春夏秋冬

「恋をするなら、断然夏がオススメですよ!」


 まず、夏が口火を切った。


「青い海、白い砂浜、いつもは奥手の女の子も、ビキニを着てみようかな、なんてちょっと大胆になっちゃう! 浴衣に花火、夏祭りと、イベントにも事欠かない! そんな楽しい夏の恋、あなたもしてみませんか?」


「いやいや、恋なら冬と相場は決まっています」


 今度は、冬が口を開いた。


「暑い夏は二人を遠ざけても、くっつけることなんかしませんよ。そこで、冬の恋ですよ。寒い冬だからこそ、二人はそっと寄り添える。ポケットの中で繋ぐ手、二人で使う長いマフラー、そして何と言ってもクリスマス! 恋人たちの白いメリークリスマスをあなたに……」


「いいえ、みなさん、春こそが絶好の恋の季節ですよ!」


 すると、桜吹雪を散らしながら春が、


「春と言えば、出会いの季節! 桜の木の下で出会った二人が永遠を誓い、キスをする――そんな春こそが恋に最適の季節です。一夏の恋は儚く消え、冬は悲しい別ればかり。いいですか、みなさん、春ですよ? 春こそが、恋の季節にふさわしい――」


「あの、私たち秋を忘れないで下さいね?」


 すると春を遮って、秋が、


「秋にほかの季節のような派手さはありません。けれど、想像して下さい。紅葉が美しい並木道を、恋人と歩く優しい風景を。そういう穏やかな日常こそが、愛を育んでいくのではないでしょうか……?」


 そうして一通りのプレゼンが終わった後は、4つの季節によるけなし合いが始まる。


「いや、秋なんて地味なだけで、夏の華やかさには勝てませんよ」


 夏が鼻で笑えば、


「何ですか? 夏の恋なんて、夏休みに頼った一過性のものじゃないですか」


 と、秋が応戦する。その間、春と冬は、


「冬なんて結局寒くて出歩けないんですよねえ」


「何を?! 花粉症のやつと恋愛ができるかってんだ!」


      *


 頭の中で繰り広げられる議論に、男は頭を悩ませた。


 彼は映画のシナリオ作家。


 次は一体どの季節を前面に押し出した恋愛映画の企画を練ろうかと、必死になって考えていたのだった。

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