TRACK 02;追跡開始

「弘之!1人で来たのかい!?幸雄はどうしたんだい!?」

「家にいなかった。週末にあいつが連れて行った、相棒の姿も見当たらない。恐らく幸雄は、まだ戻ってないんだろう。」

「何だって!?」

「遠出した疲れが出たんだろう。帰り道の途中なのか…若しくはまだ、向かった先で寝てるかじゃないのか?」

「……………。」


 他のメンバーが出勤した頃に、やっと弘之が現われた。

 だけど彼は1人だった。


「携帯に連絡を入れたが、着信音は家の中から聞こえた。透視してみると、玄関の靴置きに置き去りにされていた。」

「……忘れて行ったんだね……。」

「あいつらしいな。」

「…………。」


 弘之の言葉に、健二が突っ込みを入れる。でも、その声は不安そうだった。


 僕は弘之を待っている間に、メンバーに今朝見た予知夢の話をしていた。

 僕の能力を知る皆は、幸雄の安否を気にした。



「拓司、今日見た予知夢の場所に、何か心当たりはないのか?」


 遅れて事情を知った弘之が、早速動き出す。


「全くないんだ。感覚として、狭くて真っ暗な場所だった。そして幸雄は、手足を動かせずにいた。多分、自由を奪われてるんだ。」

「せめてそれが、何日後の予知夢か分からないか?」

「……ご免……。」


 僕の言葉に、皆は言葉を失った。絶望的だった。


「根岸組の残党か!?あいつらが幸雄を襲った……いや、襲う気でいるのか!?」

「いや、岡本の件で恨みを買ってるなら…俺か藤井か…橋本が狙われるはずだ。」

「………えっ!?」


 健二の言葉を千尋が否定し、千尋の言葉に、橋本さんが息を喉に詰まらせて腰を落とした。今更ながら、現場に向かったリスクを知ったようだ。


「とりあえず、幸雄の家に向かおう。消息が分かるかも知れない。」

「だったら、僕も一緒に行く!僕の指先なら、見えない物まで調べられる!」

「勿論、そのつもりだ。一緒に行くぞ。」

「……うん!」


 弘之は、相変わらず判断が早い。


 千尋は今日、幸雄の家の方角に不吉な予兆があると言う。事務所の留守番は彼に任せて、僕と弘之、健二と橋本さんで向う事にした。


 …千尋が事務所に残る。でも、誰も彼を責められない。僕の予知夢と一緒で彼の占いも、絶対的である事を知っているのだ。

 千尋は拒んだんだ。自分が鬼門に向かう事で誰かが不幸にならないか?ひょっとしたら幸雄の災難は、自分が原因なのではないか…?そう考えたんだ。




「健二。鍵の構造は、そんなに難しくない。」


 幸雄の家に到着した弘之は、早速、鍵穴を透視した。そして絵に描き、健二に見せた。


「………分かんねえよ。」


 しかし弘之の絵は、思った以上に出来が悪い。健二だけでなく、橋本さんも理解出来なかった。


 いつもなら、2人の間に幸雄がいる。彼が弘之の頭の中を覗いて、それを健二に伝える。

 でも、今日はそれが出来ない。


(幸雄……。君がいなければ、僕らはチームとして成立しないんだ。どうか無事でいてくれ。)




『拓司!お前、ヒーローって分かるか?』

『………ヒーロー……?』

『ああ、ヒーロー!』


 小学1年生の夏休みに、幸雄が僕を公園に誘ってそう語った。


『知らない……。』

『そうか…。お前テレビ、見れないもんな?』

『…………。』


 幸雄は時として、無神経な言葉を投げ掛けた。でも、僕の心は痛まなかった。出会った時から知っていた。幸雄は僕を、嫌ってなんかいない。馬鹿にしてなんかいない。


 そして、この頃から分かり始めた。彼は正真正銘の、単純な人間だ。

 だからこそ悪気や嫌味を知らない。人を傷付けてしまう言葉も、彼にとっては何気ない言葉に過ぎなかった。


『良いか?拓司。ヒーローってのはな、人を助ける人の事を言うんだ。強くてカッコ良くて、必殺技や物凄え武器も持ってんだ。』

『……………。』

『赤や青、緑の戦闘服を着て悪をなぎ倒すんだ。…あっ、ご免。お前に色の事を言っても分からねえか……。』

『……………。』

『説明してやるよ。赤はな……赤い色をしてんだ。そして青は青色をしていて、緑は…緑の色をしてる。』

『それじゃ、何の説明にもなってないよ。』

『……そうか?』


 彼は正真正銘の、単純な人間だ。そして確信した。

 彼は……正真正銘の馬鹿だ。


『そしてヒーローは、特別な能力を持ってんだ。』

『!?………特別な能力?』


 僕は、あの当時から色を知っていた。その頃から予知夢を見始めた。

 僕が見る予知夢では、映像が全て鮮明な色を持っている。そこから学んだ。


 だけども能力の事は、誰にも話した事がない。

 だから幸雄が話した言葉に、僕は驚いた。


『特別な能力って………どんな?』

『例えば、掌や額からビームを出したり、空を飛んだりだ。パンチやキックも特別なんだ。一発で、怪人や魔人を倒す事が出来んだ。』

『………………。』


 幸雄が教えてくれた特別な能力とは、僕が持っているものとは懸け離れていた。


『たっ…例えば、人が考えてる事が分かったり、未来の事を予想出来たりする事は?』


 僕は心臓を、ドキドキさせながら幸雄に尋ねた。


『??それは超能力だ。ヒーローが持ってる能力じゃない。』

『………?超能力?』


 幸雄はあの当時から、色んな事を知っていた。何か特別な事に関心を示す、マニアックな子供だった。


 幸雄から、超能力について教えられた。僕のような人間が、実は他にも存在する事を知った。


『ぼっ、僕らもそんな能力、身に着ける事が出来るのかな?』

『??どうだろうな?俺はそんな事よりも、指からビームを出したい。』

『……………。』


 あの当時の幸雄は、超能力には関心を持っていなかった。まだ、自分に秘められた能力を知らずにいたのだ。


 そんな幸雄に僕は、自分の能力を打ち明ける事にした。


『幸雄……。実は、僕……』

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