マタニティハイって何? ――お花畑ホルモンの威力

 “マタニティハイ”という言葉、皆さんはご存知でしょうか? マタニティハイがどういう状態をさすのかという定義は、人によってけっこう違うかもしれませんが、例えば――。


・SNSで胎児のエコー画像を健診のたびに逐次アップ。


・常にキャピキャピとハイテンションで、話題は妊娠・出産のことオンリー。


・母性愛などをテーマとしたポエムを量産して発表するポエマーになる。


・マタニティヌードの撮影(および、写真の披露)。


・「女はやっぱり産んでなんぼよ」的な上から目線の発言を連発。


・清拭もしていない生々しい新生児の写真をメールに添付して出産報告。


 言動や振る舞いが限りなく自己中心的になったり、通常であればできるであろう他者への配慮ができなくなってしまう。要するに、テンションが上がりすぎて周りがまったく見えなくなってしまうのだそうです。


 こういった行動が顕著な妊婦さんは、人間性うんぬんではなく、ひょっとしたらマタニティハイの状態なのかもしれません。


 そういえば以前、ドラマでこんなシーンがありました。妊娠検査薬で陽性が出た若い奥さんが、だんな様の帰りが待ちきれなくて、結果の出た検査薬を握りしめて家を飛び出し、だんな様に見せに行こうとするという――。すごい話です(愕)。


 あ、私は外に持ち出したりしていませんからねっ。夫に見せるのだって、熟考した上の総合的判断であり苦渋の決断だったんですからっ(言い訳がましいですかね・汗)。


 でもですね、陽性反応の出た検査薬を写真に撮ってSNSにアップする人はいるそうです。私は見たことないですが(わざわざ検索して見たりもしませんし。


 周囲から見れば明らかに“豹変”しているのに、妊婦さん自身はおそらく“無自覚”なんですよね。だから、こういう言い方はあれですが「扱いに困ってしまう」と。「妊娠・出産は喜ばしいことである」というのは世の中の共通認識でしょうし、その喜びを噛みしめて妊婦ライフを謳歌する人を声高に非難するのも……。


 しかしながら、悪気がなかったとしても、やられて困るものは困るし、不愉快なものは不愉快だし、迷惑なものは迷惑です。


 「何で子ども作らないの? できないの? ずぇったいに早く子ども作ったほうがいいって!」と、言われるだけでも鬱陶しいのに、大きな声で“デキやすい体位”のレクチャーなんてされたときにはもう不愉快で仕方がないですよね。


 頼んでもいないのに、赤ちゃんの写真をこれでもかという頻度で送りつけられても、困惑するばかりで迷惑でしょう。


 また、いくら妊娠・出産がおめでたいことだからといって、報告をするときには相手の状況に配慮する必要があるはずです。


 闘病中の人や、お身内に不幸があったばかりの方に対して「幸せのおすそわけです♪これで元気だして!癒されて!」なんて軽々しく言うのはデリカシーが無さすぎます。


 不妊で悩んでいる人や、流産をした人に対して、事情を知っているにもかかわらず「子どもは早いほうがいい」などと得意げに言うのもなしでしょう。


 妊娠しているときはホルモンの分泌も通常とは違いますし、その影響で精神的にも少し特殊な状態になってしまうのかもしれません。だからといって、すべてのことが許されるわけがない。当たり前のことなのに、それさえもわからなくなってしまうのがマタニティハイなのかもしれません……。


 ただ、SNSなどの投稿について目くじらを立てるのは敏感すぎる気もします。こういう言い方もなんですが、そもそも、SNSみたいなものって「自己満足のために、自分語りをしてもいい、独りよがりのツール」ではないのかと……。


 特定の個人を攻撃するような投稿は論外ですが、エコー画像をアップしまくったり、ドリーミーなポエムを披露したり、「妊娠出産こそ女の幸せ」という持論を熱く語ったりするのは、基本的にはすべて自由なのではないでしょうか。


 もちろん、閲覧した人がどのように感じてどう捉えるかというのも自由です。共感できないものに、無理に共感する必要はありませんし。


 発信する側がもっとデリカシーを持って投稿すべきだという意見もあるかもしれません。ですが、閲覧する人が不特定多数の場合、全員の状況に配慮するのは現実的には不可能ですよね。


 つまるところ、不愉快になるような投稿は見ないようにするしかないかと。そうはいっても、破壊力(苦笑)のある投稿をうっかり目にしてしまうこともあるわけで……。そのときのダメージといったら、けっこう半端なかったりするのですが(汗)


 私は不安ばかりが先行してしまうテンションの低い妊婦でした(苦笑)だから、マタニティハイの妊婦さんを、なんだか不思議な気持ちで見ていたんですね。


 どうしてあんなに楽観的になれるのだろう? なぜ妊婦ライフを満喫することにあれほど没頭できるのだろう? その自信はどこからくるのだろう?(根拠が知りたい……)。 


 すみません、バカにしているつもりはないんです。むしろ、不安がってばかりの自分には、どこか羨ましくさえ思えたんです。もっと言ってしまうと、彼女たちのように変われないことに、コンプレックスを感じていたのかもしれません。


 ああでなければ、これからの出産や育児を乗り越えていけないのではないだろうか? そんな不安が頭をよぎり、ただでさえ自分に自信のない私はいっそう不安になったものでした。

 

 だからといって、「さあ、テンション上げていくぞぉ~」と何か努力(?)をしたのかというと……。


「変わるべきなのでは? ひょっとして、変わればラクになれるのでは?」という無茶な考えがぼんやりと浮かびつつも、「変わりたくない、変わりたくない、変わりたくない! 私は私なんだから!」と、もうひとりの自分が金切声をあげるわけです。ほんと、困った人ですね……(苦笑)


 マタニティハイって、妊娠・出産という期間を乗り切るために女性の身体に備わったある種のシステムなのかもしれません。実際、出産を含めて「子どもを守る」というのは、なりふりかまっていられないことが多いですから。


 “お花畑ホルモン”という言葉を聞いたことがありますが、妊産婦をハイテンションにするそれは、苦痛を和らげるモルヒネのような効果があるのかもしれません。或いは、こういう表現は不適切かもしれませんが、精神を高ぶらせる麻薬のようなものとでもいいましょうか……。


 ただ、少し話が戻りますが、妊婦本人にとってプラスに作用するものであっても、巻き込まれてしまう周囲の人はしんどいですよね。


 「早く子ども作りなよ~。妊娠菌あげるぅ~」と、マタニティハイの妊婦さんにボディタッチをされて不愉快だったというエピソードをネットで見たときは、思わず絶句してしまいました。「なんだそりゃっ、テロかよっっ」って話ですよ……(汗)


 夫婦のありかたも、家族のありかたも、人それぞれいろいろな考えがありますよね。その考えに、求められてもいないのによその人間が口をはさむべきではない。


 闇雲に他者を否定して、自身の考えが一番だと盲信して押し付けるのは、完全な迷惑行為かと思います。


 出産のしかたや育児の方法に関しても同じことが言えると思うのですが、この話はまたあとで――。

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