第一章 落花啼鳥
「やぁ、おはよう亨」
自転車で俺の隣に並んで声をかけてきたのは中学の頃の友人であり、この高校に誘われた友人、鉄将吾(くろがねしょうご)だ。
「おう、そういえばクラス分けみたがお前と同じクラスだったな、この1年よろしく頼む」
「うん、こちらこそよろしく。亨」
それから軽い話をしていると、目の前に、と言っても距離はあるが大きい建物、正確には校舎が見えてきた。そう、俺らがこれから通う高校、東雲高校だ。
丘のような高い場所に位置している為遠くからでも見えるみたいだ。
「結構デカイんだな・・・。」
一人言を言ったつもりだったが横で将吾が答える。
「そりゃそうさ。東雲高校は全校生徒700人超え、部活はサークルや同好会含めて20は軽く超える程だとい噂だよ。」
妙に詳しいとも思ったが、そんな有名ならそれくらい知っていてもおかしくないと思い、適当に相槌を打つ。
それはそうと、久々にこうして登校中に話をしたんだし、久々にアレやってみるかい?」
「それ、お前が好きなだけで俺はやりたくない。」
「まぁまぁ、頭の体操だと思って、じゃあ問題いくよ」
今俺がやらせようとしてるのは将吾が考えた問題を俺が解くっていうお遊びだ。
将吾は昔から推理小説が好きで、中学の頃は良く問題を出していたのだが、それがいつしか二人にとっての遊びに変わっていた。そこまでなら良いのだが、将吾の出す問題は並みの人では答えられない程だから困る。
「はぁ・・・解ったよ。で、問題は何だよ。」
ここで断っても無駄だというものだろう。
「うん、今回は簡単かな。とある三人家族の話なんだけど、夜一緒に食べるハズだったケーキが無くなったんだ。だが両親は仕事で子供も学校に行っていた昼間に盗まれていたんだ。」
「ちょっと待てよ、何で昼間にケーキが無くなったと言えるんだ?」
「子供が帰った時にケーキが無かったからさ。親も帰るのは夕方で3人が居ない間にケーキが無くなったんだ。さて、どうしてケーキが無くなったのか、どのようにして無くなったのか、分かるかい?」
はぁ、また面倒な問題を出してきた。まぁここは一番可能性が近いとこから潰していくか。
「強盗とか窃盗とかの可能性は無いのか?」
「部屋が荒らされた様子もなければ金目の物も盗まれてないと思うよ?」
「なんでそう言い切れる?」
「鍵だよ、ドアには鍵が掛かっている。両親は夕方なら子供に鍵を預けるだろ?それなら子供が帰った時、ドアが開いてないのは流石に子供も怪しむんじゃないのかな?」
確かにそうだ。将吾の話だとその子供は一切驚いた様子は無く、ケーキが無い事の方に驚いていた。
?待てよ・・・ケーキが無い・・・食べるハズだった・・・あぁ、そうか。将吾の奴、話の中に答えを混ぜていたのか。
「なるほどな、将吾、お前にしては簡単だったな。答えは無くなったんじゃなくて最初から無かった、そうだろ?」
「正解だ、流石亨。簡単だったね、因みに理由は何かな?」
「問題のはじめに「食べるハズだった」と言っているだろ、ハズだったという事は親の仕事か何かの理由でその日に食べれない事情があり、ケーキを予約してたならキャンセル、あったらなら早く食べたのだろうが、子供が驚いてたと言う事は子供がケーキを食べられないのを知らないか早めに食べたのを忘れてたか、そんな所だろう。」
「その通りだ、やっぱりすごいな亨は。」
「そんな事は無いだろう、簡単な問題だったからすぐ解けただけだ。」
実際、いつもの将吾ならもっと難しく、本気になれば俺でも解けない問題だって作れるだろう。
「しかし、ほんと不思議だよ。」
「何がだ?」
「そうやって僕の問題は解けるのに、学校で取る点は平均、本来なら上位に入ってもおかしく無いんじゃないのかい?」
「あまり頭を使いたくないだけだ、平均点なら親や教師も何も言わないしな。」
「相変わらずだねぇ、でも亨らしいや。」
そんな他愛も無い話をしていると、いつの間にかあんなに遠くにあった大きい校舎が目の前に迫っていた。
「おっと、見えてきたよ、東雲高校の入り口!テンション上がってくるねぇ」
「別にそうでもないだろ、学校なんて面倒なだけだ。」
「まぁそう言わずにさ、折角の高校生活だ、楽しんだもん勝ちだよ。さて、自転車置き場は横にあるみたいだね」
俺らは自転車から折り、校門まで歩きながら話をしていた。
「しかし、本当にデカイな、中学校とは別物だ。」
「そりゃそうさ、逆に中学校と比べるのが間違いってもんでしょ」
笑いながら将吾が言ってきた。
「まぁ確かにそうだな、さて、俺らも教室に向かうか。」
そう言いながら校内に張ってある矢印通りに進み、教室に向かうと周りが騒いでいた。
「どういう事なんだ?」 「全然分からないぞ!」 「何なんだこれは?」
「皆どうしたんだ?」 不思議に思い黒板を次のような事が書かれていた。
「一年生諸君、入学おめでとう!と言いたい所だが、実は入学式をする場所を書いてなかった事が今日分かったんだ。だけど他の教師や生徒や入学式の準備や練習で忙しくて伝えれないから私がヒントを書いた紙を皆の机に置いておく、是非皆で来ておくれ 校長」
確かに俺達のプリントは入学式の場所が書かれていなかったが、教師が説明すると思っていたからそこまで難しく考えていなかったがまさか自分達で向かわなければならないとは。
「亨、これどういう事だと思う?」
「さぁな、普通はプリントに書いておくか教師が説明をする、あるいは黒板に場所を書いておくものだろう。それにヒントなんて紛らわしい物を書くのも何故なんだろうな?」
「そうだよね、おまけにそのヒントが「白紙」なんだから、すごいよね。」
そう、黒板のメッセージの横にヒントと書かれている紙が貼られている。これは俺達の机にあるのと同じ紙だ。これがヒントとはどうなっているんだと思わざるおえない状況だ。
「白紙の紙がヒント・・・まずはそこの先入観を捨てない限り、これは解けないだろ。今の時代、白紙の紙に色んな細工を出来るんだしな」
「まぁ、ごく一般的で学校でも試せる細工と言えば絞りだせるしね。」
その通りだ、大掛かりが仕掛けも学校という教育機関を伝えれば出来るかもしれないが、そんな事は受け付けないだろうし、第一それじゃヒントに成りはしない。
恐らく誰もが知ってる方法で、専用の技術が入らないような簡単な方法だろう。
白紙の紙に細工が出来、俺らでも分かるような方法・・・俺にはこれくらいしか思いつかない。
「なぁ将吾、俺は前の中学でやった理科の実験を試してみようと思うんだが、理科室は何処だ?」
「どうやら亨も分かったみたいだね、理科室なら調度隣の教室だよ。」
「よし、行くか。」
俺と将吾は教室を出て、理科室に白紙の紙を持って向かった。ある物を探して。
現在ー理科室へ移動中
「ここが理科室だな。」
「みたいだね。」
二人は理科室の入り口に立ち、ドアを開ける。」
「失礼します。」
将吾がドアを開けた。
「キャッ」 「おっと」
将吾がドアを開けると一人の少女が立っていた。
「ごめん、まさか人が入るとは思わなくて。」
将吾が少女に謝る。
「いえ、私も注意してなかったので。」
少女も将吾に謝る。
「なぁ、お取り込み中の所ちょっといいか?」
「あ、はい。何でしょう?」
「いや、君が手に持ってるそれ。」
と言いながら俺は少女の持っている物を指差す。
「はい、マッチですけど?」
「あ、本当だ。こりゃ驚いた、僕達以外にも白紙の謎に気が付いた人が居たなんて、君名前は?」
さらっと名前を聞く辺り、流石将吾と言うべきだ。
「あ、すいません申し送れました。私は安洞栞(あんどうしおり)です。」
「安藤さんだね。始めまして、僕は鉄将吾(くろがねしょうご)です、よろしく」
「俺は六月一日亨(さいぐさとおる)だ。と、自己紹介もこのくらいにして、早速そのマッチは試したのか?」
「いえ、今さっき此処に来たので。」
「じゃあ教室に戻って試してみない?皆にも説明しないといけないだろうしね。」
「確かに、その方が楽かもな。」
「分かりました、ではご同行します。」
現在ー1年B組教室
「よし、早速試してみるか。」
俺は栞からマッチを受け取り、自分の机にある紙で試そうとしていると、いつの間にか何をしようとしてるのか気になってる人達が集まっていたようだ。
まぁ、そもそもこんな事する前に教師にでも聞けば済む話なんだが、忙しいと一点張りするだろうし、まぁやるに越した事は無いと思いそのまま実験をした。
「え、何をするの?」 「火を使うなんて、一体何をする気なんだ?」
「今からヒントを解答用紙に変えるのさ、まぁ見てな」 将吾が答えている間に俺はマッチ棒に火を付けた。
そして火をかざそうとしたらさっきあった案洞が紙を支えていた。 何て気が利くんだ・・・。
そのまま俺は紙の下からマッチ棒をかざした。
「おい!何をしてんだ、そんな事したら紙が燃えるぞ!」
「そうよ!火事になったらどうするのよ!」
と周りが焦り出す。
「五月蝿いな、黙って見ていろ。」
そう言い放ち火を近付けた。すると今まで何も書いてなかった白紙の紙に文字が浮かび上がってきた。
「やっぱり、思った通りだな。」 「みたいだね。」 「ですね。」
どうやら俺達が思っていた予想は当たっていたようだ。
「ちょっと、これどういう事なの?何で文字が出て来たのよ」
「そうだぜ、火を使って何故いきなり文字が出てきたんだよ」
周りは驚きと困惑で同じ疑問を抱いているようだ。
「簡単な事だ、炙り出しをやったんだよ。」
「炙り出し?何だそれ?」
「それについては僕が説明するよ。」
「頼むよ将吾、俺は説明が苦手だからな。出来ればしたくない。」
「任せてよ、ゴホン。炙り出しっていうのはレモンやミカン等の果汁で紙に文字や絵が書かれている紙を燃やす事で紙よりも果汁が早く焦げ、メッセージが現れる。炙り出しはその紙を燃やし、メッセージを出す事を言うんだ。」
「なるほど、つまりその紙には果汁でメッセージが書かれていて、その紙を燃やして果汁のメッセージをアンタ達は出したって事だな?」
「そういう事、むしろこのメッセージが校長の言っていたヒントって事だね。」
「す、すげぇ・・・・でも、何でそれが分かったんだ?」
「それは簡単だ、校長はヒントを書いた紙を置いておくと黒板に書いてある。と言う事は少なくともこの紙がただの白紙じゃないのは確定だが特殊な工夫を施していると俺達生徒では解読出来ない、普通の生徒でも解け、専用の知識や技術が要らない一般に出回っているトリックで学校で出来る白紙の細工と言えば、炙り出しくらいしか思いつかなかったからだ。今の時代紙にペンで書いても肉眼じゃ見えず、特殊なライトを当てれば現れるようなペンもあるが、そんな安直な答えでは無いだろうと思って実効したらビンゴだった訳だ。」
やれやれ、結局は俺自身が口を出して説明をしてしまった。まぁこれくらいなら別に構わないが。
「確かにそうね・・・でも、そんなのいつ思いついたの?」
「黒板の文字を見て数分だな。」
「マジかよっ!?」
「うそっ!?」
「もちろん僕とそこに居る安洞さんも気が付いてたよ。むしろ安洞さんが僕達より早く気が付いてたみたいだけどね。」
「いえ、お二方より早く学校に居たので時間差もあったと思いますよ。」
「おい、話が逸れているぞ。それに、まだ場所が分かった訳じゃない。一難去ってまた一難とはこの事だ。」
俺は炙り出した後のメッセージを見ながら言った。
「おっと、それもそうだね。それで、その紙にはなんて書いているんだい?」
将吾は紙を覗き込むと、俺の要った言葉の意味が分かったらしく納得したように頷いた。
因みに、紙にはこう書かれていた。
「估→伽→佐→?」
「まぁ、確かにヒントを書いておくとはあったから答えは記されていないと思ったけど、また謎解きとはね。」
将吾が笑いながら俺にそう言ってきた。
「でも、少し考えれば分かるみたいですよ。」
栞が紙を見ながら答えた。
「何か気付いてるのか?」
「いえ、ただ紙の文字には共通点があると思いまして。」
「共通か、確かにどの感じもイ(にんべん)が使われているな。」
「それもですけど、全ての漢字の画数が7で統一されているんです。」
「そして音読みだとコ→カ→サ→?になるね。」
画数・・・イ・・・漢字・・・そういう事か、確かにヒントになっているな。
「何か解ったみたいだね、亨」
「まぁな、入学式は体育館で、この紙は地図だ。」
「どういう事だ?」 考えていた生徒が質問してきた。
「この漢字は五十音順で書かれていて教室の頭文字を現している。」
「頭文字?じゃあ何で最初はコなんだ?」
「確かに音読みならコだけど訓読みで何と読むかって事かな?亨」
「そういう事だ、估は音読みだとコだから訓読みだとあきな(う)あたいと読む、そしてその「あ」を最初にすればア→カ→サ→?になる。」
「そして、その?の部分は「た」になりますね。」
「そうだな、そして共通点を思い返すと、全ての画数が7で統一」
「そしてどの漢字にもイが使われている、だね。」
「つまり、?に入る漢字はイが使われていて7画の漢字という事ですね。」
「だけどそれだけじゃ多すぎる。けれどこの紙に書かれているメッセージは入学式の場所を示している、だろ?亨」
「将吾、もしかしてお前俺より早く気付いていたんじゃないのか?」
「さぁね、今はそれよれを考えるよねメッセージを見つけるのが先なんじゃないのかい?」
「それもそうだな、といっても行き先はは体育館だから今から行けば間に合うな。」
「おい待てよ、何で体育館なんだ?」
「簡単だ、学校にある場所で7画のイが使われているのが体育館の「体」くらいしか無いから、だろ?」
「確かにそうだ・・・でも、それが地図だっていうのは何でだ?」
「そろそろ行く時間だし、行きながら説明しよう。」
現在ー1年B組移動中
「さて、体育館に行くにはまず暗室、次に科学実験室、そして作法室を通ればいいみたいだ。」
「なんでだ?」
「估伽佐」を思い出してみろ、これは五十音順と同時にさっき言った教室の頭文字をとっている、という事だ。」
「そしてその頭文字順に行けばいいって事だね。」
「そういう事だ、1階にはそれらしい教室は無いから2階からだな」
そして俺達は暗室を探し出し、キーワードの教室を目印に体育館を目指した。
思えば最初から体育館だろうと言われれば気付く事だが場所が分からないのと白紙について考え込んでる内にいつの間にかそんな発想がしなくなったようだ。まぁ見つかって良かったとしよう。
3階ー体育館にて
ドアを開けると入学式の準備は出来ていた。そして一人の男性が話しかけてきた。
「やぁ、まさか謎を自力で解いて来る者が居るとは、流石だ。おめでとう」
「あ、ありがとうございます。」
とりあえずこの場では礼儀正しくしておこう。問題は・・・・。
「所で校長、何故あんな謎を出したのです?」
「おや、君は流石だね。僕が校長と分かるとはね。」
「それはまぁ、ヒントを書いた本人が出迎えると思ったので。それで、何故あんな謎解きを?」
「あれは、僕の楽しみであり東雲高校の伝統でね、入学した生徒にはこうやって謎を出してどの組が正解に辿り着けるかっていうね、楽しめたかい?」
「はぁ・・・この場では校長として礼儀正しくしておこうと思ったが、あまり頭を使わせないでくれよ、叔父。」
「ははは、ごめんよ。お前がここに入学して来ると聞いて少し気合を入れすぎた。」
「ちょっと良いかい亨、君の叔父が目の前の人で校長なのかい?」
「あぁ、そうだけどどうしたんだ?」
「そうだじゃねぇよっ!!!」(何故か皆に突っ込まれた)
「はははは、元気が良いねぇ、何を良い事でもあったのかい?」
「叔父よ、アニメキャラと口調を交えないでくれ。」
「まぁまぁ、さて。ここに来れなかった一年生は恐らく別の教師が放送で案内させてるだろうし、入学式を始めよう。」
やれやれ、とんだ茶番だ。今までの謎は俺らを試すもので、それを考えたのが叔父である校長、それはよほどの天才じゃないと解けないような難しい謎を用意してたのだろう。まぁ、何はともあれ無事に入学式を迎える事が出来た。
普通ならこういうのを落花啼鳥と表すのだろうが、どうやら今から三年間平和な日々が訪れる事は無いだう。何せ校長が叔父なのだから。
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