その後

 成仏したのは、夏目宗助と末永弱音だけではなかった。二人が光に包まれる瞬間、森のあちこちから、無数の魂が吸い寄せられるように一点に集まるのが見えた。森で命を絶って、自縛霊となっていた人々が、一気に成仏したのだ。命を落として強大な霊力を発揮した末永と、志摩冷華の二人の除霊によって。


 それ以来、<キヅキに木槌>も<覚醒の拡声器>も、現れることはなかった。<キヅキの木槌>を失っては、僕らはもう壊し屋の仕事はできない。よって、秘密結社カイカイカイは、解散することとなった。僕らの壊し屋としての仕事は終わったのだ。

 夏目宗助の霊が成仏したことによって、<キヅキの森>はもう、現実と空想の狭間では無くなった。呪いをかけられていた森は、開放されたのだ。元の小話杉森へと戻った。そのことによって、森を訪れる自殺志願者の数は激減した。

 夏目宗助は、孤独だった。つらい思いをしても、手を差し伸べてくれる仲間がいなかった。命の支えが無い彼は、孤独に耐えかねて、森を訪れて死を選んだ。彼は、仲間が欲しかったのかもしれない。自分と同じく孤独な人間、自分の気持ちを理解してくれる人間を。そのために、<キヅキの森>をつくり、自殺志願者を呼び寄せていたのだろう。


 ブックカフェ<黄泉なさい>は、夏目宗助がいなくなってからもそのまま残っている。黒沢シロウは、そのまま店の経営を続けた。志摩冷華も小説家として、執筆のために毎日通っている。従業員である咲谷さんや江頭さんも、変わらず働いている。


 紅く色づいていた葉は、いつのまにかすべて落ちきっていた。葉を失った木の枝は秋が終わりを告げ、冬の訪れを感じさせた。

 

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