TRACK 08;夢を守る為に

「!浅川君!」

「!!うーうー!」


 エスパーズを幸雄さんに任せて隣の部屋に入ると、そこには両手足を縛られて、口も縛られた浅川君がいた。

 どうやら私は、監禁された人を助ける仕事が多いみたいだ。自分自身を助けた事もある。


(まぁ…喧嘩が出来ないから当然か…。)


「大丈夫!?」

「ご免!でも、ありがと!急いで地下倉庫に向かおう!」

「?そこに証拠写真を隠されたの!?」


 浅川君は昨日、会社とヤクザの会合をカメラに収めた。秘密裏の行動で、側に千尋さんがいたにも関わらず捕まった。

 でも、カメラは取り上げられていないと言う。だから監禁されたのだ。


「地下の倉庫に、安本さんが閉じ込められてる!」

「えっ!?」


 そこで分かった。行動がばれた理由は…健二さんのせいだ。所長が言った通りだった。

 健二さんは昨日、エスパーズの1人を口説こうと事務所に来た。そこで全てを、洗いざらい話してしまったのだ。そして事務所に戻って来たゴールド社の社長と、一緒に付いて来たヤクザに囲まれた。

 経緯を知らない浅川君は社長の呼び出しに応じて、同じく捕らえられた。彼が捕まったのは、昨日の深夜だと言う。


(……。女性に弱過ぎるわ…。探偵失格ね。)


 幸か不幸か、急な呼び出しを怪しんだ浅川君はカメラを隠した。それも自分の家ではなく、鉄道の駅のコインロッカーらしい。ダイアル式なので鍵もなく、だから口を割るまで監禁される事になった。




(………?おかしいな…。)


「浅川君。捕まってるのは、健二さんだけ?」


 さっき、エスパーズのメンバーは4人だけだった。


「ううん、メンバーの1人である中井さんも一緒だよ。彼女は他の人と違って、ヤクザとの付き合いに反対したそうだ。」


(…そう言う事か…。)


「だったら、急いで向かわないとね。中井って人が一緒なら、健二さんは抜け出せない。」

「?どう言う事?」

「良いから!地下倉庫まで案内して!」

「うん!」

『ガチャ!』

「!?」


 浅川君を自由にしてあげたところで、背後にある扉が開いた。


(まさか…幸雄さんがやられた?)


「ふう…。あの男は相当な馬鹿ね?」


 振り向くと、エスパーズの1人がそこにいた。


「幸雄さんは!?」

「あの男?…私達の手品を、喜んで見てる。」

「!?」


 駄目だ。幸雄さんの発作が再発した。ここに向かう車の中で、やっとその気になってくれたのに…。もう1つ向こうの扉では所長が1人でヤクザを相手していて、地下には健二さんが捕らえられているって言うのに…。


「幸雄さん!目を覚まして下さい!今見てるのは、超能力じゃありません!ただの手品なんです!」


 隣の部屋に向かって大きな声を出したけど………様子は変わらないみたい。


「あの男…。底なしの馬鹿よ?手品を見て喜んでるんじゃなくて、私達の芸を、本当に超能力と思い込んでるみたい。」

「………。」

「子供と一緒ね。」


 呆れるのを通り越して、情けなくなってきた。


「そうだよ。子供はそうやって…超能力を信じてるんだ…。」

「…浅川君……。」


 全身の力が抜けそうになったと同時に、体の自由を取り戻した浅川君が立ち上がった。


(浅川君…。幸雄さんは、子供じゃないから…。………多分だけど…。)


「だから君達は、最後まで超能力者でいなければならないんだ!グッズなんかを売り出したら、子供達が夢から覚めてしまう!夢を…諦めてしまうんだ!!」

「浅川…。あんたはまだそれを言うの?あんたも馬鹿の1人だね?私達5人は、あんたの誘いを受けた時から似非超能力者を演じるつもりだった。マジシャンとして世間に出るには、誰もが通る道でしょ?」

「違う!マジシャンとして成功したいなら、最初からマジシャンとして仕事をすれば良いんだ!」

「それじゃ世間の注目を浴びないでしょ!?あんたに声を掛けられるまで、私達は食べて行くのも大変だった!何よりもこの道を勧めたのは、あんたじゃない!?」

「………。それは……。」


(………。)


 相手の言葉に、私の胸も痛くなった。


「反省してるよ。君達を騙し…今度は、子供達を騙そうとしてる。でも!今ならまだ引き返せる!子供達の夢を守る為にも、僕らは世間から姿を消さなければならない!エスパーズは、解散しなきゃならないんだ!」

「そうは行かないわ!大体、グッズを売ったって、いつか正体をばらしたって世間は責めないわよ!誰もが嘘だって知ってる!最初っから、超能力なんて茶番なのよ!」

「違う!子供達は違う!僕らを信じ、超能力を信じてくれてる!人間の可能性を信じて疑わない!…エスパーズを信じて夢を追う子供達を、どうして僕らが傷付けるんだ!?」

「誰も傷付かないわよ!子供達だって、私達がマジシャンだと思ってる!私達を見て、マジシャンを夢見る子供が現れるかも知れないでしょ?だったら、私達がしてる事も悪くはないはずよ!」

「違う!それでも人を騙してる!僕の目的はそうじゃない!そして超能力は、手品よりも偉大だ!大きな夢だ!人間の可能性を、更に引き出す能力なんだ!」

「……。はぁ…。呆れて何も言えないわ。」

「だったら、そのまま黙ってろ!」


 浅川君が興奮した。…嬉しかった。彼は、アメリカにいた頃の彼に戻っていた。


 エスパーズのメンバーが呆れた顔をした時、後ろの扉が開いた。幸雄さんが現れて、エスパーズを羽交い絞めにした。


「早く!健二を見つけ出して!地下室にいるってさ!エスパーズのメンバーも、一緒に閉じ込められてる!」


 幸雄さんも、いつもの幸雄さんに戻っていた。

 いや……この人の場合は違う。いつもの幸雄さんから、仲間思いの幸雄さんになったのだ。


「後の事は、今度こそ宜しくお願いします!」

「任せときな!」

「奥の扉は裏口になってる。側にある非常階段を下って行けば、そのまま地下倉庫に辿り着く!行こう!橋本さん!」

「うん!」


 向こうの部屋で何があったか知らないけれど…とにかく私達は、健二さんの救出に向かった。

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