第5話 中国武術というものについて(2)
つづき。
いよいよ怪しい話になってくるのだが、どうしよう・・・?
同時にまた、ちょっと香港カンフー映画に詳しい人などには当然すぎる話でもあるわけですが。
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突然だが、中国の秘密結社の話をしよう。
中国の秘密結社は天地会だの義和団だの青幇だのと清の時代のもの以降が有名である。
反体制運動や密輸などのブラックなイメージがつきまとうが、古くから続く秘密結社の流れは宗教的な内容を元にしたものがメインで、どこかに神仙が出現したり弥勒菩薩が降臨したりして、民衆を救うために立ち上がって結束しちゃったりするのである。
この宗教系の秘密結社は、最初は祈祷であったり、ありがたいお札を配ったり、構成員同士が困ったら助け合ったりと、お上が救ってくれない層を拾い上げるのだが、だんだん数が多くなってくると必然的に反体制的になっちゃう。
何しろ、神仙だの弥勒菩薩だのと「皇帝陛下より偉い」方々なので、人数が増えて勢力が強くなると、こりゃあ正しい人間を頂点に据えるために、天下をひっくり返すしかねえべえ、となってしまう。。
もしくは、その勢力に驚いた時の朝廷に邪教認定をくらって弾圧をされて、地下に潜って非合法活動を開始する。
当時の思想や科学なりに色々理論に一貫性のあるものもある一方、天から将兵が降りてきて天下無敵の神兵が出現したり、孫悟空(斉天大聖)が乗り移ってご神託を下されたりと、なにやら神懸りの怪しげな体系を持った邪教認定されても仕方のない結社も多く存在した。
清朝の時代に過激なものが多いのは、社会不安や外国人排斥運動を理由に、身を護るために体を鍛えることと宗教を信じることが一緒になった宗教結社が多く出現したせいであるらしい。
宗教団体名と武術名が同じものがいくつも出現している。
最も有名なのは義和団の変で知られる「義和団」または「義和拳」で、信仰したものには神通力が身について刀が通らない無敵の兵士になると信じられた。
梅花拳、八卦拳、紅拳、陰陽拳、神拳なども、そういった結社と強く関係があった。
ちなみにこの八卦拳は八卦教という宗教結社と関連があるが、同じく八卦拳と呼ばれることもある現存の八卦掌という門派と直接関連があるかどうかはよく分からない。
梅花拳は梅花○○拳・○○梅花拳、というように様々な門派でよく使われる単語だが、めでたい言葉であることや、梅の五枚の花びらと五本の指を関連付けしている場合があるとか、返り血で紅くなるのを梅の花の色に例えましたよみたいな話もどっかで聞いたことがあるような、ひょっとすると現代にも由来が伝わっているのかもしれないが、直接関連のあるものがあるかどうか筆者には不明である。
知ってる人は教えておくれ。
と、ここまで書いてきて我に返ったのだが、こういうのはちょっとしらべるとネットで簡単に検索できるので、詳しく知りたかったらそういう所に頼るのが早いだろう。
(いや、何しろこういうのを書き始めたら天地会やら三合会やらまで話が飛びそうになるし)
まあとにかく、こういう宗教由来、宗教関連の神がかった妙な武術はそこかしこに存在した。
武術的な動作は全く外見だけで、目的は神懸りや神降ろしにあったりするわけだが、トランス状態になった時に限界を越えた動きや力が出ることに注目した人々もいて、一部門派の功法(鍛錬法)には、こっち系統の由来のものがあるような気がするが、うっかり人前で話しちゃうと色々と怒られるので気のせいだよね!
この秘密結社的由来(「的」であるので注意しよう)を持つ武術としては、有名な南の少林拳がある。
北の少林拳は、現在もある河南省鄭州市登封の嵩山少林寺とその周辺の村の人々が伝承しており、出自も資料もはっきりしているのだが、南の少林寺は清の時代に朝廷に焼き討ちで滅ぼされた伝説上の福建少林寺から逃れた武術家が清朝への復讐を誓って伝えたということになっている。
具体的には詠春拳・白鶴拳・洪家拳・佛家拳などがそれにあたるわけだが、どこまで信用できることなのかはっきりしない。
近年、福建少林寺らしき寺の跡が見つかったという情報が中国発で公式に伝わったが、「少林十虎」とか「少林五老」とか、民間の講釈師が語呂あわせで考えたような単語が飛び交う伝説なので、その寺の存在は由来のきっかけに影響ぐらいは与えたであろうが直接関係があるとは思われず、今のところ他は全て作り話だろう、という事になっている。
ただし、この由来が由来のための清代の反社会的結社で学ぶものが多く、というかその結社の創始伝説を取り込んだんだろうという話もあり、互いに影響を与え合って南派少林拳という独特の武術文化(功夫映画含む)のようなものが存在している。
足場の安定しない場所、狭い場所で戦ったり、集団訓練に向いたものがあるように見えるので(実際に練習されている人々にはまた別の言い分もあると思うが)、どうも河が多く、水運業者や水運業者関連の結社連中が使っていた武術と考えられている。
南方は水運が発達しているのだが、当然それを襲う連中が居て、それに抵抗するために修練していたのかもしれない。
また逆に、水運業者の結社の中には組織単位で塩や麻薬の密輸(清の時代、塩は専売制でかなり高い税がかけられていたので、安い塩を売る闇塩業者が出現した)を行なっていて、その連中の武装の一環として使っていたという可能性もある。
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筆者の書いているのはただのヨタ話だが、南少林寺伝説については大変きちんとした資料サイトがいくつも存在している。
南少林寺関連の伝説を収集した書籍の日本語訳を掲載していた「電影王」という名前の日本語サイトがあって、興味のある人におすすめしていたのだが、かなり前に消滅してしまって今は目にすることができないのが残念である。
あ、この話題はまだ続きます。
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