◇モンスターパレード



 視力に悪影響をもたらす───かは知らんけど、チカチカやかましい光が至るところで騒いでる街トラオムに到着してすぐ、この街の胸糞具合をわたしは知った。


「先程のバーバリアンミノス、見ました?」


「見たとも! あれは前座にもならんな!」


「ま、仕方ないでしょうね。ゴミはどこまで行ってもゴミ。せめて派手に散ってくれれば見応えあるのだが......期待できませんなぁ」


 高価たかそうな服で身を飾り、両脇に女を抱いて魅力を飾るだけの、クソの役にもたたねぇ貴族の会話だ。街に到着してからこんな会話があちこちで繰り広げられている。中には「派手に死ぬ」か「醜く生き残る」かに賭け始める貴族ゴミもいた。この街はイフリー大陸の中で一際息が詰まる場所だ。


「助けるんでしょ? 我慢しなよ」


 わたしに加算されるヘイトを察したヨゾラはここに来た目的を前に起き、わたしの攻撃性アグロを静める。これがあったから今も街中を歩いていられている。ここまで来て喧嘩騒動、それも貴族相手に面倒を起こしては助けるもクソもない。

 短気すぎる自分に反省などせず、帽子の奥から明確な敵意を貴族に向けるだけでなんとか留まる。


「───私、わかるよ。私もソラねぇとリヒトねぇが嫌に言われてたら我慢なんて出来ない。生きてるだけで無意味に誰かを殺すヤツは無駄に死んだ方がいいと思う。でも一般人を殺すのはダメ......意味わかんないよね、一般人とか騎士とか犯罪者とか」


 予想外な言葉───他人に興味を示さなかったメティがこの街への怒りと世界の理不尽アンフェアに対してクチを開いた。

 他人を石ころ程度にしか思わないワガママな子供、という印象をメティに短時間で持ったわたしだが......この子はこの子なりにちゃんと世界を見てるのか。しかしそれは相当難しい話題。答えなんて出ない、答えなんて存在しないレベルの話題なんだ。無意味に人を殺す、という言葉を人型種族だけに当てれば意味も違うが、無意味に命を奪う、となるとお約束のように必ず食事を話題にあげる人一倍薄まった脳を持つヤツもいる。

 こういう内容を話題にするな、とは言わないが......安易に話題としてあげると苦い味を残して終わる事の方が多いんだ。


「そんな事、私達が考えても意味なんてないでしょ。いくら私達が秩序だ法律だって吠えた所でそれを決めるのは私達じゃない。大事なのは自分に嘘をつかないで物事をちゃんと見る事だよメティ。その結果こっちが犯罪者になったとしても私はいいと思ってる」


 とても気楽にハッキリと言い放ったヨゾラの言葉は、もしかしたら核心に近いのかもしれない。

 考えても意味がない、でも考えないのは違う......大事なのは物事をちゃんと見る事。


「そういう話はまた今度にして───もう着くよ、モンスターパレードに」


 小難しい話題を繰り広げているとリヒトが一旦話題を保留するよう指をさす。その先にあったのが要塞染みた建物───モンスターパレードだ。

 鉄素材で作られている闘技場コロッセオは月光を嫌に反射させ、冷たくそびえ立つ。入り口はご機嫌なネオンが点滅し、カジノや酒場のような雰囲気を醸すも......中で行われているのはご機嫌をナナメにするような強制試合クソゲー


「さぁさぁ皆様! 今宵はバーバリアンミノスの群れが登場しますよ! バーバリアンミノスvsラオブミノス! 二足歩行の無人権同士が戦り合う姿に人間性など持ち込み禁止です! 我々は賭けて、賭けに勝つか負けるか! ただそれだけです!」


 声を張り金持ち共を煽る受付の耳障りな声と目障りな仕草に妙な慣れを感じた......この街ではこれが日常的に行われているという事だ。


「どうする? 私は大暴れしても問題ないけど」


「ダメだよソラさん! こんな大勢の前で無意味に大暴れなんてしちゃ」


「リヒトねぇ! それって意味があればいいって事だよね? それじゃあ───アレ、意味に使えない?」


 大暴れしたい気持ちは誰よりも強いわたしだが、確かに無意味に暴れるのはうまくない。そこで暴れる意味に出来そうな相手をメティが発見したらしいが......なんとその相手は現在イフリー大陸を支配しているデザリア軍だった。

 先頭に悪趣味な十字柄を持つローブの男、後ろには凶悪なツラをした兵を何十人と引き連れてトラオムを堂々進む。


「先頭のセンスよ......ドクロ十字って頭悪そう」


 見たままの意見をわたしが言うとヨゾラも同意するように笑う。メティは興味無さげアクビし、リヒトは先頭の男を見て、


「十字に羊の頭蓋......」


 右眼の色合いが波打つ。そういえばリヒトはモンスターの他に十字骨デザインを探していた......アイツがその探し人なのか?


「なぁアイツ───あァ!? おいおいおいおい!? なんっっだアレ!?」


 リヒトへ確認しようとした所でデザリア軍もこちらに気付き、十字の後ろにいた兵が全員姿を変えた。筋骨隆々となった肉体、サイズも元よりひと回り程大きく、なによりその姿が完全にモンスターだ。


混合種キメラ......だけど、アレじゃダメだよ」


混合種キメラァ!? ダメって、んやそれよりメティ下がれ!」


 物珍しいのか、メティは混合種だと言い一歩前に出た。子供が対面するにはヘヴィすぎる相手であり、わたしも出来ればあんな化物と戦いたくない。放つオーラが異常すぎる。


「大丈夫。ソラねぇと一緒にモンスターパレードに行って。私とリヒトねぇがここに残るから」


「行って。2人とも」


「はぁ!? まず混合種キメラって具体的にどんなよ!?」


「いいから行くぞ、エミリオ」


 ふわっ、と足が地面から離れた感覚を認識した時には、


───......は? 〜〜〜っ!?」


 わたしはモンスターパレードへ向かって空中を飛んでいた───正確にはモンスターパレードまで投げ捨てられていた。





 二足歩行するネズミ系モンスターと、鎧を着込んだようなアルマジロ系モンスターが戦闘する。

 ぶつかり合う度に「さっさと轢き殺せ!」「鱗を剥いで中を引っ張り出せ!」と聞くに堪えない言葉に湧く。勿論モンスターには通じないが、そんな事どうでもいい。

 観客が盛り上がり、金をばら撒けばそれでいい。

 モンスターvsモンスターの試合など、どちらが死のうともプラスにもマイナスにもならない。せめて観客を盛り上げて死んでくれ。そんな意図から煽り役として雇われた人間が観客席から声を上げる。派手に殺し派手に死ね、と。


 ネズミの粗末なナイフがアルマジロの鱗に弾かれ、鉄球のように丸くなったアルマジロが───ネズミを轢き、酷い音と共に内臓が吹き出る。


 狂気の歓声が響き渡り、モンスターマネーが飛び交う。1枚1万ヴァンズというレートで販売されているモンスターパレード専用の紙幣。ざっと数えるだけでも100万ヴァンズ分は月光を浴びヒラリと泳ぐ。


「どーでしょうどーでしょう!? 只今の試合はどーでしょうかぁぁぁ!? モンスターマネーを羽振りよく泳がせていただければスジマジロ君も今宵は豪華な食事にありつけます! 明日の試合の糧になります! スジマジロ君を強くするのは皆様ですよ!!」


 慣れた実況に気持ち良く乗せられる観客達はモンスターマネーをばら撒く。

 紙幣の雨が降り注ぐ闘技場には既にネズミモンスターの肉片ひとつない。

 敗者ゴミは素早く破棄掃除する。それがここの決まりであり、その為に闘技場と観客席は20メートル程離れ、その20メートルは地下へと繋がる奈落。敗者をそのまま地下へ落とす事で簡単に掃除が終了する仕様。

 実況の煽り中に綺麗に片付けられた闘技場。勝者であるスジマジロだけが残り、観客は次の試合を求める中───それは闘技場に着地した。


「〜〜〜痛ッ! 風魔術でふわっと、ふわっと着地したかったけど失敗した......ッ。お前らがギャーギャーうるっせぇから失敗したんだぞ!? 足ビーンってなったわクソ!」


 スジマジロも眼を丸くする程驚き、現れた少女を見る。観客も戸惑うイレギュラーへ実況は、


「おぉぉぉっと! ここで乱入者だー! さぁさぁ皆様! ベットタイムです! ノリに乗ってるスジマジロ君か!? 突然現れた少女か!? さぁさぁ皆様! お席にあるパネルでベットタイムです! 今度は齧歯ではなく人型ですよ!」


 観客達が座る席にはフォンよりも小さいモニターが設置されており、そこには【スジマジロ】と【乱入少女】の2択があり【MM3枚から】との文字も。

 MMはモンスターマネー。突然現れた少女さえもあっさり受け入れ巻き込み、最低3万ヴァンズから賭ける事が許される本日の第二試合が有無を言わせず、


「ベットタイムは終了です! さぁスジマジロ君! 今度も派手に轢き出して頂戴! 第二試合! 開始ぃぃ〜〜〜!!!」


 試合開始の号令が響き渡った。



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