明恵(みょうえ)のおとぎ話

明恵(みょうえ)

赤の魔法使い

 むかしむかし、あるところに太陽の国がありました。


 太陽の国はとても小さい国で、国王である太陽王のもとには100人しか民がいませんでした。ある日、太陽の国に紫の魔法使いがやってきました。紫の魔法使いはそれまで色々な国を訪れては多くの知識を得ており、その魔法の力も強大なものでした。彼は増幅する魔法の使い手でした。太陽王は紫の魔法使いをいたく気に入り家来にしました。


 数年後、紫の魔法使いは、二人の若者を弟子にとり魔法を教えました。二人の弟子は、他人からあらゆるものを奪う黒の魔法使いと他人にあらゆるものを分け与える白の魔法使いに育ちました。太陽の国は三人の魔法使いのおかげでとても大きな国になりました。

 

 しかし、太陽王は安心できませんでした。太陽の国の民たちは、紫の魔法使いをあがめるようになっていたからです。太陽王は領土の一部を紫の魔法使いに分け与え、太陽の国から追放しました。紫の魔法使いは与えられた領土を開拓し月の国を築きました。月の国はたいそう繁栄し、たった5年で太陽の国の4分の1ほどまでの国力を持つまでになりました。


 それまで三人の魔法使いでなんとか支えていた太陽の国を黒の魔法使いと白の魔法使いの二人で支えきれるわけもなく少しずつ国は衰えていきました。


 そこで、白の魔法使いは月の国を訪れ、紫の魔法使いに助けを願い出ました。紫の魔法使いは、太陽の国に入ることを禁じられていたため、自らの息子を白の魔法使いに紹介しました。紫の魔法使いには、炎を宿した赤い魔法使いと氷を宿した青い魔法使いの二人の息子がいたのです。


 赤の魔法使いは力を制御できず、絶えず自らの体を燃やしていました。彼はまわりに迷惑をかけることを恐れ、洞窟で一人で暮らしておりました。青の魔法使いも同じく力を制御できず、まわりの人や物を凍らせましたが全く気にせず月の国で暮らしていました。


 白の魔法使いは、孤独な赤の魔法使いを気に入り、彼を弟子に取りました。白の魔法使いは何度も赤の魔法使いの放つ炎に焼かれながらも諦めず、赤の魔法使いに力の制御をする方法を教え続けました。


 数年後、太陽の国と月の国をとても大きな寒さの波が襲いました。


 月の国は青の魔法使いが国全体を覆う氷の壁を作り上げ国を守りました。しかし、青の魔法使いが作り上げた氷の壁は溶けることがなく、外界から遮断されることになってしまいました。


 同じく寒さの波に襲われた太陽の国では、黒の魔法使いが民からあらゆるものを無理やり奪い取って自らと国王たち王族を寒さから守りました。そんななか白の魔法使いはあらかじめ蓄えて置いておいた自らの力で寒さで凍える民たちを必死に支えました。しかし、彼の力は目に見えるものではないため、誰も白の魔法使いの助けに気付きませんでした。赤の魔法使いは師匠である白の魔法使いの姿勢に感動し、自らも民の役に立ちたいと心の底から思いました。


 その時です。赤の魔法使いに奇跡が起きました。それまで自らのまわりにだけしか炎を出せなかった赤の魔法使いは国中の暖炉に炎をともすことができるようになりました。おかげで、太陽の国の民は凍えることなく、寒さの波に耐えることができました。


 寒さの波が過ぎ去った後、赤の魔法使いは氷の壁で覆われた月の国を訪れ、氷の壁を溶かしました。その時、二度目の奇跡が起きました。青の魔法使いに宿った氷が溶けたのです。青の魔法使いは氷ではなく水を宿した魔法使いに生まれ変わりました。それと同時にとても優しい魔法使いに生まれ変わりました。彼は砂漠の国へ渡り、水不足で困る人たちの多くを救いました。そして、砂漠の国が草原の国になったころ、その国の女性と恋に落ち、子をもうけ、幸せに暮らしました。


 太陽の国の赤の魔法使いは、寒い波から国を守ったことを民から感謝され、太陽王と並ぶほどの崇拝を得ていました。


 ある時、太陽王の頭に紫の魔法使いのことがよぎりました。赤の魔法使いもまた、太陽王を脅かす存在になってしまったのです。国を維持するためには赤の魔法使いの力が必要だったため、太陽王は彼を追放せず地下牢に閉じ込めました。


 白の魔法使いは毎日のように地下牢を訪れ、太陽王が消えればまた地上に上がれると赤の魔法使いを勇気づけました。


 赤の魔法使いは、白の魔法使いの言葉を信じ、今も誰を恨むことなく、町中の街灯や暖炉に火をともし続けています。彼に宿った炎は決して消えることはありません。

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