先天性母性欠損症 ――私には母性がないという確信と根拠。
夫が「幻想である」と断言する“母性”ですが、本当にまぼろしなのでしょうか? 確かに、都合よく作り上げられたものという感じは否めないと思うんです。
ネガティブな言い方ばかりで恐縮ですが、女性に育児の負担を上手いこと押し付けるための誘導作戦というか。或いは、モノを売りたい人たちの思惑によるイメージ戦略というか。しかしながら、母性が社会に都合よく作り上げられた「まやかし」でしかないのかというと、それはちょっと違うかと……。
私たち家族が暮らす地域では、一人っ子は割と少数派です。子どもが二人・三人いるのはあたりまえ。さらに、少子化なんてどこ吹く風といった調子で四人目・五人目と子宝に恵まれる人たちもいらっしゃる。
息子一人の面倒を見るだけで精一杯の私にとって、次々と子どもを授かり産み育てていく女性はとてもまぶしい遠い存在です。本当に、別の星の人みたい(笑)。だって、どうしても私には理解できないから……。
第二子・第三子を産む(作る)ことには、様々な背景があるのでしょう。兄弟姉妹がいたほうがいいという考えはもちろん、家の事情として男児(女児)を産まなければならないとか。或いは、夫婦の希望として「男の子だけでなく女の子も育ててみたい(もちろん逆もあり)」とか。
そういった事情や考えについては、なんとなく想像できるのです。ただ、私にはどうしてもわからない気持ちがあるのです。それは――。
「もう一度、この手で赤ちゃんを抱いてみたいの」
この気持ちばかりは、私にはどうにも理解することができません……。出産の痛みなんて忘れてしまうという話も聞いたことがありますが、私にはあの体験のしんどさを忘れることはできませんし……。
以前、友人にこんなことを言われたことがあるんです。「ちさとさんは母性がないというけれど、子どもを迎えた新しい生活を“冒険の旅”にたとえるなんて十分ロマンチストじゃない? 母性があると思うけど?」と。でもね、やっぱり違うのですよ。ぜんぜん違うのです。
出産の痛みを経験してもなお、再び子を授かって産んでみたい。そして、生まれたての我が子を抱いてみたい。愛情をもってまた最初から育てたい。その気持ち、或いは衝動――私はそれを到底理解できないのですから。
母性は社会をうまく回したい人やモノをたくさん売りたい人が「でっちあげた幻想」である。それは間違いではないでしょう。ただそれとは別に、やはり女性には身体的機能として備わった母性があるのかもしれない。そんなふうに思ったのです。
出産の痛みを忘れさせることも、痛みを経験してもなお再び赤ん坊を抱きたいと思う衝動も、母性という機能がなせるわざなのではないでしょうか。一般に、男性は出産の苦痛に耐えられないと言われていますよね。それはまさに、母性という機能がないからなのかも?と。今更ながらそんなふうに思えてくるわけです。
じゃあ、私は何なのか? 言ってみれば「先天性母性欠損症」みたいなものでしょうかね……(苦笑)。これ、やっぱり生まれつきのものなんじゃないですかね? いやまあ、わかんないですよ。私は医学や生物学の専門家じゃないですから。
<<はじめに>>で「女の子は素晴らしい母性を持って生まれてくる」という説について、私は懐疑的であると申し上げました。でも、やっぱりあるんでしょうね。女性だけが持って生まれてくる機能のひとつとして。ただ、100%全員ではないというだけで……(汗)。
実際に自分が子どもを産んで母業に携わってみて思い知らされたこと、それはやはり――「無いものは無いから仕方がない」ということでした。妊娠したからといって、出産したからといって、育児をはじめたからといって、何も変わりはしなかったのです。私にとって人間の赤ん坊は、いぜんとして畏れ多い不思議な存在であり、可愛いという感覚はやっぱりどうにもわからないままなのですから……。
あれ? 母性はどうした? 忘れてきた? 置いてきた? どうしてなのかは自分でも覚えちゃいませんけどね(苦笑)。どういうわけか、それを持たずに生まれてきちゃう女児もいる、と……。もし、母性の有無を客観的に評価する技術があっとして、「母性を有する者こそが女性である」と定義される世の中だったら――? そんな想像よせばいいのに、勝手に考えて勝手に困って苦笑いする私なのでした。
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