第7話 水晶宮での修行

 このところのジュリアの日課に、少し変化がある。午前中のグレーシー夫人との勉強は、かなり減っている。何故なら、ルーファス王子やセドリック様が水晶宮で精霊使いの修行をするのに、ジュリアも付き合っているからだ。


「これでは、カリースト師を外した意味がないではないか……」


 精霊使いの長のケインズ師は、ジュリアと会う機会を減らそうと、指導する師を違う人にしたり、同じ時間帯を外したのにと眉を顰める。直接、本人に手助けを頼むとは思わなかったのだ。


「ジュリアの指導時間を、ルーファス王子達と同じ午前中に変更するのは、あまりにも明け透け過ぎるだろうか? こうなったら、サリンジャー師に早くサリヴァンに帰って貰って、厳しく指導して貰うしかない」


 サリンジャー師が北部から帰るまで、ジュリアと同じカリースト師に指導して欲しいと、ルキアス王国から要望があった。精霊使いの長は、それをカリースト師は高齢だからと断って、他の師との修行を勧めたのだが、初心者の二人は説明がわかりにくいと、ジュリアに一緒に修行して自分達と指導の師との橋渡しを頼んだのだ。




「やはり、ジュリアがいると、精霊の実体化も楽にできるよ!」


 初めは、ジュリア嬢と呼んでいたルーファス王子だが、本人から恐縮されて、親しく呼び捨てにしている。


「ルーファス様、あれからあまり練習されて、いなかったのですか?」


 ジュリアは、ルーファス王子と呼ぶのを、呼び捨てにするように求められてかなり抵抗して、嬢づけを止めたのだからと、渋々様づけで落ち着いた。


「だって、サリンジャー師がいないと、精霊も集められないから、実体化なんて無理だったのだ。でも、こうしてジュリアが側に居てくれると、精霊達が集まってくるから、修行も進むよ」


 指導している精霊使いは、それでは修行の意味が無いだろうと、内心で毒づく。隣国の王子に無礼な態度で指導できないので、かなり我慢しているのだ。


「まぁ! でも、自分で精霊を集める修行もしなくてはいけませんわね。でないと、ルキアス王国で精霊を使えませんわ」


「その通りです!」


 我が意を得たり! と、指導の精霊使いは、ジュリアの手助けに頼っていては駄目だと厳しく言い聞かせようとする。


「それは、私達もわかっているのですが、少しブランクがあるので、前にサリンジャー師と修行していた勘を取り戻すまでは、ジュリア様に手伝って頂けると、とても助かるのです」


 前の御主人様のセドリックに、そう云われると、ジュリアは断れない。


「セドリック様、ジュリアとお呼び下さい」


 三人が仲良くしている様子に、指導の精霊使いは苛々する。エドモンド王の孫であり、次代の巫女姫に馴れ馴れしくするなと、引き離したいが、隣国の王子なのだと自分を抑えている。


「ああ、ここにいらっしゃったのですね。ルーファス王子、セドリック様、お久しぶりです」


 精霊使いの長のケインズ師は、このままでは巫女姫が隣国の王子に連れ去られてしまうと苛々して、北部にシルフィードを飛ばしたのだ。サリンジャーは、秋の収穫が終わるまで北部に留まりたかったが、長の命令に従ってシェフィールドへと帰ってきた。


「サリンジャー師! お久しぶりです」


 内乱状態のイオニア王国へと帰国したサリンジャー師のことは、ルーファス王子もセドリックも心配していたのだ。こうして、元気な姿を見ると、本当に嬉しい。


「ルーファス王子、セドリック様が水晶宮へ修業に来られたと聞いて、別れる時に約束したのを思い出したのです。さぁ、精霊使いの修行を始めますよ! どの程度、自分達で修行を続けていましたか?」


 サリンジャー師は、ヘレナでも大学やパーティなどで、精霊使いの修行は後回しにされることがあったので、自分が去ってからは進んでいないだろとは覚悟していた。


「ええっと、それが……今もジュリアが精霊を集めてくれないと、実体化は無理なのだ」


 ルーファス王子は、恥ずかしそうに現状を告げる。サリンジャーは、何故ここにジュリアが居るのか知り、そして何故自分がすぐさま首都へ帰ってこいと命じられたのか察した。


「何時までも、ジュリア頼りでは修行とは言えません。このシェフィールドには、精霊達が多くいます。先ずは、自分で精霊を集める修行をしましょう」


 ジュリアは、懐かしいサリンジャー師ともっと話したかったが、二人の修行の邪魔をしてはいけないと、教室を立ち去る。


 ルーファス王子とセドリックは、普段は穏やかなサリンジャー師が、精霊使いの修行については厳しかったのを、久しぶりに思い出して、へとへとになるのだった。

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