第75話 塹壕の中でセーターを編む


そろそろ毛糸玉も尽きてきました。


意地悪な黒猫が、どこかに持ち去ったのかもしれません。


あるいは、別の誰かが、マフラーを編むために借りていったとか。


誰かの手に渡った方が救いがあります。


仮に先端が泥の河に沈んでいても、誰かがそれを掴むかもしれない。


わたしが今握っているこの切れ端が、その糸とつながっていると思うと誇らしいです。


塹壕の中には兵隊さんがたくさん横たわっています。


わたしの仕事は彼らにセーターを着せてやることです。


でももう毛糸玉はありません。


塹壕の外は寒いのでしょうか。暑いのでしょうか。


毛糸を探しにいかなくては。兵隊さんが待っています。



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