TRACK 04;テレパシー
「これだ!向かった先が分かった!」
(バキュン!バキュン!これは、ワルサーP38!かの有名な泥棒が所持していた銃だ。カッコ良い!)
(キラリと光るこの刀は、全ての悪を切り裂く!俺は侍だ!『安心せい、峰打ちじゃ。』……なんちゃって!)
(このベルトを腰に巻けば、俺も今日からヒーローだ!とう!悪い怪人達を、なぎ倒してやる!)
(はぁ……この光線銃から、本当にビームが出れば良いのになぁ………。)
(……もう1度会えるんだ。ピンク……。可愛いよな~~!!)
指先で触れる全ての物から幸雄の強い思念とウザさを感じながらも、僕はやっと彼の行き先を読み取った。それは壁に掛けてあった『超能力戦隊エスパイラル』の、戦隊ピンクのコスチュームからだった。弘之が教えてくれた。
(フィギュアじゃなくて……コスチュームなのかい?しかもピンクだなんて…。)
その事にショックを受けたけど、更にショックだったのは彼が残した残留思念だ。
(週末が楽しみだ!『超能力戦隊エスパイラル』をまた拝める!ひょっとしたらそこで、昔見逃した限定フィギュアを販売してるかも!)
僕は読み取った残留思念を皆に伝えた。これが……幸雄が言ってた『どうしても外せない用事』だった。
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
他のメンバーは三人一様、同じ反応をした。
「………そっ、そのヒーローショーの事なら、さっき応接間でパンフレットを確認した。」
「夏休みも終わりに近い。最後のショーなんだろうな…。」
弘之が、さっきまでの張り詰めていた緊張感を取り戻そうとする。
「だっ……だったら、早くこの部屋を出て応接間に行きません?」
橋本さんが弘之を手伝い、部屋から出て行こうと提案する。僕と健二に異議はない。
「これだ。このパンフレットだ。遠い町の百貨店の屋上で、ヒーローショーが催されてる。だから幸雄は、相棒を貸して欲しいと言ってたのか……。全く、禁止令を解除した途端にこれだ。」
「この町だと、車でも半日掛かるぞ?」
「半日!?だったら急がないと!」
弘之が、応接間に散らばる数あるパンフレットの中から幸雄が向かったヒーローショーのパンフレットを見つけ出し、健二がその場所を教えてくれた。
(幸雄……。そこまで足を運ばないといけないのかい!?そこまでして、ヒーローショーが見たかったのかい!?)
声に出したい言葉を我慢した。やっと取り戻した緊張感を維持しようと必死だった。
「昇に車を借りるか?」
健二も合わせてくれている。……多分。彼の声は元々低いから、呆れているのか緊張感を保ち続けているのか分からない。
「………エスパイラルねぇ……。」
(いや、健二……。君はやっぱり、呆れてるね?)
健二が、溜め息交じりに呟く。
「昇か?ちょっと、頼みがあるんだ。」
早速、弘之が昇君に連絡を入れた。昇君は即答でOKをくれた。僕らは急いで彼の家に向かい、車を借りて幸雄が訪れた百貨店を目指した。
(幸雄…。頼む。無事でいてくれ。)
遠い町に向かった理由には呆れるけど、その帰り道で誰かに襲われるのかも知れない。
いや、ひょっとしたらもう……。
弘之が車のアクセルを強く踏み、僕らは急いでその町へと向った。
町へ到着した頃には、風が冷たくなっていた。日が暮れ始めたのだ。
弘之が事務所に電話を掛けて、千尋にこれまでの経緯を説明する。
千尋からの伝言もあった。久し振りに、事務所にお客さんが訪れたそうだ。例の如く危ない人達が、金庫を開いて欲しいと頼んだらしい。
千尋は来週まで待てと言って、お客さんを返したそうだ。
「俺達が食って行くには、幸雄の存在は不可欠だ。」
弘之の絵を見た健二がそう言った。
「必ず、あいつを助け出すぞ。」
「…………うん!」
幸雄が持つ能力はテレパシーだ。金庫の開錠に必要な能力だ。
そしてもう1つ…彼は、特別な能力を持っている。
『拓司!拓司~~!!』
『どうしたんだよ?騒がしいな?』
小学2年生に進級して、僕らはクラスがバラバラになった。
僕は、クラスの皆と仲良くやっていた。指先からは、誰からの悪口も聞こえなかった。
(琴田君って、目が見えないのに凄い。自分の事は、全部自分でやってのける。)
(大変だろうな……。色々助けてやりたいけど、あいつは構わないって言うし……。)
(親御さんには、自慢の息子さんでしょうね。私もこんな立派な生徒を任されて、とても光栄だわ。)
幸雄のお陰で、僕は皆から認められていた。
『帰りに、いつもの公園に行こうぜ!見せたいものがあるんだ!』
『???』
僕は幸雄とクラスが分かれて、友達が多くなった。
幸雄は僕と離れて、新しいクラスで孤立していた。
(1年生の時に、僕に友達がいなかった理由って………。)
僕が周りに甘えていた事は承知している。ひねくれ過ぎていた。だけどあの頃の事を考えると、そんな疑問まで抱いてしまう。
幸雄は2年生になっても、登下校を僕と共にした。1人で大丈夫だって言ったけど、それでも幸雄は面倒を見てくれた。
幸雄は僕を公園へ連れて行き、いつもの場所で僕を待たせた。
『…………分かった!お前今、早く帰りたいって思ってるだろ!?………って、どうしてだよ!?』
『!!どうして分かったの!?』
彼が僕を公園に連れて来た理由はこれだった。
彼は、能力に目覚めたのだ。
『俺はずっと、お前と同じ能力を持とうと努力してた。言ってただろ?『君には分からないよ。僕の気持ちなんて……』って。だから俺は、テレパシーを身に着けようと努力してたんだ。』
『テッ、テレパシー?』
『ああ、そうだ。人の心を読み取る能力だ。そして、人に自分の気持ちを伝える能力だ。』
『でっ、でも、努力したって……一体どんなやり方で?』
『??やり方?そうなりたいって念じれば良いんじゃないのか?』
『…………そんな簡単な事じゃないと思う……。』
『とにかく!俺は、お前と同じ能力を手にしたんだ!これで俺は、お前の気持ちが分かってやれる!』
『…………………。』
心に秘めていた苦悩は、既に彼が取り払ってくれた。それも知らずに幸雄はずっと、僕の気持ちを理解しようと努力してくれていたんだ。
(それにしても……一体、どんな努力を……?)
この時から既に、残念な彼の姿を見る事が多かった。
でも、その理由は知っていた。彼は常に、何かに対してがむしゃらなのだ。周りが見えなくなる程に何かに没頭する。
そして周りが見えなくなるから、誰かに合わせる事も出来ない。それが幸雄なのだ。
『信じないんなら、実験してみようぜ!?……ちょっと待ってろよ?』
『………。』
未だに彼の言葉が信じられない僕の心を、幸雄はもう1度見抜いた。
『!!?何だい、これは!?頭が痛い……。』
『向こうのベンチに座ってるサラリーマンの、頭の中を覗いた。そのイメージを今、お前に送ったんだ。頭が痛いのは、俺が初めてイメージを送ったからだ。まだ扱い方がなってないんだ。練習を重ねれば頭痛はなくなる。…多分。』
『???』
数分ほど離れた場所にいた幸雄は、戻って来ると僕の頭を睨むようにして見つめた。
すると僕の頭に、鈍い痛みが走った。
でも…とても不思議な感覚だった。目が見えない僕なのに、予知夢を見ている訳でもないのに、脳裏に鮮明な映像が浮かんだ。男の人が、出世して社長になるイメージだった。
『………?これは……?』
『だからイメージだ。あの~、済みません~!』
まだ事態が理解出来ない僕を他所に、幸雄は近くに座っているサラリーマンに声を掛けた。
『社会科の宿題で、色んな人の仕事を調べなければならないんです。協力してもらえますか?』
『?ああ、僕なら構わないよ。』
『僕は塩谷幸雄です。こいつは、琴田拓司と言います。拓司。ほらっ、握手!』
どうやら幸雄は、サラリーマンの人と握手を交わしたようだ。
僕も彼に促されて、サラリーマンの人と握手を交わした。
(!?これは……!?幸雄が送ってくれたイメージと同じもの……!)
『ご協力、ありがとう御座いました!』
『えっ!?何?まだ何も聞かれてないよ!?』
『あ……ええっと、済みません。僕の勘違いでした。宿題では、女の人から意見を集める事になってました。』
『……?そうなの?だったら僕は……』
『さっ!拓司、次の人探そうぜ!』
僕が何かを悟った顔をしたと同時に、幸雄はサラリーマンの人に断りを入れて、僕の手を引っ張ってその場から離れた。
『………なっ!?』
『………凄い。本当だった。幸雄……。君も、特別な能力を持ってたんだね?』
『まだ空を飛んだり、指からビームは出せねえけどな。』
『……………。』
未だに、幸雄がテレパシーを身に着けた経緯は不明だ。僕のように、生まれた時から素質があったのか……?それとも彼が言うように、何らかの努力をしてそうなったのか……?
(それにしても、努力って……一体どんな努力を……?)
1つ確かな事は、彼は中学生になる前にもう1つの能力も手にした。尋常ではない身体能力だ。数メートルもジャンプしたり、鉄の棒を曲げたり出来る。人には見えない速さで走ったりもする。
それは幸雄曰く、憧れるヒーローになりたいと願っている内に、彼らに近い能力を身に着ける事が出来たと言う。
それが正解なのなら、彼は後者の人間だ。つまり努力をして能力を身に着けた。
(…………………………努力って……???)
幸雄の能力……。それは、願望を実現化させる力だ。メンバーの皆は身体能力やテレパシーだけに驚くけど、僕からすればそれは…彼が持つ能力の一角に過ぎない。
いつの日か幸雄は、本当に指先からビームを出せるようになるのかも知れない…。
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