他流批判に気をつけようという話
今回は他派他流の批判・悪口はやめたほうがいいよ、という話である。
世の中の人が武術をしている人に対してどう思っているのか、筆者は学生の頃からそっち側に入っちゃったのでよく分かんねえ所があるのだが、大半が嫉妬深くてオタクで他流の悪口が大好きで口先だけ、と思っている人がいるとしたらその人に言いたい。
あなたの想像はだいたい合ってる。
そしてそれは武術だけでなく、他の業界でもそうなのであって、伝え教える内容がどれほど高度であってもそれを行なうのは人間であるのだから、一部の人格高潔者と大多数のボンクラという構図はどこまでいっても変わらない。
人間関係的な事に言及すると、ピアノや茶道なんかのお稽古事の一種と同じだと思えばよろしい。
きちんとした所は月謝、あるいは教授の謝礼は相応に高い。
金額の高さについては言いたいことがある人はいると思うが、これに関してはいつか別に書くので今回は見送る。
お稽古事なので、金額相応の特別なことを習っているという妙なプライドもあれば、あの子にだけ秘伝を教えるのね!? キーッくやしいッ! みたいな話もあるし、その流派の美学みたいなものにも相応に染まっていて、あそこはカッコ悪いよねー、という話もすれば、あっちは宗家筋っていうけど実力で師範家になったウチのセンセイと違って宗家の血筋ってだけだわ、、みたいな話もある。
(そういえばとある女性の学習者が多い現代武道をしている友人の話では、中年の女性同士の人間関係のこじれに、若いからというだけの理由で責任者やらされている男が間に入って止める役目にされるとマジで死ぬる、とかいう話も聞いた事がある。あいつ最近、ストレスで太ってきたなあ。)
話を戻すと、流派が分かれ、会派が分かれ、道場が分かれ、あっちとこっちだと……そりゃあこっちが上だよね? という会話が内部でありがちである。
近年、様々な書籍によって情報が公開されているのだが、外野のいい酒の肴になってしまうわけだ。
本や写真では分からない、全てを公開しているわけではない、という人はいるだろうが、「剣術」であったり「柔術」であったりと、とても広いカテゴリであってもで同じものを扱っていると、目に入っちゃったものを論評してしまうのが人間の性というもので、それはいくらでもあげつらうことが出来る。
また、いい意味でも悪い意味でも「身体操作」とか「体術」という、昔には無かった名称で説明する人々が出てきたため、違いを無視して語れる雰囲気になってきたというのもある。
これが稽古仲間同士、先生弟子内で語られるのであれば、あくまで内輪の話で済むのであって問題が無いのだが、道場にやってきた初心者に講釈たれたり、武術のことを知らない家族であるとか友人であるとか会社の同僚であるとかに、さわりだけでも話してしまったりするのは問題である。
外側の人からしてみれば違いなんてないのだから、悪口を言っている目の前のあなたという人間を含めて武術関係者の世界は全体がひどいところなのだと思われるのがオチである。
ちょっと話は飛ぶが、先ほどから「武術界」と書きそうになるたびに「武術業界」とか「武術関係者」という風に意識して書いている。
空手界とか剣道界とか武道界とか、あるいは中国であれば武術界と書けるが、日本の武術に関しては「界」というにはあまりに関わる人口が少なく狭い業界なので、大げさすぎる気がして書くのをためらう。
たまに小説などのフィクションや雑誌記事で書いてあるのを見かけるが、知り合いの知り合いの知り合いぐらいをたどると対象者に行き当たる狭い業界なのに……という違和感がかなりある。
また、自分の先生が内輪だと思って口走った他派他流批判を、ネット上での発言を含めて、弟子がうかつに外に広める場合があって、先生本人の責任の取れないところで恨みを買ったりする。
匿名であってもネット上の発言には注意が必要である。
諸事情によって先生本人の発言を見逃されていても、事情も知らずにその尻馬に乗って批判を行なう人間がいて、事情を知っている当事者の片方が亡くなると歯止めが無くなって大問題になるのはどう考えても明らかなのに、何なの? 馬鹿なの? という事態も、まあ、ある。
筆者はとある武術のとある系統に属するが、別系統の有名な師範がこちらの系統をほのめかし気味に批判していたことがある。
なんで直接ではなくてほのめかすのかというと、批判している本人に色々後ろめたいことがあって、その話までの経緯というような具体的な周辺が詳細になると逆にその批判者本人のみっともない諸事情が明らかになる事情があったからである。
こちらはそれを知った上で、言われている先生ご本人が相手にしていないし、直接反論すると言ってない言ってると面倒くさいことになるから、と思っているうちにその人が亡くなり、色々あったが死んでしまえばみな仏様、広い意味での同門なんだからご冥福を祈っておくか、と我々は割り切ったのである。
ところが、多分亡くなられた師範から都合のいい話しか聞いていない弟子が、(以下数行削除)云々と抜かしやがりなさる事態が発生しており、まだこちらの先生がニコニコして相手にしていないので関係者連中は青筋立てながらも我慢しているわけだが、高齢の先生が亡くなられた後に追い討ちをかけるように繰り返しやがったら、(以下やはり数行削除)じゃゃねえかこの野郎、と心に決めていたりする。
どうだろう、読まれている方には他人事だろうが、書いているこの筆者自身を含めてなんて世界だといやあ~な気持ちになってもらえたであろうか。
「(以下略)」としたのは、怒りに任せて思わず書いてしまったが、少し時間をおいてちょっと反省したので削った部分である。
※当然ながら筆者がとある武術のとある系統であるのはフィクションであり、そこに批判をしたという系統の会派の話はもう全く一点の曇りのないほどの完全な作り話であるので、以上のようなトラブルは現実には存在しないのであるということも当然であり、よくよく念を押しておきたい。
思い当たる某流派某会派が浮かんできた人には特に念押ししたい。
さてその上で、覚悟の無い批判はお互いに全く実りが無く、互いに殺しあって結論を出すわけにも行かないのであるから、他派他流について言及する時は、かなり気を使わなければならない。
また、どんな人にも「若い時のあやまち」的な話があって、なんやかんやと他派他流を批判していた人のいる所に、そうそう、キミ昔こんな事をやらかしてたよね、という人が出てくると、なんかもう色々と面目丸つぶれになるので、我を誇らず、人をそしらず、というのはもう本当に切実で現実的な護身のあり方なのだ。
人を殺傷、制圧する技術のみが護身ではない。
古くから、様々な流派で「他流の悪口を言っちゃダメだゾ☆」という一般道徳っぽい条項があったりするのは、そういう広い意味での流派自身の護身を兼ねているのである。
もう一つ、武術と関係の無い人がうかつに他の分野を貶める場合があるが、とてもハラハラする場合がある。
全くの門外漢の人がフィクション作品に武術を登場させる時に、主人公の所属流派を際立たせるために、他流の武術や、現代武道、現代格闘技を低く低く書くが、あれは本当に気をつけた方がいいといつも思う。
二次創作系のサイトで読んだり書いたりしている人であるならば、ヘイトやアンチを読まされて「このコ大丈夫?」と思う感覚にちかいといえば通じるだろうか。
ちなみに中国武術漫画として有名な「〇〇」という作品があるが、あの作品をいい思い出にしている人がいる一方で、「あの内容には問題がありすぎる」と渋い顔をしていう人にも何人か会ったことがある。
やっぱり悪役の使っていた武術に現実に関わっている人は嫌な気分になったという点もあるし、作品中に出ている理論がある団体が発表している考えに基づいているために、ウチの生徒にいらん先入観を与えられるのは困る、と話されていた人もいた。
時々世間でも、実在の人物や団体が登場する創作物に対して、関係者からの抗議が入って自粛したり、無くなってしまったりすることがある。
完全な外部の者は「フィクションなのに、ケツの穴が狭いなあ」とか「別に本当にそうだと思うわけないのに、馬鹿じゃねえの?」と思うだろうけど、そういう立場になると、嫌なものは嫌なんだからしょうがない、としかいえない。
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