◇無茶を通す役目



 実在するしないは別として【イフリート】という名前は既に知らされている。

 ひぃたろもプンプンも、だっぷーもリピナも。

 今デザリアで地殻調査の帰りを待つ者達も知らされているが、


「イフリートがここにいる......?」


 プンプンの発言には流石に根拠が欲しくなる。

 半妖精ひぃたろは整理が追いつかないまま、しかし一旦フェンリルの件を保留して四大の話題を明確にすべく魅狐ミコプンプンのおぼつかない説明を待った。


「絶対にいる。それは間違いないよ! ただ、どう説明すれば伝わるのかな......」


 腕を組みながら「うーん」と唸り考える銀の九尾。

 元々は金髪で顔に模様もなく瞳も金色だった。勿論背中には尾などなく、至って普通の外見だったプンプンだが、彼女が持つ魅狐ミコ特有の変化系能力がステージを上昇させフレームを突破し尾の数が増え、いつしか常時九尾状態となった。

 その頃からだった。不思議な感覚を抱くようになったのは。


「ボクが九尾いまの状態になってからさ、たまに地面の奥底に何か感じたりしてたんだよね。でもハッキリ言えなくて、別に何か起こるワケでもなかったし......それがシルキ大陸に行ってからより明確になって、色々わかるようになったんだ」


 ひぃたろ、リピナはプンプンの説明───とはとても言えない言葉を受け取り必死に考える。

 この状況で冗談を言う性格ではない事は理解している。だからこそ、何を言っているのかハッキリ知っておきたいのだ。


「......プンプンさんの言った通りだよお。あの祭壇は地脈に繋がってて、地脈にはイフリートがいる」


 今度はだっぷーがイフリートの存在を肯定する。

 イフリー大陸出身のだっぷーだが、人間ではなくホムンクルスという未知の存在である事が【クラウン】の【フロー】が看破し暴露した。

 そもそもホムンクルスとは一体何なのか? それも大いに気になり始めるが、今はフェンリルとイフリートが最重要。


「......リピナ、光魔術は使える?」


「同じ事を考えていたらしいわね、ひぃたろ」


 ひぃたろの質問にそう答えたリピナ。それで次の行動が決定した。


「プンちゃん。私はプンちゃんを疑ったりしてないけれど、やっぱりあのフェンリルと話が出来るとはとても思えない。でも、それに賭けてみようと思う」


「え?」


「危険だと判断した場合、私とリピナが光魔術の閃光を放つ。プンちゃんはすぐに戻って、だっぷーは特種魔弾ウルフバレットで一瞬でもいい、フェンリル達を止めて」


 ひぃたろとリピナの考えは同じだった。

 何のヒントも、この状況を突破出来る案もない状態だったが、もしプンプンの発言が、読みが正しければフェンリルの王と会話出来る。

 思い出してみれば猫人族ケットシーの大猫は、猫人族とは違って、本当にただの大きな猫だった。ゆりぽよ、るー、リナ、のような人型に猫要素を持つ種ではなく、本当にただの大きな猫だったのだ。

 そんな猫が言葉を持ち、実際に会話もしていた。


「閃光を合図に水冷弾を射つよお! でもここじゃすぐダメになっちゃうから数秒くらいしか足止め出来ないと思う! それでも平気?」


 僅か数秒でフェンリルから逃れるのはほぼ不可能だ。しかし通路へ入ってしまえばいくらでも対応策はある。とひぃたろ、リピナは考えていた。


「大丈夫だよ、ボクに任せて」


 しかし、プンプンは「そんな状況にはならない」と言わんばかりの笑顔とピースサインを向け、フェンリル達の方へ視線を戻した。


「それじゃあ行ってくるね!」


 まるで遊びに出かけるようにプンプンは明るい声を残し、崖から飛び降りる形でついにフェンリルの群れへと。


 一瞬でフェンリル達の視線がプンプンへと集まる。四方からヘイトが向けられる状況にプンプンは苦笑いを浮かべ、


「びっくりさせてごめんね、話がしたい」


 と、堂々と言い放ち炎狼王を真っ直ぐ見た。

 睨み合うように沈黙し、緊張が熱を帯びる。

 汗粒を滲ませつつも見守る3人は次の瞬間、眼を見開き驚いた。

 


『......魅狐か。懐かしい』


「───! うん、ボクはプンプン! よろしくね!」


 本当に喋ったのだ。

 他のフェンリルよりも数段大きな身体を持ち、ただならぬ気配を纏っていた炎狼王がハッキリとした口調で。

 しかしそれは言葉ではない、と瞬時にひぃたろは理解する。

 魔力を人語の波長へと調整し放出している。

 耳ではなく脳......意識的な部分に明確な言語として炎狼王の意思が伝わってくる。


『このような場所に人が何の用だ?』


「街が、ここの上にある街が今凄く暑いんだ。その原因を調べに来たんだけど......何かしらない?」


 どう見ても巨大かつ強力なモンスターにみえる炎狼王を前に、プンプンはまるで友人と会話するような声音で質問した。

 恐怖がないワケではないが、恐怖よりも会話が成立した安堵の方が大きい。


 炎狼王は一度小さく吠えるような声を出し、プンプンを囲うようにしていたフェンリル達を下がらせる。


『............銀の魅狐よ、お主からは悪意を感じぬ。連れの者も呼ぶがいい』


「───ありがとう! みんなー! 来ていいってー!」


 プンプンが振り向き、3人を呼んだ瞬間、ひぃたろとリピナは背筋を凍らせたが、炎狼王がプンプンを見てどこか呆れているような雰囲気を見せた事にひぃたろとリピナは不思議と「行っても安全だ」と感じた。だっぷーは「わかったあー!」と即返事していたので出ていく以外に選択肢もなく、3人は崖を飛び降りフェンリル達の前へ向かった。



「本当に会話しちゃうなんて、どうなってるの?」


「私に聞かれても知らないわよ」


 リピナとひぃたろは思った。

 エミリオがいなくてもプンプンがきっちり無茶を通す役割をするのね、と。




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