◇合流への一歩



 魔女エミリオと謎多き少女メティがデザリア軍の本拠地であるデザリア塔へ足を踏み入れた頃、街には新たなメンバーが到着していた。

 ギルド【フェアリーパンプキン】のひぃたろ、プンプン、ワタポ。冒険者のトウヤやシルキ大陸の者達。

 騒がしいというよりも、恐れ湧くデザリアの街に戸惑いが先に立つ。


「この街どうしたの!?」


 変化系能力の名残りが身体に残る魅狐ミコプンプンは銀髪を揺らし緋朱あかい瞳で行き交うデザリア民を追った。皆、何かに恐れる表情だが、避難している様子はない。


「......何かを怖がっているのに誰ひとり街から出ようって思ってない......」


 シルキ大陸の眠り姫こと妖怪 眠喰バクのすいみん が騒ぎ立つ人々の表情から状況の端を察する。すいみんの発言通り、恐怖はあるものの避難する様子はたしかに無かった。

 深夜という時間帯に何かをするワケでもなく外で不安を荒立たせる人々にトウヤと白蛇はある種の予想をたてた。


 絶対的な何かがこの街でその片鱗を見せた、のではないか? と。そしてその何かを確定させる何かが起こったのではないか? と。


「やっぱりか。おいアレ見ろ」


 黒布の奥で何かを視たトウヤは軽く指をさす。その方向にはイフリー大陸だというのにノムー大陸の騎士がデザリア民を落ち着かせるべく声を出している。


「落ち着くのだ! 先程の魔女、、は敵ではない!」


「品性の欠片もない魔女だが我々に対し無闇に魔術を使わない。それはノムーも保証する」


 魔女、というワードで連想出来る人物は今の所ひとり。品性の欠片もない、で連想した人物で間違いない事を各々が納得し、騎士へ歩み寄る。


「ヒガシン! エミちゃがどこに行ったかわかるの?」


 今では白黒の剣士モノクロームナイトの異名を持つ冒険者ワタポが騎士ヒガシンへ問いかけた。

 このヒガシンは昔ワタポが騎士だった頃の部下であり、今は顔見知りとして関係は続いている。


「お疲れ様ッス、やっぱみんな来てたんスね」


 よく知る面々───と言ってもシルキ関連は初見───へ、ヒガシンは軽く挨拶し、ワタポの質問へ簡潔に答えた。


「エミさんはあの塔に行ったッスよ。他にも何名か一緒に」


 あの塔───鉄で補強、というより、鉄で被われたようなどこか不安定さを醸す現デザリア軍の本部。


「つーか、軍はどうしたよ? ここは軍本部がある街だぞ? ノムーがいるのにイフリーが動かないのはどう考えてもおかしい」


 トウヤは周囲を探るように見渡し、デザリア軍を探すも見当たらない。街の外に出ている兵が何人もいるとしても、それだけで街の警備が手薄になるような穴がデザリアにあるワケがない。トウヤだけではなくノムー騎士達も同じ考えではいるものの、未だにデザリア兵は数名しか確認出来ていない。


「聞いてみればいいじゃない? あそこに若い兵がひとり居るわよ」


 半妖精ハーフエルフが特徴的な耳をピクリと揺らし、デザリア兵の足音を拾った。力なく靴底を擦るように歩くデザリア兵の。


「おいおい、あの兵、顔が死んでんな。頼りになんねぇなぁ! この国の兵隊さんは」


 白蛇が煽るように声を響かせるもの、全く反応しない若いデザリア兵。よく見ると制服や頬には汚れ、小さな傷が。

 プンプンが歩み寄ろうとするも、それをトウヤが止め、自ら兵の元へ。


「おいお前、何があった? 今来た道は───ラビッシュの方向だろう?」


 ラビッシュ、という言葉に兵はうつろな瞳を上げトウヤを見た。


「あなたは............」


「俺は元......デザリア兵」


 になろうとしていた、という言葉を切り捨て会話の速度を重視したトウヤ。話す話さないは若い兵に任せつつも、一応敵ではない、という印象を与えつつ反応を待った。すると、


「軍兵が、私のような下っ端はラビッシュへ、他の兵は本部の牢獄へと押し込まれた......少しでも今の軍へ不満を溢しただけでこの扱い......直接不満をクチに出した者は見せしめのように処刑されて、俺はどうすれば、俺はこれからどうすればいいんだ......っ!」


 若い兵が短く語ったデザリア軍の内情。

 たったこれだけで今の現状へ納得出来る。兵数が圧倒的に足りない理由も、街が騒がしいのに誰ひとり軍兵が動いていない事、そして今の軍を支配している者の存在。


「ちょっとすんません、その、ラビッシュってのはどこにあるんスか?」


 街の人々を落ち着かせるために奮闘していたノムー騎士のひとり、ヒガシンが会話へ入り込む。他の2名はそんなヒガシンを気にも止めずに聞く耳を持たないデザリア民へ必死に声を飛ばしていた。


「ノ、ノムーに教える事は何もない! さっさとこの国から出ていけ!」


「いや、そういうのいいッスから。言えないならいいッスわもう」


 こんな状況でも「ノムーは敵」という態度を見せるデザリア兵へヒガシンだけではなく冒険者陣も呆れる。

 今何を優先すべきかの判断もまともに出来ない者を相手にする時間はない、と言わんばかりにヒガシンはその場を去った。


「......悪い、俺はあのノムー騎士を追う」


「うん、お願い」


 単独行動をするヒガシンを視ていられないのか、トウヤはヒガシンを追う事を決意。ワタポもヒガシンを心配していたらしく、トウヤへ任せる形でお願いし、ここで一旦トウヤは離脱する。


 どうやらヒガシンの単独行動は今に始まった事ではないらしく、2人の騎士は「また始まった」と軽めに呆れつつ自分達はデザリアの街を落ち着かせる事を優先する。


「さて、それじゃあ私達も行くわよ。あの塔の中へ」


 ひぃたろの声を合図に各々が装備の確認を行い、噂の「品性の欠片もない魔女」が既に潜入しているであろうデザリアの塔へ足を踏み入れた。



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