◇厄介者の参戦
小柄な影がスルスルと合間を抜け、半妖精へ強烈な蹴り。両腕をクロスさせ受け止める瞬間に膝を抜く事で蹴りの衝撃を確りと地面へ。それでも強烈すぎる体術に半妖精は珍しく顔を歪める。
「臭ぇ......臭くて苛立つくんだよ
理解不能の執着と見た目に反した実力を前に、普段冷静な半妖精でさえ熱く、
「
奥歯を噛み、半妖精───ひぃたろはついに戦闘する事を選ぶ。
「先にデザリアへ行って。私はここでこのウザいヤツを───」
足を止め敵意を向けた直後、この上なくウザい声と吐き気さえ湧く道化魔女の気配が突如濃く膨れ、弾ける。
「ウザいヤツ追加っちゃー! おかわりあるナリよぉー!」
2つの空間魔法が上空に展開され、ひとつからは声と共に2人の影。もうひとつからは1人が。
耳障りな声の主は言うまでもなく、世界を玩具箱だと比喩する【クラウン】のリーダーであり、玩具箱をひっくり返して喜ぶ奇癖【
「───! プン、プン! 会いた、かった、わ。プン、プン!」
「......!? ───リリス」
もう一方の空間からは白金の鎧と同色の大盾を背負う男。突如空間に落とされ吐き出された姿勢と見て間違いないが、表情に焦りは無く状況を素早く把握する。
冷静に現状を把握し素早く適応するセンスは性格も含まれているが、経験値量も圧倒的だろう。落下してくる鎧の男は地界最強候補とまで謳われていた元ドメイライト騎士団 騎士団長であり、影ではレッドキャップに所属し、今もなおメンバーとして君臨する【フィリグリー・クロスハーツ】。
「ボク
今まさにデザリアへ向かおうとしていた
「クゥ、2人をデザリアまで」
カイト、だっぷーを護送するよう愛犬───フェンリルのクゥへワタポは言い、珍しく魅狐よりも我慢が効かず地面を蹴った。
クラウンとの遭遇や雨の女帝戦、シルキ大陸での幻想楼華の乱、帰還後も鍛錬を重ねてきたワタポの速度は以前とは比べるまでもなく速く、速度と距離をしっかりと把握し抜刀のタイミングさえ完璧に仕上げられていた。
無言で長剣を抜き赤く熱を宿し始める刃を今まさに着地しようと体勢を整えるフィリグリーへと一閃。激しい衝突音を響かせ長剣は大盾に防がれるも牽制は成功した。
「ふむ。驚くべき成長速度だ。
「フィリグリー......ッ!」
◆
フェンリルのクゥはカイトとだっぷーを背に乗せ、荒野を猛進していた。キャリッジよりも速く安定した走りに2人は身を任せ、振り向いても気配さえ感じ取れない距離にいるギルド【フェアリーパンプキン】とシルキ大陸の
「大丈夫かなあ? みんな......」
「大丈夫だ。みんな強いのはだぷも知ってるだろ?」
恋人の不安そうな表情を見たカイトは、自分が確りしなければと思い、気休めにもならない言葉と共にだっぷーの頭を撫でた。
みんな強いのはだっぷーもカイトもよく知っている。しかし、相手は未知数。心配するなという方が不可能な話だ。
「とにかく俺達はデザリアへ向かって千秋ちゃんを探すんだ。その後戻ればいい」
「うん......うん! そうだねえ! でもどうして千秋ちゃんはデザリアに行ったのかなあ?」
カイトもだっぷーも、千秋の血筋は既に知っている。イフリー民であり元イフリー王の娘である事も。しかし尚更わからなくなる。故郷を心配しているのならば仲間と共に行動すべきであり、千秋には既にシルキ、ウンディーという大きな
今更千秋が「イフリー王の娘です」と出ても何の意味もなく、逆に拘束され最悪処刑されかねない程、元イフリー王の横暴は根深い。勿論、この横暴も【レッドキャップ】が王を殺し【リリス】の
「俺にはわからない。だから、千秋ちゃんを探して話を聞こう」
外から見るよりも、イフリー大陸は不安定な状態なのだとカイトは噛み締め、歪む故郷に眼を細めた。
◆
「アァ?」
「お?」
戦闘を終えたトウヤは、同じく戦闘を終えたシルキ勢と合流した。
白蛇の威嚇的な反応にもトウヤは受け流し、周囲に倒れているデザリア兵を確認する。
「......死んでるな」
「当たり前だろ。殺しに来る奴に情けなんてかけねぇだろ」
「まぁな」
白蛇の言うことは最もだろう。シルキ勢もトウヤも聖人ではないし騎士でもない。自分の命が狙われている場面で相手の命に気を使うような平和な環境にもいなかった。それでも、トウヤは考えてしまっている。
このデザリア兵にも家族や恋人、友人がいるのではないか? と。
「......外は和國より悲惨なんだね。想像以上だ」
苦い表情でデザリア兵の遺体を見る
「コイツ等だって色々あんだろ。その色々の中で考えて、選ばされたとしてもコイツ等がコイツ等の意思で行動したからこそ、敵として俺達の前に湧いた。死んでも嫌ならこんな所まで生きてねぇよ」
「そう、だけど」
白蛇の言葉にすいみんは喉を詰まらせる。
死んでも嫌ならこんな所まで───今まで生きてない。そう白蛇は言った。この兵達は最終的に自分達の意思で行動していたのは間違いない。
それでも、やはりやりきれない。
「チッ。
言葉をフェードアウトさせた白蛇は突然強く言い放ち、何もない空間を凝視すると───ガラスが砕けるようにその空間が砕け、背筋を凍えさせる程の妖力と共に、
「───ありがとうダプネ!」
無邪気な声を響かせ、酒の香りを振りまく鬼が現れる。
「やぁやぁ、探したよ〜! 早速だけど霊刀・
額に五本の角を持つ鬼【酒呑童子】が手を出し、刀をねだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます