第5話 陰謀の茶会

平泉館ひらいずみのたち

御館様みたちさま、今日の余興は、街で話題の芝居小屋から、看板役者を招いております」

「噂は聞いておる。なんでも源氏の血筋を引くみやびな男子とな」

「左様でございます。源九郎義経みなもとのくろうよしつねと名乗る、京風の顔立ちで、街で女子の騒ぎはもう」

「左様か、そうか、雅なのう……とぎもするのかのう」

御館様みたちさまの、お眼に適えば、用意いたしますゆえ」

「よしなに……くれぐれも、よしなに」

「はっ、承知」


ゾクッ

義経が寒気を感じたころ、三郎は錦絵にしきえの作成に勤しんでいた。

手先の器用な男で、三郎作、義経の錦絵にしきえは飛ぶように売れた。

商才に恵まれたのか、得意の話術で木彫りの人形に黒い塗装をしたベン・ケー魔除けの量産化にも成功。

こちらも、大人気商品である。

いずれも芝居小屋で販売している。

ちなみに義経も塗装の内職中であった。


「さて、そろそろ準備だ」

三郎が立ち上がる。

「いくぞ、平泉館ひらいずみのたち秀衡ひでひらの眼に適えば一気に全国デビューだぜ!メジャーになるぞ!」

「おう!京の女子も余のファンになるのぉ」

追われたことなど遠い昔、今や源の名を商売道具に生来のルックスに溺れた三流役者である。

京に行ったら捕まるっての!

HAHAHAHAHAHA!

「ベン・ケー!油を塗っとけよ、黒光りするようにな」

「OK! OK! ヌルヌル ヌルヨ」

英語と日本語が微妙に混ざる文明開化の三人であった。


そして茶会が始まった。

三郎の口上で幕が上がる。

この日のために、三郎が書き下ろした新作である。

平家が呪術で呼び出した、黒い大鬼を源氏の忘れ形見、義経が討ち取る、平安ふぁんたじ~である。

ベン・ケーの迫力と義経のアクションは大喝采で幕を下ろした。

手応えバッチリである。


「まこと、感服いたした」

秀衡ひでひら、ご満悦。

「今宵は、この館に泊まるがよい、離れを用意しよう」

「ありがたき幸せ」


そして、どんちゃん騒ぎである。

酒、女、御馳走、最高の夜。

このパターンは……前回の苦い経験を思い出せない御一行。

「ときに、義経殿、なんでも兄上にあたる、頼朝よりとも殿が平家討伐のため挙兵したことご存知か?」

接待にあたっていた侍、兄弟で名を『佐藤三郎嗣信さとうさぶろうつぐのぶ』『佐藤四郎忠信さとうしろうただのぶ』という。

「ん?平家討伐……知らぬが……そうか兄上が……」

「義経殿も、やはり参陣されるのか?」

耳が痛い……。

頼朝よりとも殿も立派なお方だ、石橋山の戦いで敗戦するも、坂東武者ばんどうむしゃを集めて再起したとか」

「そうか……だが!今宵は忘れよう!飲んで忘れよう!三郎!ベン・ケー!愉しんでおるか!」

そして……

「義経さま~」

「なんじゃ、白拍子しらびょうし

「や~だ~、しずかと申します」

「静ちゃんか~」

「パフパフ好き~義経ちゃん」

「好きじゃ~、静ちゃんも、パフパフも大好きじゃ~」

「じゃあ~、あっちに行こう~、ねっ♪人払いした部屋があるのよ」

「そう、とぎっちゃう?、余ととぎっちゃう?」

とぎっちゃう~♪」


三つ刻みつどき捕縛!」

「ん?」


連れてこられた、秀衡ひでひらの寝室。

迫る秀衡ひでひら

「待っておったぞ、義経♪、とぎっちゃう?余ととぎっちゃう?」

「No~!No~!」

義経、貞操の危機であった。

HAHAHAHHAHA!

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