◇461 -摩天楼 1階-



 楼華島サクラじまを一望出来るのではないか? と思う程背が高い、黒金色の城─── 摩天楼まてんろう

 見上げた段階ではヨザクラの姿は確認出来ないが、階層数は5......ヨザクラが屋根的な部分にあるって話が本当で、そこも数えるなら6か?

 とにかく、わたし達は今、目的の城、摩天楼の眼の前まで到着していた。


「ここの最上階にヨザクラがあんのか......つーか城近くは魂多すぎだろ! さっきから視界でふわふわふわふわウゼェって!」


 ウザすぎるし怖い。死んだヤツの魂がこうやって浮遊徘徊しているとか墓かよ! しかもガッツリ見えるとか何なの!? 少しは自分が魂って事を自覚して隠れたりしろよクソ!


「抜け殻のような魂魄こんぱくだから大丈夫だよ、エミーちゃんは怖がりだね」


 ニンジャことしのぶはわたしの事を【エミーちゃん】と呼ぶ事にしたのか、などと思う余裕があるのは魂───魂魄が謎の発光体という姿で、本当にただ浮遊徘徊しているだけだからだろう。これが人型だったり、変な攻撃───肩叩いてきたり声かけてきたり───を仕掛けてきたら、わたしの心にも頭にも余裕は無くなる。


「でも確かに魂魄の数が急に多くなったよ......」


 不安フェイスの不安色を更に濃くする眠喰バクの すいみん ことクソネミは辺りを見渡しつつ警戒意識を広げる。


夜楼華ヨザクラがここにあって、その夜楼華が魂のおくりを拒否している状態だ。自然とここに集まったんだろう」


 中身の無い魂へ手を伸し、手のひらに乗った魂をふわりと浮かべる大妖怪 滑瓢ぬらりょん螺梳らすことラスカルは大人の余裕を見せる。


「でも、それなら中で待った方がよくないか? もっと言えば、ヨザクラが見える範囲に集まっていた方がいいだろう。抜け殻って言ってたけど、こうして集まっているのはやっぱりヨザクラを求めてるからだろう?」


「確かにそうだな......」


 瑠璃狼るりオオカミという格好いい異名を持つ狼耳の人間冒険者カイトことヘソは落ち着いて状況を見て、おかしな点をクチにした。その点についてラスカルも考え始めるが、考えた所でわかるワケもない。ので、


「んなモン、入ってみりゃわかるだろ? 中が居心地最悪だとか、内装がダサすぎて吐きそうになる、だとか」


 装備、アイテムの最終確認の後、狼印のスタミナ消費軽減ポーションを飲む。茸印───しし屋産は即効性が高く持続力が低い。狼印───だっぷー産は即効性は低く持続力が高い。上手い具合にお互いの短所を補う生産者に出会えたのはエミリオさんのラックが爆発したからだろう。運も実力のうち、使えるものは全て使え、などという言葉を聞いた事がある。ので、わたしはポーションをフル活用し、運を味方につけ、この城を制圧してやろうぞ!


「行くぜ、お前ら!」


 分厚く大きな扉前でわたしは声を響かせ、4名の頷きを確認後、霧薔薇竜の剣【ブリュイヤール ロザ】と対魔竜の短剣【ローユ】を抜いた。

 ニンジャとクソネミは「なんで今武器を?」という顔をわたしへ向け、ヘソとラスカルは「おいまさか」という顔。そしてわたしの狙いはその、おいまさか、だ。こういう得体の知れない建物に潜入する際はこっそりか、大胆に、が安定。今回は正面入り口から大胆に突撃する!


 白に薄青の刃を持つブリュイヤールロザは緑色光、古くも確りとしたローユには褐色光を纏わせた。ここでわたしは何かしらの違和感───変化に気付くものの、今動きを止めてしまえば剣術はファンブルする。初っ端で無様なファンブルは勘弁してほしいので、今は全力でオリジナル───天才魔女剣士エミリオ考案の───剣術を摩天楼の扉へ叩き込む。


 右手───短剣は地属性五連撃剣術【ブラウン ホライゾン】。

 左手───剣は風属性の単発重剣術【アレス ウーナ】。


 五連撃で大扉にダメージを与え、最後に物凄い単発突きを利き腕の剣ブリュイヤールロザで撃ち込み、無事、分厚く頑丈そうな扉をブチ破る事に成功した。


「っし、入ろうぜ」


 武器はそのままで、わたしは先に踏み込む。後ろで笑い声や呆れ声が聞こえるものの、恐らくこうでもしなければ入れなかっただろう。

 対魔竜の短剣ローユは、その名の通り魔術などに対して敏感かつ爆発的なレジスト特種効果スキルを持つ。それが今発動した。それも魔術───魔力に対してではなく、妖術───妖力に対してだ。

 魔術ならば眼の前に居て魔女わたしが気付けないハズがない。しかし砕け散るまで気付けなかった事から、間違いなく妖術。ローユは魔力だけじゃなく妖力にもその効果を発動させるらしい。妖力皆無なわたしには妖力関係への対抗手段が無いと言えるが、ローユでコツを掴み後は感覚を魔力と似たモノに再構築してしまえば、対妖力スキルを得るのも不可能でもない。


 そして、さっき扉をブチ破る時に感じた違和感......自分の変化は───


「───エミーちゃん止まって」


 ズカズカと進んでいたわたしの足をニンジャが止めた。考え事といえば大袈裟だが、自分の分析に集中していたわたしは全く気付けなかった───摩天楼1階にひとつだけ浮遊している魂に。


「魂魄......まだ意識がある?」


 眠喰バクのクソネミは魂......魂魄こんぱくを睨み、腰のカタナへ手を伸ばす。カタナで魂が斬れるのかは置いといて、警戒すべき相手であるのだろう。残念ながら妖力の感知さえまともに出来ないわたしには、あの魂はただのウザい発光体にしか見えない。


「動かないな......どうする? このまま上へ行く?」


 ヘソも背中の大剣へ手を伸ばしつつ、ゆっくり階段の方を見た。あの広い階段を登って行けば最上階に着くのだろうか、分かりやすい造りで助かるが今はあの魂魄がどう動くのかで選択が変わる......この1階に誰かを残して先に進むかどうか。魂魄とやらが噂の自我持ちらしいが、こんな所で時間を削るワケにもいかない。


「おい、お化け火の玉! お前なんだ? さっきからこっち見やがって......水かけんぞ? お前が自我持ちって事は見抜いてるんだ、シカトしてるとまぢでやるかんな?」


「...........その笑顔は、違うよ。しのぶちゃん」


「───うさぎ、さん?」


 魂魄がハッキリ喋った事にも驚いたが、ニンジャの知り合いってトコにも同じくらい驚いた。魂の知り合いって事はうさぎさんとやらは既に死んでるって事か。


「ニンジャ」


「うん?」


「わたし達は先に行く。ここ任せたぜ」


 ニコニコ顔のまま頷いたニンジャ。顔は笑っているのに雰囲気は、瞳は、なんでそんなに悲しそうなんだ? というのは全て終わったら聞いてみよう。



 龍組の傭兵、しのぶを残し、わたし達は摩天楼を登った。



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