第117話・禅問答とのこと
フィールドに出てみると、雑草が生い茂っていた。
草は短くても
「いっそのこと、野焼きにしてやろうか?」
そんなことを考えながら、周りのプレイヤーを見ていきましょうか。
[星天遊戯]と戦闘システムが同じなら、ある程度の把握はできている。モンスターがポップしてから、モンスターとの間合いが
円盤を使いこなせていないってところだろう。
「さてとどうしようかな」
今はまだレベル1だから、モンスターのレベルに関係なく、経験値が[10]たまればレベルが上がるってことだ。
ただ通常の打撃だけでは、オレのCWVは低くて心細い。
それに同じシステムということは、属性によるダメージ補正もあるということだな。
「かと言って、全部が全部そうとは限らないわけだけど」
モンスターの一匹か二匹とっ捕まえてみますかね。
「ジンリンッ! ちょっといいか?」
ナビゲーターを喚び出して、ちょっとたずねてみるか。
「お呼びですか? シャミセンさま」
「モンスターの属性って、星天遊戯と同じで七曜なの?」
「いえ、このゲームに登場するモンスターの属性は、四元素に光闇を加えた六属性となります」
四元素ってことは、[火]、[地]、[風]、[水]だったな。
ということは順周りで弱点属性になるってことか。
「それからこれは助言ですが、シャミセンさまが使える石盤に彫られている文字から魔法の
石盤を目の前に展開させ、使える文字を確認する。
「たとえばこういう夜のフィールドをよりよく見やすいようにするにはどうしたら良いですかね?」
クスクスと笑いながら、ジンリンはヒントをくれた。
「えっと、それならまずは[L]だな」
石盤のダイアルを回し、[L]を選択すると、
【X】
という文字が表示された。その次に[N]の文字が薄く表示されている。
最初、ジンリンに言われたことを思い出すと同時に、なるほどと思う。
「[I]・[G]・[H]・[T]」
ダイアルを連続で回していく。
【XNKHW】
という文字が表示され、石盤から小さな光が空へと昇り、オレの足元を照らした。
「さながら
しかしあんまり明るくないねぇ。たぶんNQWの数値が低いからだろうな。二分くらいしてちいさな光は絶え、ふたたび月の光だけの頼りなさだけが残った。
「あれ? ってことは」
ちょっと思ったことだが、それと同じくして、使える文字が足りないとも思う。まだ使えないってことだな。
でも、ある意味使えるようになったらいいかもしれない。
「ほんじゃぁ、次は[S]でどうだ」
ダイアルを[S]に合わせて選択すると、空中には、
【C】
の文字が表示された。
その次に[T]の文字が薄く表示されている。
「[P]・[A]・[R]・[K]」
一文字ずつダイアルを回しては選択していく。
【CTYVE】
の五文字が表示されると同時に、スタッフから火花が出た。
「おぉ、慣れてきた慣れてきた」
やっぱりあれだな。使える文字というよりはどんな言葉を組み合わせるかどうか。
「ギュルルル」
あら? なんかそんなに離れていないところから人とは違う声が聞こえたのだけど?
◇エアー・ラビット/Xb2/属性【風】
なんかモンスターが戦闘態勢に入っていた。
見た目はウサギなんだけど、ビーバーみたいに伸びた齧歯がむき出しになっている。
「えっと、もしかして攻撃判定が入ってた?」
敵意剥き出しなんだけど?
「きぃしゃぁああああ!」
ウサギから攻撃を仕掛けてきた。
その攻撃を間一髪で避け、すれ違いざまに蹴り上げる。
あら? もしかして体術も可能ってわけね。
蹴り飛ばされたウサギに、然程のダメージはなかった。
【A】
ウサギの頭上に反転した文字が表示された。
モンスターも魔法が使えるってことね。
【AN】
一文字につき一秒くらいで展開されている。
避けたほうがいいかな? でもどんな魔法を使ってくるか確かめてみたくなるってのもねぇ。恐怖心と好奇心が心の中で入り混じってる。オラ、ワクワクすっぞ。
そんなことを考えていると、
【ANQM】
という四文字が完成されるや、ウサギは口を大きくひろげ、風の刃を仕掛けてきた。
「うわっ、っと?」
間一髪避けられた。レベル相応の威力しかないのだろうけど……、あれ? [A]ってまだ持ってない文字だったな。
「
ほかの三文字はもう持っているはずだから、[A]は[W]ってことだろうな。
ってことはモンスターからの魔法攻撃に対して、わざと出してヒントを出させるってこともありえるってわけだ。
さて、攻撃をどうし……、ちょっと面白いこと思い浮かんだ。
使える文字が限られていても、使える魔法に制限があるわけじゃないはず。
さいわい、ウサギは魔法を使ったことによるスタン状態になっているようで、動きが鈍くないっている。
「石盤、展開ッ!」
左手でスタッフを握り、ウサギに狙いを定め、右手には石盤のダイアルを握らせる。
繰り出す魔法のスペルを頭の中で思い浮かべ、石盤のダイアルを回した。
【WHDQMFV】
七文字が虚空に展開され、それと同時にちいさな稲光がウサギを射抜いた。
◇経験値[2]取得しました。現在[2/10]
モンスターを倒したことで経験値が増えた。
「
戦闘の様子を見ていたジンリンが唖然としている。
「使用文字の制限とかってあるの?」
カカカと笑っておきましょう。
「NQWとMFUの数値によって消費JTが変わります」
一文字にNQWがいくつ必要なのかは言わないか。
「というよりは、NQWの数値によって石盤の文字を打ち込む時間が違うと言ったほうがいいでしょうね」
「最大で何秒?」
「ステータスの最大値が255ですから、今のシャミセンさまのステータスだと十五秒といったところです」
ネタバレになるから答えられないのだろうけど、予想以上に制限時間が狭かった。十五秒って意外に速く過ぎるんだよな。
これはますます、頭の中で整理してから使ったほうがいいかもしれん。
しばらく歩き回っては、ポップアップされたモンスターを見つけて戦闘を仕掛ける。
モンスターも魔法を使うが、体現スキルみたいなものもあるから、全部が全部魔法を仕掛けてくるというわけではなさそうだ。
モンスターの攻撃も[星天遊戯]に比べれば若干の隙が出やすいことがわかった。
◇エアー・ラビット/Xb2/属性【風】
◇エアー・ラビット/Xb1/属性【風】
◇エアー・ラビット/Xb1/属性【風】
今対峙している三匹のウサギ。一匹ずつ攻撃するのもあれだね。
まとめてダメージを与えそうな魔法って、まぁちょっと思い浮かんだことをドンドンと使っていきましょう。
「ちょっと試してみるか。さっきのやつより文字数多いけど」
というか使う文字を思い出せるかだけど。
石盤のダイアルを[T]に合わせる。
【W】
虚空には[T]に相対する[W]の文字が表記される。と同時に、ウサギどもが攻撃を仕掛けてきた。
「だぁら次は[E]」
【WF】
ウサギの攻撃を避ける。どうやら魔法を使う時も避けることは可能らしい。ふたつ以上のことに集中しろってのは結構キツい。
すこしのダメージはしかたのないことだけど、避けられているってことは、高いXDEのおかげだな。
今更だけどまたXDE中心に上げていこうかしら?
【WFJTFCW】
文字を打ち込み終える。
魔法発動の残り時間表記に目をやると[0:24]と表記されていた。うわぁすんごいギリギリだった。
「さぁ、おまえの罪を数えろっ!」
ウサギどもに神の息吹をかけてあげようじゃないか?
三匹のウサギに、それぞれ攻撃対象となったらしいエフェクトの光が包み込み、足元から激しい嵐が吹き荒れるや上空へと吹き飛ばされて、地面へと叩きつけられた。
モンスターどものHTゲージが一気に減少していく。
◇石盤の熟練値が上昇しました。
◇経験値[4]取得しました。現在[6/10]
経験値が増えた。っていうか石盤の熟練値も上がるのな。
「
……さて、連続で魔法を使っている割にMPの減少値にどうも納得がいかないのはなぜでしょうか?
えっと今のステータスだと最大値で31。現在10残っている程度。
そのことをジンリンに聞くため、
「JTは自動回復になります。こちらはレベルにもよりまして、今のシャミセンさまのステータスだと約十秒につき[4]回復します。また魔法文字の使用は一文字につき[3]を費やすと思ってください」
「計算式は教えてくれないの? それを知ってると知らないとじゃなにかと作戦が立てやすいし」
「あまり公言できないんですけど、ほかならぬシャミセンさまのお願いですし、お答えしましょう。JTの自動回復は[(NQW+BNW)×Xb%]、魔法文字一文字における消費は[(Xb+MFU)×NQW%]となっています。ちなみに制限時間は[YKN×(NQW×100)÷1000]となりますね」
なんだかんだ言って結構ネタバレしてません?
「あぁっとちっとまてよ? ってことは……今のステータスだと全快で十文字使えるってこと?」
「正確に言いますと今のステータスは一文字につき[2.79]ポイントが費やされますので、十一文字が正しいですが、小数点切り上げされますから、十文字が正しいですね」
まさかの小数点刻みだった。
JTの自動回復は、正確に言えば一秒単位だと[0.39]になり、制限時間は[15.5]になるそうだ。システム的には切り上げらしいけど。
でもそれってステータスが変化すると消費も違うわけだがら、最大でどれくらいなんだろう。あとで計算してみようか。
「それから魔法文字が埋まって、自由に強力な魔法が使えても、NQWが低かったら元も子もありませんから。魔法の威力はNQWの数値で決まりますからね」
「えっと、いちおう聞くけど召喚にも必要だったりする?」
こうなったら気になったことをトコトン聞いてみましょう。
「シャミセンさまがコンバートされた召喚獣の強さにもよりますが、召喚する場合はプレイヤーのJTの30%を費やします。また指示を出すことは可能ですが、召喚獣のスキルを使う場合、召喚に費やしたJTの3%を使用しないと命令ができません」
モンスター個人ではダメってことか。一心同体ってことかね。
「ほかにお聞きになりたいことはありますか?」
「いや、今はいいや。とりあえずレベル上げするわ」
オレがそう返事を返すと、ジンリンは小さく頭を下げ、スッと姿を消した。
それからしばらくして、
◇エアー・ラビット/Xb2/属性【風】
◇エアー・ラビット/Xb2/属性【風】
と出てきた。――以下省略。
◇経験値[4]取得しました。現在[10/10]
◇プレイヤーのレベルが上がりました。現在[0/20]
・*Xb上昇ボーナスとして、ポイントが加算されました。ポイント残高【5】
幸先、順序良くレベルが上がった。
さて、これからはレベル2からじゃないと整数じゃないわけだが、今はあまり気にしないでおこう。
ポイントはどうしようか? 星天遊戯の時と同様、XDEに振り分けてみる?
「いや、今はまだ振り分けないでおこう」
ポイントは貯めることも可能だろうし、装備品の効果でXDEが他のステータスを上昇させるのが出てきたら改めて考えましょう。
【シャミセン】/見習い魔法使い【+5】/20K
◇Xb:2/次のXbまで0/20【経験値10】
◇HT:16/16 ◇JT:62/62
・【CWV:5+2】
・【BNW:6+2】
・【MFU:8】
・【YKN:5】
・【NQW:16+15】
・【XDE:60+14】
装備品は特に変更されていないので省略。
HTとJTの数値が倍になっている。多分数値*レベルってところだろうな。
あと職業の横にある(+5)って、もしかしてレベルアップ時のポイントかね?
とりあえず、あることを確認して今日はやめよう。というかレポートやってなかった。
◇ワーム/Xb1/属性【地】
ちょうどいい所に虫がいた。ワーム……そのままだね。
青虫みたいにくねくね身体を動かしてる。小さかったら可愛いものだけど、
「いくらなんでもダックスフンドくらいだと気持ち悪いったらありゃしない」
しかもリアルなんだよ。顎をシャコシャコ動かすんじゃない。
「属性が[地]ってことは弱点は[火]になるの?」
ジンリンが四元素を説明してくれた時に、得手不得手は順周りで決まってるって思ったんだけど。
まぁ試してみましょう。
まずはスタッフをワーム目掛けて投げつける。
やってることは基本的に[星天遊戯]の時と対して変わってない。
先制が取れた。あ、投擲でもダメージは与えられるわけね。
ワームはシャカシャカと足を動かして近付いてくる。
魔法盤展開。ダイアル回して文字を打ち込んでいく。
今使える文字で火属性の魔法はなんだろうか?
[
[
[
[
[
[
あーでもない、こーでもないと、火属性の魔法に対するスペルを考えていくが、いいアイディアがまったく出てこない。
「あれ? もしかして最初の時って、火属性の魔法が使えないこと多すぎじゃね?」
改めて知る、この魔法文字の重要と末恐ろしさ。
やたらめったに文字を探しては答えを外していくと最悪詰むんじゃなかろうか?
ワームの鋭い牙がオレの腕を噛みちぎる。
「い、つぅっ?」
思った以上の激痛。だいたい10くらい。
しかもなんか目眩がしてきた。
自分のHTを見ていくと、[6/16]が緑色に変化していた。
「まさかの毒?」
やばい。さっきみたいなのもう一回喰らったら、確実に死ぬぞ……。
でも、まぁ……レベル上がったばかりだし、お金が減るくらい……。
ビシャン……ッ!
ビシッ! バシッ! ズシャッ! ビッシャッ!
撓った鞭の音が耳元で響き渡る。
「グゥキシィァアアアアアアアアッ!」
それと同時に、モンスターの悲鳴。
そちらを虚ろ目で見ると、血塗られた蔓が、問答無用にワームを叩き、切り刻んでいくのがわかった。
伸ばされた蔓の先を目で追っていくと、プレイヤーの頭上には、
【BNQFAHNT】
という文字が反転されていた。
「…………っ」
オレはそのプレイヤーを確認することなく、視界を失った。
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