異世界魔王の日常に技術革新を起こしてもよいだろうか

おかゆまさき

プロローグ 異世界スキル授与編  神様と名刺交換してもよいだろうか

01話 死んだ理由に思いを馳せてもよいだろうか







「ずっと前からファンでした!」



 俺が言ったんではない。

 俺が言われたのだ。



「あの、聞いてます?」



 無言になっていた俺に、ふんわり発光してる純白ゴスロリ少女が上目づかい。



「ちょっとまって、その前に……ここどこ?」


「わかりませんか?」



 俺のまわりに、ブルーなスカイが広がっている。

 文字通り、空しかないのだ。

 足下には白い雲。



「ひょっとして、ここ、空の上?」


「おしい! 近い! ここは天界です」


「……なんで?」


「米村富士雄よねむら ふじおさん。あなた、死んだので」


「死んだら空の上って、ベタ過ぎないか!?」


「真実は小説よりも奇なりですよ」


「ファー」



 言われてみれば、一周してこれは新しいのかもしれない。

 ぽかぽかあったかくて、ここ、気持ちがいいし。


 天界かー。

 そっかー。俺、死んだのかー……



「って、なにノンキなコト言ってんだ! 俺死んだの!?」


「そうですよ! このたびは心よりお悔やみ申し上げます。享年28歳でした」


「それはそれはどうもご丁寧に……って、やってる場合か! 

 げげぇっ! 俺のおでこに白い三角布! 

 頭上には天使のわっかまである! すごいわかりやすい……!」


「サービスですよ?」


「別にありがたくはない!」


「もしかしてご記憶、ないんですか?」



 無かった。


 あ、あれ……? 


 思い出せるのは、今朝までのこと。

 いつも通りの出社、駅までの道のり。無言の満員電車。


 会社に到着。


 そうだ、俺はすごく意気込んでいた気がする。


  入社4年目。


 何度目かの企画プレゼンの日。


 新企画の知育玩具を、部長達の前で説明するのだ。

 俺はおもちゃ会社勤務なのだ。



「思い出せました?」



「思い出したが、会社の会議室に入った先から、どうしてもだめだ。俺、そこで急死したの?」


「いえ、もう少しあとに、事故死です」


「まさか、ビルの火事に巻き込まれたとか? それとも……そうか!

 居眠り運転のトラックが突っ込んできたんだな? でも会議室は地上9階だぞ!?」


「なにが富士雄さんをそう確信させるのかわかりませんが……」



 白ゴス少女は俺へと両手を広げ、



「ご記憶がないようなので、説明しますと。


 富士雄さんの考えた幼児用知育玩具『ぼくの わたしの がったいどうぶつえん』の

 夢あふれる素晴らしさ、その芸術性を理解できない愚かな老害上司どもの、

 ねちねちとした難癖に、富士雄さんはついにぶちぎれたのです」


「俺が? この、いつもニッコリ仏の富士雄が!?」


「はい。富士雄さん、今日で『がったいどうぶつえん』は10回目のプレゼンでしたよね」


「ああ……、なんどもリテイクだされて……。

 ひどいんだよあの上司ども……子供のことなんて全然考えねぇで……」


「その通りです。あの方達のリテイクには理屈もなにもありませんでした。

 朝令暮改はあたりまえ。一切頭を使っていない指示は矛盾だらけで、

 上司という立場を振りかざして部下をいびり、その力を試し、

 あわよくば自分の名をできるだけ社歴に残したいだけなのが見え見えです」



 少女はコクコクうなずき、



「そして富士雄さんは、ついに上司の


『だいたい、子供が間違ってコレ飲み込んで死んだら誰が責任とるの? 富士雄くん、キミが取ってくれんの?』


 という言葉にぶちぎれて、


『平気に決まってんだろぉッ!! これを見てみろぉ!』


 と、大人のこぶし大のゴリラを丸呑みにしたのです」



「そ……それでどうなったんだ!?」



「そのまま窒息死しました」



「俺のばかぁぁぁああああ……!! あの大きさのゴリラはだめ……! 

 あれは子供の口にすら入らないヤツゥ」



「あの時の富士雄さん、かっこよかった……(うっとり)」


「マジで!? 死因はゴリラを丸呑みにしたことによる窒息死だぞ……!?」



「申し遅れました。わたくし、こういうものです」



 白いゴスロリ少女は俺にスッと名刺を差し出す。




 □ □ □ □ □


 おもちゃの神


 モモチャ


 □ □ □ □ □




「おもちゃの神……モモチャ?」


「そうなんです。わたし、おもちゃの神でして」



  赤くなって照れるモモチャ。

 すこしかわいい。

 というか髪とか金髪だし、よく見ればけっこう将来が楽しみな美人さんかもしれない。



「で、モモチャちゃん」


「そこはモモチャンでよくないですか?」



「で、モッチーは、死んだ俺に、なんの用なの?」


「……はい」



 白ゴス少女は真剣な顔で俺を見あげる。



「富士雄さんの夢、『全ての子供が俺のおもちゃで笑顔になる世界』を、

 こんなとことで終わらせるわけにはいきません」



 俺はスーツのネクタイを、自然と整えていた。



「富士雄さん。わたし、あなたのファンです。

 あなたの作るおもちゃが、大好きです」



 だめ、俺、そんなこと言われたら泣いちゃいそう。



「私は全力で、あなたを転生させます」

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