第5話 グローリアとジュリア
ルーシーの言った通りに、大人しく食事をしながら、他の人の話を聞いているだけで、誰もジュリアに文句をつける人は居なかった。ゲチスバーモンド伯爵の跡取り孫娘が、精霊使いとしての能力も優れているとなれば、多少大人しくて気がきいてなかろうが、誰も問題だとは考えず、息子の嫁に望ましい令嬢だと評価している。
ジュリアは朝食をお祖母様と二人でモーニングルームで食べながら、一日の予定を話し合うのが楽しみになっている。緑蔭城に仕える騎士や訪ねてくる郷士達との昼食や夕食の時は、グローリアはもてなし役の女主人として他の人との会話を盛り上げなければいけないので、やっと会えた孫娘にばかり気を使ってやれない。
「イオニア王国を出発する前に、貴女の家庭教師を頼んでいたのですが、そろそろ到着すると手紙がきました。他の令嬢の家庭教師を勤めていたのですが、お嫁に行かれるのを見届けてからとの返事でしたの」
ジュリアはシルビアお嬢様と一緒に勉強を教えて貰ったミリアム先生を思い出し、厳しいけど優しかったと懐かしくなる。
「まだ勉強の途中だったから、家庭教師の先生が来られるのは嬉しいわ……それと、サリンジャー師に精霊使いとしての指導もして頂きたいのですが、お忙しそうなので……」
グローリアはサリンジャーは精霊使いとして、防衛の強化や戦略の会議に出席しているから、ジュリアを指導する時間が取れるかしらと首を傾げる。
「もう少し落ち着いたら、サリンジャー師も貴女に指導して下さるかもしれませんね。あっ、マーカス卿はサリンジャー師のような水晶宮に仕える精霊使いではありませんが、初心者の指導ぐらいはできますよ」
ジュリアはハトコと名乗ったジョージの笑っている顔を思い出して、精霊使いだったのかと驚いた。
「イオニア王国には精霊使いは多いですからね。マーカス卿は精霊使いとしての能力は大したことは無かったので、却って助かったのです。サリンジャー師などの王家に仕える程の優れた精霊使いは、水晶宮に幽閉されて、アドルフ王の圧力に堪えています」
ジュリアはアドルフ王の名前を聞いただけで、眉をしかめる。
「まぁ! ジュリア、そんなしかめっ面をしては駄目よ! 眉間の皺が固まってしまったら、困るでしょ! まるでメイソン夫人みたいになってしまうわ」
グローリアは親の仇であるアドルフ王をジュリアが憎むのは致し方無いとは思っているが、それに囚われて欲しく無いので、わざと軽々しい言葉を発して笑わせる。
「家庭教師が到着するまで、マーカス卿に精霊使いの修行や、城の案内をして貰えば良いわ!」
明るい性格のジョージなら、ジュリアも楽しく過ごせるだろうとグローリアは満足そうに頷く。
「でも、マーカス卿は城代だとか……お忙しいのでは?」
遠慮するジュリアをグローリアは豪快に笑い飛ばす。
「城主のアルバートが帰って来たのですもの、城代のマーカス卿は暇になった筈よ」
そういい放つと、ベルをチリチリと鳴らす。伯爵夫人付きの侍女メーガンが、何で御座いましょうと顔を出した。ジュリアはまだメイドの時の意識を引き摺っていたので、女中頭のメイソン夫人や年配の侍女メーガンを見ると、何か自分に落ち度が無いかとヒヤヒヤしてしまう。
「此処にマーカス卿を呼んで来て下さいな、ジュリアを案内して貰いたいのよ」
グローリアはジュリアが女中頭や自分の侍女を恐れているとは考えもつかなかったが、メーガンが部屋を出た途端に大きな息を吐いたのには気づいた。
「おや、まぁ! まさかメーガンは貴女を取って食べたりしませんよ! メーガンはフィッツジェラルドを可愛がっていましたからね」
「まぁ! パパの子どもの頃を知っているのですね!」
グローリアはころころと笑い、緑蔭城の殆どの者はフィッツジェラルドを知っていると言ったが、綺麗な瞳には涙が込み上げてきた。
「お祖母様、どんな子ども時代をパパは此所で過ごしたの?」
ジュリアは祖母から父親の子ども時代の話を聞きながら、やっと祖国なのだと実感が湧いた。
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