桐の祠
するめいか英明
第1章 静稀と吾朗
第1話
「どこだよここ……何でいきなり……」
吾朗はそう呟いた。私は吾朗の隣で、突然の状況に目を丸くするばかりで、何も言葉を発することが出来なかった。先程まで目の前には「桐の祠」があって、占い師に言われた通りのおまじないをして、それで――。
昨日の夕方頃。塾の帰り。私たちは適当なお店で晩ご飯を食べようという話をしていた。とはいえ、いつもの帰り道にあるお店はたいてい行ったことがあるので、少し脇道に入ってみたところ。そこで、あの占い師に遭遇した。
「俺、占いとか信じてないし……」
ボロボロの机に2つの丸椅子を置いただけの簡単な構え。占い師は修行中の身とのことで、しばらくの間はここで無料の占いや人生相談を受け付けているそうだ。
「まあ、タダなんだしいいじゃん」
私は聞く耳を持たずに吾朗を促すと、とっとと片方の丸椅子に座ってしまった。吾朗もしぶしぶ私の隣に座った。私は占いが好きでも嫌いでもないが、まだ夕ご飯を食べに行くにはほんの少しだけお腹の気持ちが早いような気がしたし、もう少し遊んでいきたかったのでちょうど良いと思っていた。
「では早速、占わせていただきます」
そう告げると、占い師は二人の前に1枚の紙と1枚のペンを差し出した。
「まずはこちらの紙にお二人のお名前を書き、この封筒に入れて下さい。その封筒はお返ししますので、お二人の個人情報が漏れることは一切ございませんのでご安心下さい」
私はさっさとペンを取り、手際よく自分の名前を書いた。
「旭日静稀(あさひしずき)、と。ほい」
私は紙とペンを吾朗に手渡した。吾朗は紙とペンを受け取ると、少しためらった上で自分の名前を殴り書きにした。
「海野吾朗(うみのごろう)、と。これでいいのかな」
私は吾朗から紙とペンを受け取ると、紙の向きを占い師が読める方向に直して机に置き、ペンを紙と占い師の間にまっすぐ置いた。占い師はそれを受け取ると、まじまじと名前を眺めていた。
「お二人はお付き合いをなさっていて、特に何か占って欲しいものがあるわけでもないですね。彼女さんはハツラツに見えて几帳面なしっかりもの、大体は彼氏さんを引っ張る側ですね」
それを聞いて私は思わずブフッと変な息を吐いてしまった。当たっていると思った。いや、お世辞だろうし誰にでも当てはまることを言っているのだろうけど、言われて悪い気はしなかった。ニヤニヤしながら隣を見やると吾朗は予想通りバツの悪そうな顔をしていた。
「分かりますか? これ負けず嫌いのくせにめんどくさがりだから、私が面倒見てるんですよ。ね、ほら吾朗、すごい当たってるじゃん」
私は吾朗を片手で軽く揺する。吾朗はというと、あまり嬉しそうではなかった。占い師を少し睨むように見つめており、いかにも「あまり当たってない」とでも言いそうだった。しかしそれすらも面倒なのか、溜め息を付いて椅子に深く座り直した。
「ありがとうございます。これはあくまで商売ではなく修行なので、ご協力いただいたお二人には特別に種明かしを致しましょう」
何だかタダで占ってもらえるだけでなく、手品の仕掛けまで見せてもらえるようで私はラッキーだと思った。自然と私は身を乗り出し、占い師の言葉に耳を傾けていた。
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