◇478 -京へ帰還-2



 3階───2階へ降る階段前で螺梳ラスしのぶに遭遇できた。

 螺梳の表情はわたしが乱入した時よりマシにはなっているが、やはりまだ苦悩が残るのだろう。それも無理はない。螺梳がここにいるという事は2階にいた化物を討ったという事。腐敗仏はいぶつのようで腐敗仏ではない化物のベースは、螺梳の妻子。地獄のような現実を螺梳は越え、今ここにいるのだが、越えたからといってすぐに切り捨て切り替えれるようなヤツじゃないだろうし、その心のあり方が普通だ。


 比べて忍───ニンジャの表情は曇っている。曇っているのに、何かを決意したような瞳。1階で何があったのか気にはなるが、アレコレ聞いている時間がない。


「───ここにいたのか」


「白蛇! 無事......だったとは言えねーな。でも生きてたか」


 白蛇も摩天楼へ登ってきていたらしく、丁度よく会えて。これで一応、全員拾った事になる。


「細かい話は戻ったで、とにかく一旦京へ飛ぶ」


 細かい話をした所で多分、時間を無駄に食うだけだろうし、戻ってもわたしは即動くつもりだが、とにかく一旦京へ戻り状況確認がしたい。

 ひと呼吸置き、ゆっくりと空間魔法を繋いだ。


「よし、行っていいぞ」


 最初に飛び込みたい所だが、京の何処に繋がったのか不明な空間に飛び込みたくないので生贄として誰かを飛ばす。そんな中、


「俺はさっきも言ったように、京まで付き合えない。行ってこいよ」


「何言ってんだトウヤ。お前も一緒に来い」


「無理だ」


 何かあるらしく、眼帯───トウヤは移動を拒む。正直使えそうな能力だし、これから向かう場所に付き合ってもらいたいのだが、本人が無理というなら無理なんだろう。


「ヘソ、時間ねーから行くぞ」


「......なんで一緒に来れないんだ? 楼華が原因か?」


 楼華!? この眼帯野郎、楼華持ってんのか!?


「それだけじゃない......俺は化物の完成形みたいな存在らしい。つまり本物の化物だ。人間でも他の種族でもない俺は、お前達と一緒にはいれない」


「そんな事───」


 説得モードのヘソをわたしは止めるように一歩出る。


「わたしは魔女だ。そんで飛んでった3人は妖怪かアヤカシか......どっちかだ。京にはわたしの友達が沢山いて、種族もバラバラだ」


「そうか」


「その中にはお前より化物みたいなヤツがいるし、ウンディー大陸にいる友達にも化物がいるし、外には化物なんて腐るほどいるんだぞ」


「......何が言いたい?」


「自分だけ化物って思ってんじゃねーよ。本物の化物見て、自分も同じなのか考えてから言え」


「......それでも一緒に行けないんだ。俺は一度死んだような人間で、今は人間でもない。俺の存在が面倒なヤツを呼び込む確率もあるんだ」


「なにお前1回死んでるノリなの?」


「あぁ......死んだって言ってもいい程の地獄を味わった」


「へぇー。そりゃいいな。んじゃ新しく生きろよ」


「はぁ? 何言ってるんだ? それに、もう生きる意味も......」


「意味も、なんだよ? 意味がなきゃ生きれないとかカスみたいな事言うなよ? それにそんなに意味が大事なら、わたしを助ける事を生きる意味にしろよ」


「......お前な、さっき会ったばかりで何言い出すんだよ。さっきもそうだ、俺の事を簡単に信用して───な!?」


 わたしは剣へ手を伸ばし、抜くと同時に振った。狙いは眼帯野郎───のウザく伸びてる髪。

 狙い通り髪をバッサリ斬り落とす事に成功したのは、奇跡だろう。首斬ってしまっていたら......ヘソに殺されてただろうけど、まぁ、結果オーライだ。


「何かの本で見たんだよな。罪人の髪をバッサリ斬って仲間にした的な。それでお前は死んで生まれ変わる的な? そんなノリの見たんだよな」


 わたしが見たのは、死刑確定した人間の罪人を仲間にする魔女の話で、人間共がうるせーから罪人の腕を奪い「これでもう悪さ出来ないでしょう? 私がコイツを貰うわ」と言って連れ去った話なんだけどな。

 眼帯の場合は地獄ツアー行ってたらしいし、髪でいいだろ。


「......俺はきっと関わるみんなに迷惑をかけるかも知れないぞ」


「あ? 迷惑の度合いでも数でもわたしに勝てると思ってんのか? つーか時間ねーんだよ。そんな小言は後で聞き流してやっから」


 化物の度合いじゃコイツより上をわたしは何人、何十人と知っている。迷惑の度合いも回数じゃわたしの方が確実に上だ。

 面倒なヤツを呼び込む確率は......知らん。面倒なのが来たらその時考えればいい。それに今は夜楼華とクソネミが面倒な感じになってて、コイツの能力は、その面倒を解決する為に必要なモノをりに行くのに使えそうだ。


「だそうだ。どうするトウヤ?」


「......、......俺は」


 グズグズうだうだうるっせぇなコイツ。

 人間じゃねーだの化物だの、小さい事に囚われてんじゃねぇーよクソ。

 と、いう言葉は言わずにわたしは眼帯の背中を蹴り、空間へ入れた。


「よし、空間に入ったって事は契約成立だな。アイツはこれからわたしのフレだ。そうだろヘソ?」


「ハハ、相変わらず無茶苦茶だなエミー。でも、そうだな。トウヤは今からエミーのフレだ」


「んじゃわたし達も行くぞ」



 今は無理矢理でいい。

 色々終わった後で、やっぱり一緒にはいれないって答えが出たならそれでいい。ただ、今はアイツの力が欲しいから無理矢理でも連れて行く。


 消えるとか死ぬとか、そういうのは後で勝手にしろ。





「───!?」


「うわっぶ!? 今度は───誰だよ!?」


 蹴り入れられた空間魔法とやらの先は、京だった。しかも道の真ん中......今俺に声を飛ばしたのは両耳に金のリングピアスをしている少女───衣服的に和國ここの住人ではない。


「みよっち覗いてたら危ないよ!」


「プンちゃんもね。それより、あの帽子バカは何してるのよ?」


 今度は銀髪の狐と隻眼の女性が.........何だこの2人は。

 銀狐の方は馬鹿げた妖力量なうえに独特な、特別な妖力を持っているのか?

 隻眼の方は妖力も魔力も平均より多めで雰囲気がある。

 しかし俺が驚いたのはそこじゃない。銀狐も隻眼もマナが......明らかに “異質” だ。


「〜〜〜〜〜ッ......だぁーっ! 痛ってぇなクソ!」


「エミー身体バッキバキなんだろ!? 何で無駄に飛び込んだんだよ!?」


 空間から魔女とカイトが現れ、魔女は空間を閉じた。


「おい帽子ババー! さっきすっげー雰囲気がシルキを突っ走ったけど何したんだよ!?」


「そうだよエミちゃん! 多分、摩天楼まてんろうからだって療狸が言ってたけど!」


「失敗......じゃあ、なさそうね。失敗していたなら私達は死んでるだろうし。それより瑠璃狼の......何かあったのね? 雰囲気が洗練されてるじゃない」


 噂のカイトの仲間か......なるほどな。


───守りたい、と言えるほど俺は強くないし、弱い人達でもない。でも、だからこそ、その人達のために俺は俺に出来る事をしたい。


 カイトが摩天楼で言った言葉の意味が少しわかった気がする。


「よぉ......なんだっけ名前、眼帯」


 全身が痛むらしい魔女は痛みに耐えながら俺に声をかける。


「トウヤ、だ」


「よぉトウヤ、軽く紹介するぜ。わたしの友達の───クソガキが暴食の天使 みよ、銀狐が電撃ビリビリ魅狐ミコプンプン、隻眼がツンツン半妖精ハーフエルフのひぃたろ、だ」


 カイトと話す3人を魔女は、エミーは本当に軽く紹介してくれた。天使、魅狐、半妖精という、とんでもない情報をサラッと言ったが俺は聞き流せなかった。


「天使と魅狐と半妖精!? 種族が違うにしても限度があるだろ......それに、あの異質な雰囲気......何者なんだ?」


「簡単に言うと───化物だ。特に半妖精はやべーぞ」


「化、物......」


 エミーはそう言い残し、カイト達へ声をかけ、宿屋を指差した。


 俺は、人間を奪われ、妖怪にもアヤカシにも、腐敗仏はいぶつにもなれない半端な存在になってしまった。死ぬ事も出来ず、生きる希望も見えず......自分はどこにも混ざれない化物なんだと理解していたが、間違いだったみたいだ。


 俺は素直に、あの2人───魅狐と半妖精の腹の底にある雰囲気に、脅威を感じた。

 化物と対峙した時の人間のように。


「眼帯の化物! 宿屋行くから影で送ってくれ」


「なにやっぱアイツそういう事できんの? マナが “人間を軸に色々混ざってる” 感じだし......」


 あの天使の子はひとめでマナの深い部分まで感知出来るのか!? それに、人間を軸にって......


「......なぁババー、アイツってピザの妖怪だろ? クアトロフォルマッジってトコか? ピザ食いたくなったから奢ってお兄さん!」


「あ? どう見てもカクレンボの妖怪だろ。眼腐ってんじゃねーのかみょん。アイツに眼帯借りてこいよ?」


「は? 眼腐れババーに言われたくねーんだけど。 つーかババー、歳で身体いてーんだろ? 黙っとけよ血圧上がってぽっくり逝くぞ? 何なら私がぽっくり逝かせてやっか? お?」


「あァ?」

「おォ?」



 ...........、......なんか、アレコレ考え悩むのが馬鹿らしくなってきた。




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