学ランの少年の正体

 僕が<黄泉なさい>を出ると、既に僕の視界には、学ランの少年の姿はなかった。まだそう遠くへは行っていないはずだ。しかし、もし仮に彼が幽霊だとしたら、消え隠れた可能性もある。

「何か用かい?」

 突然、背後から若い男の声がした。振り向くとそこには、僕が追っていた学ランの少年の姿があった。

 僕がさきほど彼から感じた寒気は、気のせいではなかった。顔が青白く、まるで生気を感じない。僕の中に、あるひとつの仮説があった。それが本当かどうか、確かめる必要が僕にはあった。

「あなたは、夏目宗助さん…ですか?」

 僕が彼にそう尋ねると、彼は少し黙った。僕の質問に驚いているのかはわからない。彼は表情ひとつ変えずに、しばらくの間黙ったまま。しかし、ゆっくりと再び口を開いた。

「なぜ、そう思ったんだい?誰かから、僕のことを聞いたのかい?」

 やはり、いま僕の目の前にいる学年の少年、彼こそが夏目宗助だった。かつては普通の森だった小話杉森を、<キヅキの森>という名の、自らが支配する不思議な森へと変貌させた張本人。彼はずっと以前から、僕らの前に姿を現していたのだ。僕がアカネに連れられて初めて<黄泉なさい>を訪れたときから。

「夏目宗助さんという人の存在は、シロウさんや末永さんから聞いていました。この森のどこかに、彼の遺体があることと、幽霊となった彼が存在しているということは。しかし、それがあなただということは、つい先ほどまで気付きませんでした。あなたが僕の近くを通り過ぎるまでは」

「そうかい…」

 すると彼はまた少しの間黙秘し、あたりの景色を見渡していた。そして再び口を開いた。

「そうだよ。君の察したとおり、僕が夏目宗助だ」

 

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