第7話 私にもできること! 

 ジュリアは緑蔭城に集まった貴族や騎士達と共に大きな食卓につき、話しかけてこられたら、簡単に返事をしながら食べていたが、サリンジャー師とマーカス卿が何やら目配せしているのに気づいた。

『何かしら? サリンジャー師とマーカス卿は同じような年頃だから、親しくしても不思議ではないけど……』

 ジョージは親しみやすい性格なので、サリンジャー師と仲良くなるのは自然だとは思うが、何かジュリアはひっかかった。

 食事の席では戦争の話題などのぼらないが、ここにいる貴族や騎士達が何を目的で緑蔭城に集まっているのかは、黙って話を聞いているジュリアもわかっている。母方の祖父エドモンド公と、レオナルド叔父がアドルフ王の奸計にかかり囚われている事を知った時は、祖母のグローリアに問いただした。

「まぁ、ジュリア! そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。いくらアドルフ王が卑劣だとは言え、従兄のエドモンド公とその跡取りのレオナルド公子を害したりは致しませんわ。アドルフ王には跡取りがいませんから、王国を存続させるにはエドモンド公やレオナルド公子が必要ですもの」

 グローリアは何時かは耳にするだろうとは思っていたので、優しく抱き締めて、この春には二人も解放されるから、会えますよと慰めてくれた。

『お祖父様や叔父様にはお会いしたいけど……その為の戦いで、此処にいる人達が何人も傷ついたり、亡くなったりするのは……』

 ぼんやりしているとルーシーにからかわれるジュリアだが、精霊達が戦いは嫌いと愚痴るので、今までの内乱の惨状も聞いて知っていたのだ。

『何か私にも出来ることは無いかしら? 精霊達は戦闘は嫌いだと言っていたけど、負傷者の手当てとかは頼めないの?』

 武術などの心得の無い自分が戦闘には役に立たないのはわかっていたので、その他のことで手伝いたいとジュリアは考える。闇の精霊ノアールは治療の技が多いと、緑蔭城の図書館の蔵書で調べていたが、何故かサリンジャー師は自分に教えてくれないのが、ジュリアには不思議に感じる。

『光の精霊や水の精霊も治療の技があるけど、闇の精霊の方が強いと書いてあったわ。パパが水晶宮に行く前に勉強していた初心者の本だから、詳しくは書いて無かったけど……闇の精霊は気難しいのかしら?』

 ルーファス王子が海の精霊ウンディーヌに溺れさせられそうになったり、セドリックが火の精霊サラマンドラーに火傷させられそうになったのを思い出して、一番最後に教えて貰う予定だったノアールは気難しいしいのかもしれないとジュリアは首を捻る。

 ジュリアは光の精霊リュミエール、風の精霊シルフィード、土の精霊ノーム、水の精霊ウンディーヌ、火の精霊サラマンドラーを実体化させて、色々と頼みを聞いて貰えるようになっていたが、まだ技の修業は始めたばかりだった。

 食事が終わると、忙がしいかも知れないけど、サリンジャー師に治療の技がいっぱいある闇の精霊ノアールの実体化を教えて貰おうとジュリアは考えて、ジョージと一緒に食堂から出ていくのを追いかけた。

 長身の二人の後を、背の低いジュリアは小走りで追いかけたが、途中で何人もの貴族や騎士に声を掛けられて、挨拶しているうちに見失ってしまった。

「何処に行かれたのかしら? マーカス卿は城代だから、そのお部屋に居るのかも?」

 何人もの召使い達が通りかかるのだが、まだジュリアは声を掛けて、どの部屋がマーカス卿の部屋かを聞く勇気が無い。

「ルーシーなら、他のメイドに聞いてくれるかも……」

 ジュリアは緑蔭城のいつも使っている部所と離れた回廊で、自分の部屋に戻って侍女のルーシーに尋ねた方が早いかも知れないと溜め息をついた。

「緑蔭城は大きすぎるのよ……」

『何をぶつぶつ言っているの?』

 食堂の方へ一旦戻って、いつも使っている階段から自分の部屋に帰ろうとしたジュリアの前にマリエールが現れた。

『あっ! マリエール、ジョージ様のお部屋は知らない?』

 生憎とマリエールはジョージには実体化されたことが無かったので首を横に振った。

『じぁあ、サリンジャー師がいらっしゃる場所はわかる?』

『それなら、わかるわ! 付いてきて!』

 名前を付けてくれたジュリアの頼みが果たせると、マリエールは喜んでくるくると回る。他のシルフィード達は、あんなお調子者が名前を付けて貰えるなんてと、少し羨ましそうに眺めていた。

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