1-8.黒蛇
「ウフフフ……」
薄暗い森の中、後ろの巨大な枯れ木に寄り掛かりながら、レヴィアは微笑を浮かべた。
「随分と勇敢な
木漏れ日は不自然な斑模様を浮かべ、禍々しくうねっている。
「でも、無謀な
レヴィアの真っ直ぐ前に伸びた腕には、カラスが一匹止まっている。
――
レヴィアはいつしかそう呼ばれ、恐れられるようになった。
好んで災いをもたらし、人を苦しめる事に快感を感じる彼女は、存在そのものが不吉で邪悪だとされている。
――
多くの手配書には、そう書いてある。
レヴィアはそれを見る度に、ぞくぞくとした快感に襲われる。
(人間は私を恐れる。私がもっと高次元の存在だから)
レヴィアが口元を緩ませる。
その昔、世界を支配していた種族は人間ではなかった。そして、その種族は、圧倒的な力を持っていた。その種族もこうやって人間を弄んでいたのだ。
――そう。私はその種族のうちの一人との交信が可能なのだ。この蛇達も、その圧倒的な存在から生まれし者。
今、レヴィアの瞳には、腕のカラスの頭上に現れた像が映っている。これからレヴィアの手にかかるのであろう、哀れな二人の少女がだ。
二人は迷うことなく、無謀にも正面からレヴィアの居る所へと足を進めたようだ。もう、レヴィアが足音を感じ取れるところまで来ている。
「ほう! ネクロマンサーはお前だったのか!」
巨大な枯れ木に身を預けている、深緑の髪の女性を見て、イミッテの叫び、エミナの体には緊張が走った。
「知ってるの、イミッテ?」
イミッテの態度は強気に見えるが、相手の正体が分かった途端に動きは慎重になった。手強い相手に違いない。エミナも注意深く
「お尋ね者だ! 邪神崇拝者、
「
エミナはその名を聞くと、自然と体が強張った。
「ふぅぅ……」
イミッテは、深く呼吸をしながら構えの姿勢をとった。
足は前後に大きく開き、屈んで重心を落とした。左手は、ほぼ地面と垂直に前へ伸ばし、手の平は
右手は力を抜いているらしく、ほぼフリーの状態だ。あの右手から様々な技を繰り出すのだろう。
「気を付けろよエミナ。特に、上のにはな」
「え? ……きゃっ!」
上を見たエミナは思わず短い叫び声を上げた。
レヴィアの後ろには巨大な木があり、そこに無数の蛇がぶら下がっているのだ。
蛇は決して小さくはない。エミナの背を優に超える大きさの個体も沢山居る。
「こんな……ものが……」
エミナは両手で口を塞ぎ、驚愕した。
「それだけじゃないぞ。この重量に、この枯れ木は耐えている」
「はっ……!」
イミッテの言葉を聞き、何故
「リビングデッド……! これが!」
エミナは、更に驚き、目を見開いた。
「枯れ木でも……いえ、普通の木だって、こんな大量の蛇は支えられないわ。あれは朽ちない枯れ木……木の巨大リビングデッド……!」
「ふ……ウフフフフフ……アハハハハハ! 喜んでもらえたみたいで嬉しいわ! 貴方達のその顔、とっても素敵、最高よぉ!」
レヴィアの笑い声が、辺りに響く。
「く……!」
エミナを囲むのはリビングデッドと蛇、そして、精神を高揚させている
心を支配する恐怖を押し殺そうと拳を強く握り、エミナは一歩前へと足を踏み出す。
「エミナ! 私が前で戦線維持するから、エミナは後ろで補助と、敵の数減らしを頼むぜ!」
イミッテが前へと駆け出した。
「分かった!」
エミナもイミッテの後方へ位置取りし、
「ふぅぅぅ……
イミッテの放った手刀はヒュンと高い音をたて、襲い来る蛇を同時に二匹、斬り裂いた。
「荒ぶる風よ、厚き壁となって我が身を包み込め……ウインドバリア!」
イミッテの後ろでエミナが呪文を詠唱すると、手の平の前に空気が渦を巻いた。
エミナがイミッテの周りを注視する。辺りには無数の蛇と、しなる枝を振り回している木のリビングデッドが見える。
イミッテはそれを躱しながら、様々な拳法で大量の蛇を片っ端から退治している。
「……!」
木のリビングデッドの攻撃が、イミッテの死角からイミッテに迫っている。イミッテちゃんでも避けきれない。エミナはそう思ってイミッテの前へと躍り出た。
「ううっ!」
しなる枝と、エミナのウインドバリアが激しくぶつかり合う。
木のリビングデッドはかなりの大木だ。その枝は、エミナの体の二倍は太い。
その枝が生み出す衝撃は、ウインドバリア越しにも相当強い。
「く……っ!」
手が痺れ、じんじん痛む。これが直に当たったら、ただでは済まないだろう。
「エミナ?」
「大丈夫、ちょっと、反動が強くてびっくりしちゃった」
「そうか。良かった。が、少しまずいな。押されている」
イミッテは次々と蛇を退治しているが、蛇の大群の物量に押され、じりじり後ろに下がっている。
「多少の隙は出来るけど……ダブルキャストでいくわ」
エミナは空いている左手をイミッテの頭上高くへかざすと、詠唱を始めた。
「天から降るは
上空から、無数の細く青い筋が、高速で地面に降り注ぎ、蛇へと突き刺さる。
降り注いだのは氷。針の様に細い、無数の氷だ。それによって、蛇は死に至り、そうでない蛇も、背から地面へと貫通した氷の針によって足止めされている。
「おお! エミナもやるではないか! 礼を言うぞ、これで少しやりやすくなった」
イミッテがレヴィアとの距離を一気に詰める。
「
「フフフ……範囲魔法如きでいい気になっているようだけど……魔法使いならそのくらい使えて当たり前でしょう?」
レヴィアは前に手をかざすと、その手から黒く丸い魔力の塊を放った。
「おおっと!」
イミッテが咄嗟にダークボルトを躱す。
「ダークボルト……闇属性の攻撃魔法……!」
エミナも、その後ろでダークボルトをよけた。
「単体魔法じゃないか! そんな事言って、自分じゃ範囲魔法は使わないんだな!」
イミッテが、
「私が使うまでも無い。私の愛しい僕が使ってくれるから」
「なに!?」
イミッテは警戒して飛び退いたが、すぐにそれが無意味な事だと分かった。
エミナとイミッテの周りには、すでに枯れ葉が渦巻いていたからだ。
「くっ……エミナ、堪えろよ!」
「……!」
舞い散る無数の枯れ葉が、二人を襲う。
「うあああああ!」
「きゃぁぁぁ!」
枯れ葉は鋭く、二人の体に触れるだけで皮膚を斬り裂いた。
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