第156話 櫻井大なり玉藻。ノットイコール!!
櫻井君からのワンポイントアドバイスを貰い、ミキちゃんと私は昇降口まで移動してきた。昇降口につくとミキちゃんは力が抜けた様に靴箱に寄りかかって座りだした。
「はぁー、櫻井の言う通りだ……私って、
狡いなんて……
「そんなことないよぉお!!」
「えっ?」
だって、誰だって知りたいと思うものだと思うから。
私だって、知りたかった。
自分の好きな人が誰を好きなのかなんて気になってしょうがないに決まっている。櫻井君が断る理由もわかるけど、お願いすることが悪い子だなんて私には思えないから。
私の本気の気持ちが伝わったのか、
「ありがとう、鈴木さん」
ミキちゃんの顔が少し柔らかくなった。
「ミキちゃんの気持ちが分かるから……」
痛い程わかる。最近になってわかってきた。
誰かを好きになるってことは、
自分の醜さを見ることと同じなんだと思う。
嫉妬に溢れかえった、今だからわかる。
誰かが想い人を好きになっただけでも、許せないという傲慢な考え。
誰かが想い人に近づくだけで許せないと思う独占欲。
自分じゃなきゃイヤだっていう利己主義。
分かれば分かるほど、、自分がどれだけ醜い化け物なのかわかってくる。そういう気持ちを持っちゃいけないものだとしても理解していても、湧いてきてしまう。
抑えることすら出来ない感情の波に飲まれていく。
そういうものが誰かを好きになることなんだって、
―—痛いほど分かるから。
私もミキちゃんの横にスカートの裾を整えながら座る。
同じ気持ちで同じ目線で壁を見つめることで何かが分かりそうな気がしたから。ただ静かにその場に二人で一向に変わらない世界に取り残されたように座っていた。
どれだけ想ってても、それが伝わらないからもどかしい。
「鈴木さん、前は変なこと聞いちゃって、ごめんね」
「前って?」
「いや……涼宮と付き合ってるって言ったこと」
少しばつが悪そうにいうミキちゃん。
そういえば、お昼の時に一回そんなこと言われたかも。
「別に気にしてないよ。強ちゃんと私は付き合ってないし………っ」
うっ……ダメージが。
自分で答えを返したが、ずーんと体が重い……。
現実が重く肩にのしかかってきたような感覚。
そうだ――、
頑張ってはいるけど一向に進展しない関係。
どれだけ近づこうとしても埋まらない距離。
肩がぶつかりそうなくらい横を歩いてても心が空まわりしている。
年だけ無意味に重ねて、
巡りくる季節のように出会うことはない想い。
私が夏の様に浮かれていても、
強ちゃんは冬の様に冷たく返して来るだけ。
『
——冬のダメージがッ!!
「っっ…………ぐぬっ」
「鈴木さん!」
私があまりに落ち込んでいるのを見かねて、
「大丈夫だよ、たぶん涼宮も鈴木さんのこと好きだって!!」
ミキちゃんが励ましてくれたのに、
「そんなことないよ……」
私は笑顔を作って返す。
「強ちゃんが私を好きなんていうのは妄言だよ……はは、はは」
「鈴木さん、顔は笑ってても目が死んでるよ!!」
いま私はどんな目をしているのだろう。
確かに力が入らないや。浮かれたり落ち込んだり振り回される。
心のブレーキが壊れた様に舵がきかなくなる。
「強ちゃんから……」
唇を噛みしめて私は愚痴をこぼした。
「もう二度とおうち来るなって……言われたしッ」
「泣かないで、鈴木さん!?」
―—おねいちゃん失格だし……。
目に力を失くし体の力を失くした、私は靴箱に寄りかかった。
「どうやって、仲直りすればいいんだろう……」
「涼宮と喧嘩してる……の?」
喧嘩だったらよかったかもしれない。
私は遠い所をみてポツリと現実を語る。
「一方的に絶縁されてるの……」
「絶縁!?」
いま現状をハッキリと理解すると最悪な状況だ。
おうちへ行けないのに、どうやって話をすればいいのだろう。
強ちゃん、携帯電話持ってないし。
どぼじよう……っ
「泣かないで、鈴木さん!?」
もうギブです。鈴木玉藻はギブアップです。
視界が歪んで無理なのですぅ。
「うぅう……」
「大丈夫だから、大丈夫! きっと涼宮も何か誤解してるだけだから!!」
誤解も何もソファーで寝ていたのです。
妹が風邪で倒れている時に私は呑気に惰眠をしていたのです。
鈴木玉藻はダメな奴なのです。おねいちゃん失格なのです。
それに傷ついてる時に優しくされると……ダメなのです。
「うぅうううううう――――」
私の心は決壊しどっばーと涙が溢れだしてきた。
「鈴木さん!」
「もうダぁメ……」
距離が埋まらないどころか溝が深くなっている気がする。
これは私の邪な気持ちが天に見透かされて罰が当たったのだろう。
私が嫉妬深くも櫻井君を恨めしく思ったのがいけなかったんだ。
チョコを渡した子が、
強ちゃんに近づくのを退けた罪が下ったのだ。
私の自分勝手な行為によるツケの代償が、
『おねいちゃんはく奪』なのだ。
「涼宮に電話して、話してみれば大丈夫だよ」
「強ちゃん電話とか持ってないし……あれ……?」
私の記憶がわずかに疼いた。
強ちゃんって携帯電話持ってないよね。
けど、なんだか電話をかけてた記憶が若干残っている。
——気のせいだよね……。
ちょっと、ずつ鮮明に場面が蘇ってくる。
―—あれは……夏の日?
―—強ちゃんの部屋だ……
―—強ちゃんと一緒に夏休みの宿題をしてて……
『あいつも呼ぼうぜ、櫻井も!!』
『櫻井くん? いいけど……強ちゃんにも夏休み遊べる友達ができたんだね。よかったね……ぐすん』
『櫻井、今から俺の家来いよ。待ってるから』
「あれ……?」
「どうしたの?」
―—大事件だ……。
——強ちゃん携帯電話持ってる……私……番号知らない。
「強ちゃん……なんで……っ」
私の中で悲しみが徐々に怒りへと変わりつつある。
嫉妬に私の心がどす黒く染められていく――。
「電話番号教えてくれないの……」
「鈴木さん、涼宮の番号知らないの!!」
「知らないよッ!!」
私が声を上げるとミキちゃんはビックリしていた。
私もビックリしている。
強ちゃんが携帯電話持ってるのに番号交換してくれていない事実に。
さらに頭の中で方程式が組みあがっていく。
「また……負けた……ぅうう」
悔しさで涙がまたぶり返してきた。
強ちゃんの中で確立されつつある方程式に私は気づいてしまった。
―—恐るべき方程式だ!!
強ちゃんの中での順位は、
―—櫻井大なり玉藻。ノットイコール!!
櫻井はじめ > 鈴木玉藻。
強ちゃんとの積み上げた時間と信頼の関係性は、
―—櫻井二年大なり玉藻十三年!!
―—ノットイコールゥウウウ!!
あっさりと破られるものだったのだと。
≪つづく≫
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます