できちゃった出産

玉木ちさと

はじめに

 このエッセイは、妊娠・出産の体験記(のようなもの)です。しかしながら、キラキラもしていなければ、ふわふわ感もございません。素晴らしい母性や感動的な母子愛を歌い上げたハートウォーミングな雰囲気とは違うかなぁと思います。


 ざっくり申しますと、覚悟もないまま思いがけず妊婦となった女性が、ちまちま地味に悩みながら気持ちの折り合いをつけていく、その過程を淡々と綴ったお話です。その辺りをご承知おきの上お読みいただけると助かりますデス(初っ端から図々しくお願いなんてしてすんません……)。


 他の生き物たちのことはわかりませんが、人間って子どもを産んだからって親になれるわけじゃないんですよね。母性本能という便利な機能が備わっているという話もありますが、どうなんでしょうねぇ。


 確かに妊娠と同時に豹変……えーと、母性愛にシャキーンと目覚める人もおられます。ですが、母性なるものが発動しない人もいる。これ、本当です。私が生き証人ってやつですよ、ええ。


 ある教育者のかたが「女の子は素晴らしい母性をもって生まれてくる」と仰っているのをテレビで見たことがあります。男性のかたでした。いやいやいやいや、本当かい? それ、例外ないの? 思いきり懐疑的な私ですよ(苦笑)


 ここだけの話ですが(え?)、私は人間の赤ん坊を見て「赤ちゃん可愛い」と思ったことが一度もありません。子どもの頃からずっとです。周りの女の子たちが、お人形を使ってお母さんごっこをしているのを見ても、何が楽しいのかさっぱりわかりませんでした。そして、その感覚のまま大人になっていったのです。


 そんな感じなもんで「自分のような人間が親になるべきではないだろう」という気持ちがずっとどこかにありました。そして、いつしかそれは「自分みたいなやつが親になれるわけがない」という気持ちに変わっていったのです。なのに――人生というのは、本当にわからないものですね(汗)


 犬の赤ちゃんも猫の赤ちゃんも可愛いのに、どうして人間の赤ちゃんは可愛いと思えないのだろう? 「旦那は要らないけど子どもは絶対欲しい!」という女性の気持ちもわかりません。子どもができれば変わる(わかる)? 産めば変わる(わかる)? 本当にそうなのだろうか?


 結果を申しますと、ちーっとも変わりませんでしたよ、ええ(爆)まあ、この辺りの感覚も人によっていろいろらしいです。産み落とした瞬間に「愛しのベビたん!」となる人も確かにいるそうです。


 自他ともに認める「子ども嫌い」だった人が、大大大の「子ども好き」になって、保育園まで開いちゃったという話も聞いたことがありました。一方で、我が子は可愛いくてもよその子はやっぱり可愛くないまま、という人も……。


 私はといいますと――正直「可愛い」という感覚はありませんでした。「大事」ではあるんですよ、本当に。ただ「心の底から湧きあがる愛おしさでいっぱいになる」というような状態にはなりませんでした。


 おそらく、未知なるものへの怖さというのもあったでしょう。赤ん坊なんて育てことはありませんし。周りで育てているのを見たこともない。また、怖いという感情には「畏怖」というニュアンスも含まれていたように思います。


 自分のような人間が母業に携わるなどおこがましい。そんな気持ちがいつもどこかにあって、喜びや愛しさを感じるより、責任の重大さに押しつぶされそうになっていました。まあなんというか、往生際が悪にもほどがあるって話なんですけどね(苦笑)


 結局、母性なるものの発動が認められないまま月日は流れ、子どもは小学生になりました(笑)「赤ちゃん可愛い」という感覚はわからずじまいです、ハイ。


 こんな文章、ひょっとしたらお叱りを受けてしまうかもしれませんね。子どもに申し訳ないと思わないのか、とか。子どもが知ったら悲しむとは思わないのか、とか。或いは、子どもが大好きなのに授からなくて悩んんでいる人もいるというのに無神経ではないか、とか。


 言い訳に聞こえるかもしれませんが、子どもに対して「申し訳ない」という罪悪感はいつも心のどこかにありました。母性の欠落が子どもにどう影響するのか不安で、びくびくしながら気負っていたところもあるでしょう。


 ただ、自分の欠陥(母性の欠落を欠陥と言い切るのはあれですが……)を率直に認識した上で、周囲の人たちの適切な支援を得ながら「客観的に、安全に」やってきたのも本当です。


 えーと、ちょっと硬めの文章になっちゃいましたかね……(汗) つまり、何が言いたいのかというと――「たとえ母性本能が発揮されなくても、いろいろとやりようはあるみたいだよ?」という話なのです。


 ちなみに、当方「授かり婚」ではありません。「結婚してからずいぶん時間もあっただろうに、まーったく覚悟もできてないとは何事じゃっ」という……(汗)


 まあまあまあ、とにもかくにもです。悩み癖のあるメンタルこじらせ系の三十代女性が、優しい人びとに助けられながら、妊娠・出産・育児にまつわるクエストをどうにかクリアしていくさまをご笑覧いただけたらと思います。



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