスターに関してもデータコンバート可能にしていますので、星天遊戯の運営からデータをリンクさせてもらっているんです」
なるほどね。ちなみにこちらでレベルを上げても星天遊戯では反映されないようだ。ただしテイムモンスターのAIはプレイヤーのVRギアにデータとして保存されている(これはキャッシュ扱いにはならないらしい)。
「チルルがここにいるってことはハウルが近くにいるものなんだけど」
マップを開いてみると、周囲にフレンド登録しているプレイヤーのアイコンが見つからない。
まぁレベルを考えれば、まだこのフィールドにいるものだと思うんだけど。
「わう」
チルルが一回吠えると、尻尾をオレに向け、ゆっくりと歩き始めた。ついて来いってことか。
§
チルルに案内されたのはやはりというべきか[恵風]の前だった。
ただし衛生上なのかどうなのか、【ペット(テイム)同伴お断り】と入り口に掛けられている。
それがわかっているらしいチルルは、入り口の横にチョコンと座る。
見た目狼だけど、ほんと犬だよねキミ。
あ、イヌ科だからあっているか。
「はやくはやぁ~く」
フードの中に隠れているジンリンがそう急かす。
もしかして犬苦手?
「あぁジンリン、ちょっといいか?」
「なんですか?」
「動物って人間と違って基本的に本能で動くから、相手が怖いって思うと警戒するぞ。自分は怖くない、被害を加えないって相手に思わせないと」
特に犬みたいに、上下関係がしっかりしている種族にはいいらしい。
チルルのマスターであるハウル……花愛の家でも二匹のマルチーズがいるのだけど、三姉妹と爺ちゃん以外の命令はあんまり聞かないらしい。
これはつまり、その犬たちの上下関係において、自分よりも三姉妹と爺ちゃんが上の立場であり、伯父夫婦は下と判断しているからだ。
あとあまり会うことがないのに、オレのいうことも聞いてくれている。
「でも怖いものは怖いですよ」
まぁこういうのはほとんど慣れだから、一朝一夕で変わるもんじゃないな。
§
店の中に入ってみると、
「シャミセンきた」
と、店の奥から、オレに気付いたらしい声が聞こえてきた。
そちらに目をやると、セイエイと、それから……
◇テンポウ/Xb2
◇メイゲツ/Xb3
◇セイフウ/Xb3
と、三人がオレを見つけるや、頭を下げた。
「煌兄ちゃん遅いよ。男の人は待ち合わせ三十分以上前にはくるものじゃないの?」
双子とテンポウ、セイエイが座っている、すこし広めのテーブルの近くにいたハウルが頬をふくらませていた。
そのハウルは給仕クエストの最中なのか、メイド服を着ている。
「あれ? 三人とも今日から始めたんだよな? その割にはレベルに差があるんだけど」
「あ、それは単純にパーティー状態での経験値がもらえるやつですね。先にオレとメイゲツだけでやっていたんですよ」
「それから今日からじゃなくて、正確に言うと昨日からなんです」
双子がそう言いながら、ジッとオレを見る。
「それはいいですけど、どうしてフレンド申請できなかったんですか?」
あ、やっぱり送ってきたの三人だった。
「あぁごめん。基本的には相手と会ってからフレンド登録したいものでね」
「そうですか」
と、双子とテンポウは然程気にしていない表情で納得してくれた。
「というわけでフレンド登録しましょう」
……テンポウがメニューを開いてオレにフレンド申請を送ろうとしたが、
「設定まだ戻してないから、ちょっと待ってね」
そう言うと、オレはフレンド申請NG設定を解除する。
「うし、これでオッケイ」
そう言うや、
◇テンポウさまからフレンド申請が届いています。
◇メイゲツさまからフレンド申請が届いています。
◇セイフウさまからフレンド申請が届いています。
とフレンド申請が連続で三件届いた。同時に送ってきたよ。
それらすべてを承諾。うん。確実にリストが星天遊戯のメンバーになってきた。
「あ、ちなみにナツカさんたちも、時間ができればコンバートしてNODを始めるらしいです」
セイフウがそう教えてくれた。それはそれで楽しみだ。
「ところでシャミセンさんは今回もLUK優先ですか?」
メイゲツが興味津々といった表情で聞いてきた。
「いや、今回はレベル5単位でポイントをためてから5D5でダイスを振ってから、その残高をXDEに振り込んでる」
「あの、それって最高で20はあるってことじゃないですか?」
セイフウが唖然とした目でオレを見た。
「そうは言ってもそれってかなりの確率じゃないか?」
単純計算で5の五乗。つまり「1/3125」になるんだよ。
「まぁ、今回はXDEで変動する装備があるっていう情報もないから、そういうことにしているだよ」
そう説明しながら、オレは給仕をしているハウルに目をやった。
「店員さん、お冷と軽食ひとつ。それから食材ドロップあったから店長呼んできて」
「かしこまりました。店長ぉっ!」
ハウルが店の奥へと入っていく。
「シャミセン、食材ドロップしたの?」
ちょうど(というかほとんど偶然なのだけど)左斜め前に座っているセイエイがそうたずねてきた。
「ウサギの生肉を五匹分、猪肉三匹分」
「食材が売れるっていうのはいいですよね。星天遊戯の時はお店では売れませんでしたし、制限時間がありますから結構腐らせていたんですよね」
「肉は腐らせたほうがいいって言わない?」
「あ、それ間違い。腐らせるじゃなくて熟成させるが正しいな」
オレや斑鳩、ビコウがバイトしている小料理屋でもその製法を採用しているのだけど、結構難しいと聞いている。
まぁ、星天遊戯の時は腐る前にワンシアに食べさせてたし。
そう考えていると、オレのマントを左から引っ張る感触を感じ、そちらに目をやった。
「どうかしたか? セイエイ」
というか、最近そうやってオレに注目向けさせるの多くない?
「ワンシアお
いちおう腐る前に食べさせてるし、野生だから耐性はあるでしょう。
「心配してくれてありがとうな」
オレはそう言いながら、セイエイの頭を撫でる。
セイエイは、ジッとオレの手を見つめながらも、目を細めていた。
「無意識ですよね?」
「無意識じゃなかったらなんだと」
「やっぱりシャミセンさんってロリコン……」
それを見ていたテンポウと双子が冷やかすように言う。
ロリコンじゃないからね。
「シャミセンさん、店長がお呼びですよ」
ハウルが声をかけてきた。
そのうしろには、妙にひょろ長い、暗い顔の男性が立っている。
「わたし、店長のラディッシュといいます」
声も暗かった。
◇ラディッシュ/Xb3
レベルを確認するとそんなに強くなかった。
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