第154話 何しに来た?
―—ミキフォリオと鈴木さんの視線が痛い……。
凄い眼力で俺を睨んでいる。
最近、女難のそうが色濃いのですが……俺はそういうの苦手なんだ。ただ俺の周りに女子比率が高くなりつつあるからこそ、不幸な俺の本領を発揮されているのだろうか。
というか……
何か、こっちに近づいてきてない……?
扉の端から徐々に徐々に近づいてくる二人の女。
——なにこれ!?
体がゆらゆら揺れて、出来の悪いゾンビ映画のような動きの癖に、
ダッシュで俺の方に着実に向かってきている。
―—怖いんですけどッ!!
「櫻井!」「櫻井君!!」
強の机がドンと二人に叩かれ威圧を受ける。
―—あー、神様……どうして貴方はそうなのですか?
―—俺に対しての不幸の割り当てが多すぎませんか?
俺を弾圧するような眼差しで二人が俺を見ている。
―—俺が何をしたっていうんだ……
本当にいつもいつも健気に生きているのにアンタときたら、
俺を目の敵のようにしていわれなき天罰を下す。
テメェだけは……
許さねぇぞ、ゴッド!!
だが、神を恨んでも現状はなんら変わらない。
二人組の女子に俺はこれから罵倒されるのだろう。
いいよ、もう諦めてるから……。
「俺が悪かった……全部俺が悪いんだろ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ……」
「櫻井、何言ってんの?」
「お前らは俺を逆恨みしてイジメるんだろ! 好きにしたらいいさ!! 言葉攻めぐらいで俺はへこたれねぇからな! 好きなだけ俺をなじればいい! エロ同人みたいに!! エロ同人みたいにッ!!」
「櫻井君、エロ同人ってなぁに?」
「なっ!?」
なんてピュアなんだ……そこは分かって欲しかったのに。
というか、スルーすらしてくれない純粋さが痛い!!
そういう返しをされると俺もすごい困る。
鈴木さんの天然パワーに俺の邪悪さが浮き彫りになるじゃないか。俺だってエロ同人なんて言葉をそんなに詳しく知らないし、それがどんなもんか現物はみたことないんだ………。
「さくらいくん、なぁーに?」
やめてくれッ!
そんな純粋なエロスを知らない子供のような、
無垢な眼で俺を見ないでくれッ!
俺が穢れてるみたいじゃないかッ!!
「櫻井は……何を言ってるの?」
「お前は……エロ同人が分かるだろッ! ミキフォリオ!!」
俺は知っているぞ、お前がオタクだってことぐらい!!
ミキフォリオは田中組の中でオタク系。
外見からは想像もできないがガッツリしたオタク。
容姿は女子高とかでいたら間違いなく後輩から告られるような顔立ち。どこかスポーツをやっている様な健康的な体つき。宝塚とかにいそうな雰囲気を持つ癖に、アニメ、漫画、フィギュア、特撮などなどほぼ全網羅していることは田中から情報をしっかり得ている。
なんなら、最近少し腐りかけているらしいことも知っているんだぞ。
なぜなら、お前のデートプラン考えてるの俺だからな!!
「わかるけど……何を一人でテンパってるの?」
「お前が……何言っちゃんてんだッ!!」
コイツはこういうところがある。
この間の講義の時もそうだが……
自分を棚上げして人を貶める習性が天然に備わってやがる!!
そういうの、嫌いだなー、オレ!!
「落ち着いてよ……櫻井」
「お前らが俺の平常心を奪うからだ!!」
「櫻井君、どーどー」
「————っ!?」
鈴木さんのこういうところがカチーンと来るよね。
強ちゃんの気持ちがわかってきたよ。
「櫻井君、とりあえず深呼吸したらいいよ。スーハ、はい一緒に♪」
「……………」
イライラしている時の鈴木さんの言動は火に油を注ぐ行為だ。
「はい吸って、スー、ハー、吐いてぇ……」
「ふぅー、ふぅー!!」
「なんで一緒にやってくれないの!?」
自分の前髪を吐息で持ち上げる行為。
俺は下唇を少しずらして上に息を噴き上げて自分を落ち着かせた。
イライラが頂点に達するとやるやつがいるあの仕草である。
だが、やっていると……若干落ち着いてきた。
「ミキフォリオ、鈴木さん……」
俺は落ち着てい二人の名前を呼び、眼つきは威圧と疑いの眼を持ち
「何しに来た?」
確認することに。
≪つづく≫
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