DEV
@Miami3
第1話
「何が言いたいんだ?」
「別に・・・・だだ、もうテメーみたいな勝手なクソに仕切られるのはうんざりだって言ってるんだ。このビチクソ野郎ってよ」
「つまり・・・・裏切る気か?」
「別に裏切るつもりはねえよ、ただ切り捨てただけだ。邪魔な物は邪魔だろ?いつまでもど真ん中でデケー顔されてもみんなクソ迷惑してんだよ」
「みんな?たったこの人数でか?」
「今は、ってだけだ。てめーが消えれば全員俺の奴隷だ。お前のマブダチも女も、金も車も今の地位も総てが俺の物だ。テメーみたいな時代遅れの
「それだけか?」
「あぁ?」
「言いたいことは言い終わったか?って聞いてんだよ、この低脳野郎!」
「・・・・死ねよ」
人々で溢れかえる首都の雑踏の中少年と少女が並んで歩いている。負けん気の強そうな目つきの、金髪で容姿が整った少女が同じく金髪の幼さが顔のあちこちにまだ残る少年に向かって一方的に何かをずっと喋りかけている。少し気弱さと自信のなさが垣間見える彼の表情からして、言いたいことがあるが相手に圧倒されて何も言えない、微妙な力関係が感じられる。
「ロイ、ロイってば、聞いてるの? 返事くらいしなさいよ」
不満そうに鼻を鳴らしながら少女が盛んに声を掛けた。
「なあにー、ミラーノ僕疲れてるんだけど」
すっかり振り回され気味の少年がうんざりした顔で相手を見つめる。しかしその対応が不服な彼女としてはもっと強烈な言葉を使いだした。
「全く情けないわね、あなたそれでも男なの?タマついてる?」
「ちょ、ちょっとミラーノ、こんな街の真ん中で大きな声で女の子が何言ってるのさ?」
「うるさい!あなたまで屋敷の人間のようなこと言わないで。私の味方でなんでしょ?」
「それはそうだけど・・・・でもそれとこれとは訳が違うよ、ミラーノはなんといってもかわいい女の子だよ。それにそんなこと言われると僕が困るって言うか・・・・ねぇ僕の気持ちも考えて・・・・」
「ねえねえロイロイ、見てよ、あっちにいるデカくて全身真っ黒なゴツイ男!」
「僕の話無視したの?!だからあれほど普段から・・・・」
「だから言ってるでしょ?!うっさいわねって。そんな説教屋敷では何遍も聞かされたわ。そんなのただ苦痛でしかないし、今は二人きりで過ごしてるの。この幸せな時間を愉しまなきゃ?解放されているって素晴らしいじゃない」
いつまでたっても自分の思い通りにならないロイに半ば切れ気味に自分の言いたいことをぶちまける。こうなったらもう負けだよ、とロイは首を左右に振ってこれ以上注意するのを諦めた。
「わかったよ、ミラーノ。わかったよ・・・・。それで何だっけ?」
「あぁ、あの奥にいる首から札を鎖で下げている半裸の黒い男よ。犯罪者?」
少し離れたところに人垣が出来ている。その周りの人間より一つ頭が抜けている大柄な黒い男が鎖に巻かれて立っていた。その顔はまるで獣のように険しい。
「あぁ、あれかぁ、あれは戦争奴隷だよ」
「戦争奴隷?」
「そう、いま王国南部の反乱軍との間で大量の捕虜が発生しているそうだよ。それでその捕虜達を奴隷にしているって感じだろうね」
「・・・・従順な王国民としてはいってはいけないんだろうけど、かわいそうね」
「まぁそうかもしれないけれど、反乱を起こせば危険があるってことだよ。きっと彼らだって理解しているさ・・・・」
「もしもの、もしもの仮定の話よ。私たちがたまたま逃がしちゃったらどうなると思う?」
「逃がす??逃がすってどんなこと企んでるの?!この前なんか首都を出るって言いだして一日いなくなっただけで憲兵が出動しかけたんだよ?それをそんな犯罪行為なんてしたら一生屋敷から出られないかも、いや、ミラーノはそれで済むかもしれないけれど、僕は責任とって懲役刑とか・・・・」
心底恐ろしいことだと言わんばかりにロイは大げさにブルっと体を震わせる。その様子にイラついたミラーノがバシっと結構強烈に背中を叩き抗議した。
「それは昔のこと!それに大げさよ。わたしは”もしも”って言ったでしょ?」
ミラーノの場合はそれが今までもしもで済まなかったから心配なんだよ。しかし、そう思っているとなによ、と睨みつけられた。ロイは視線を回避するため話を続ける。
「まぁ所詮は予想だけど、例えば彼を傷つけず、かつ周りの奴隷商人を倒すとする」
「うんうん」
「そのあと市街地を衛兵に止められない様に突破して、この国法律が及ばない地域に3日以内に逃げ切れば何とか捕まらずにこの計画も成功できるかなぁ?」
「どうして3日以内なの?」
「それ以上の日数を掛けたら、王国公安部隊が帝国中の警察組織に指令を出して指名手配するから、王国の主要道路は総て検問がしかれて普通に移動するのは殆ど不可能になるし、それにそれ以外の道は治安があまりよくないから安全面から考えると良くないし、最近ほら、捕虜に対する締め付けが一段と厳しくなってるだろ?ってかこの話もうミラーノならとっくに家庭教師のウェーバーさんから習ってるはずだよ」
「あの人声が大きくてくしゃみが汚いし太ってるから嫌いなのよ。出来るだけ顔を見ないようにしてるの。あーあ、あなたが先生だったら絶対に授業も楽しいのに」
「しょうがないよ、ミラーノはぼくみたいなのとは立場が違うんだ、我慢しなきゃ」
「立場なんて・・・・わたしはそんなものよりもっとこう、ファッションとか、スイーツとか恋とかの話をしたいわ。臭い先生のダラダラした国の治安維持の話なんて聞きたくない」
そう言われてロイはかける言葉を失った。そんなの僕だって同じさ、でもダメだよ。こうして一緒にいれるだけでも奇跡に近いんだ。これ以上は望めない。
「ねぇ、ちょっと近寄ってみない?」
もう、ミラーノの興味はさっきの話題から移ったようでもう男に興味津々だ。
「だめだよ、襲われたたらどうするのさ。それに冷やかしだって怒られるよ」
ロイの制止はいつも通り完全に無視されてミラーノは人ごみをかき分けてドンドン最前列へと進んでいく。それを慌ててロイが追いかける。やっと追いつくとあろうことかミラーノは男に喋りかけていた。ビックリしたがよく聞くと会話がまるで成り立っていない。
「あら、あなたってちょっと薄汚れているのね、お風呂入ってる?その肌黒すぎない?」
「???? What're you talking?」(何喋ってやがる?)
「あんた、公用語が通じないの?それが南部訛り?」
「Fuck off, you bitch. I don’t wanna see your ugliest face」(失せろ、テメーのブスむくれた面なんて見たくねー)
何を言われているかはさっぱりだが、友好的ではないことは明らかだ。ロイはミラーノを後ろから抱きかかえて距離を取らせる。これで怪我でもしたら大変なことになる。
「Get the fuck out of here, slutty white pig!」(消え失せろ、このクソ豚野郎)
吐き捨てるように苦々し気な表情を浮かべて叫び唾を吐きつける。幸い当たることはなかったが騒ぎがますます大きくなった。すると店の奥から小太りの中年の男が鞭を持って出てきて、有無を言わさずいきなり黒い男の裸の背に向かって振り下ろした。痛みにうめき声を上げて男はその場に倒れ込む。
「静かにしろ、殺すぞ、このゴキブリ野郎」
そう言って今度はジロリと2人を睨みつけた。騒ぎを起こした相手に苦言でも呈そうというのか肉に圧迫されて上手く開き切らない口を精一杯回して文句を垂れる。
「全く困るね。冷やかしなら帰ってくれ。見たところ未成年だろ?君らには売れんよ」
目の前で起こったミラーノの日常とはあまりにかけ離れた現状に憤りを覚えたミラーノはロイの手を振りほどいて噛みつかんばかりの勢いで反論した。
「あなたには情が無いの?彼は動けないっていうのに思い切り鞭を振り下ろして!この騒ぎを引き起こしたのはあたしよ。打つならあたしを打ちなさい!」
あまりの剣幕に圧倒されて奴隷商人はパクパクと打ち上げられた魚のように口を開閉させたが、考え直せば分があるのは自分の方だ。そこでセイウチみたいな体を更に精一杯膨らませて見下ろすようにしてミラーノに吐き捨てる。
「こいつは俺の商品だ。俺がどう扱おうが勝手だろ?とっとと帰れ、商売の邪魔だ。警官を呼ぶぞこのガキ!」
ドンとミラーノを強く押すと、キャっと悲鳴を上げて倒れる。急いでそれを助け起こそうとオロオロしているロイに蔑すんだ視線を浴びせる。周囲が騒然としている中まだ起き上がれない奴隷に向かって、これ見よがしに更に鞭を振り下ろす。
「気持ち悪い野郎だ。いい加減起きろ、この、クズが。商売が始まんねーだろ?!あぁ?」
最後に思い切り振りかぶって振り下ろそうとした鞭を見て思わずミラーノは目を背ける。これ以上は見ていられない。それを止められない無力な自分が恥ずかしくて腹立たしい。ヒュンと風切音がしてピシャリと破裂するような鞭打ちの音が・・・・聞こえない?
「あいててて、放せ馬鹿、折れる、折れる、腕が曲がるって」
さっきのセイウチ商人の振りかぶった右腕を一回り背の高い別の男がガッシリ掴んでいる。関節がしっかり極まっているため商人は身動き一つできない。怯え切って後ろを首を捩じって振り返った商人は自分を掴んでいる相手のデカさとガタイのよさに更に怯えて慌てて目を背けた。
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