◇439 -冒険者と傭兵-



 噂の極秘会議からハロルドとその他が戻る頃、わたしは華組の城でどっぷりとくつろいでいた。


「.......何してるの?」


「よぉー ハロルド、おひさ」


 魅狐プンプンの尾に寄り掛かりモフモフ狐のソファにし、わたしの膝上に猫人族のゆりぽよを座らせ耳をホニホニ。ケモナーでも何でもないが、これは何だろう......とても贅沢な気持ちになれるので好きだ。2人も承諾してくれたからこそ、心置きなくフカフカホニホニ出来る。

 両義手が装備されていない状態のノーハンドワタポをプニプニホニホニした所、横っ腹に蹴りを頂戴したので退散。癒しを求めるわたしの前に狐&猫がいたのはラッキーだった。


「エミちゃんそろそろいい?」


「だめ」


「えぇー」


「フカフカふわふわ 気持ちええ〜」


 気の抜けたわたしの声に半妖精の耳がピクリと反応したのを見逃さない。


「ハロルドもやってみ、やべーよこれ世界平和」


「な、何で私に言うのよ」


「何でだろな? ん? ん?」


「〜〜〜〜.......ほら早く終わりにして全員集めなさい」


「あぁー? だりぃよ〜」


 と言いつつこれ以上ホニホニふわふわフニフニしていると半妖精に命を狙われそうな気がしたので終了。ゆりぽよが「もういいにょか?」と聞いてきたのでおかわりを注文しようか本気で悩んだが、半妖精の「早くしろよ」という鋭い視線を浴びたわたしは遠慮する。

 ああ見えて───クールな瞳の麗しき妖精様───は可愛いモノが好きなのだ。ただ彼女の可愛いジャッジが下る対象が ぬいぐるみ ではなく ぬいぐるみ系の生き物 だったりと、一歩間違えればリリスみたいな事をしそうどなと心配する日々だ。


 さて、極秘会議で何を決めてきたのか───多分聞いてもよくわかんねーだろうし、


「キューレ後で理解しやすくしたまとめ頼むぞ」


「500vじゃの」


「へい」


 わたしはウンディーが世界に誇る───かは知らないが、凄腕すぎてたまに怖くなる情報屋へ500ヴァンズ支払い、無駄に広い部屋を出る。

 あーだこーだ難しい話をされても困るし、会議で決まったであろう内容で全員がOKかの確認もあるだろう。ひとりでも異論を唱えてみろ? 問答無用で長くなるだろ。そんなん勝手にやってくれよな。決定事項だけ理解しやくす説明してくれりゃいいんだわたしは。


 2階から1階へダラダラ降り、辺りにいる華組の兵へ「よぉ確り警備頼むぜ」などと声をかけつつ外へ。


「〜〜〜っ.....何時だよ今」


 外の空気を吸い、背を伸ばしたわたしはフォンを確認した。時刻は朝の8時を少し過ぎた所。バリアリバルにいたならば確実に二度寝コースだが、寝床がないこの街では不可能だ。宛もなく何となく街へ出てみると、朝8時という時間が嘘のように騒がしい......賑やかな街だ。


「すっげーな、朝ごはん屋とかある感じ?」


 料理屋は人でいっぱい、道端の長椅子で朝ごはんを頬張る屈強そうな大男達。この街はどうなって───ん? カウンター席的な所に座ってるあの白髪頭......腰部分のあの武装派......


「よぉ、お前は極秘会議いかねーの?」


「?......誰だお前」


「あ? お前が誰だよ」


 名前が思い出せないが、間違いなく華組の地下牢で会った龍組だ。

 名前は......何だったか。


「お前は行かないのか? その極秘会議ってやつ」


「言っても理解できねーからいい」


 会話しつつ隣へ無理矢理入り込むと少し席を空けてくれた。ただならぬ雰囲気を持つ男だが結構優しい所あるんだな。


「お前馬鹿そうだもんな」


「あ? お前もだろ」


「俺はお前より頭いいぞ」


「嘘つくな。じゃあなんで行かねーのよ?」


「俺は傭兵だからな。仕事内容が決まったら雇ってくれるだけでいい。仕事は選ぶが、仕事内容を決める段階ならそれは仕事じゃねぇ」


「ほー、あれか、冒険者みたいなもんだな」


 軽く反応しつつ男の皿からエビをパクる。するとわたしを睨む男......エビを返せと言われた場合はもう不可能だ。飲み込んでしまったからな。

 それにしても眼つき悪いなコイツ。


「な、なんだよ? エビがそんなに大事だったのか? でも守れないお前が悪いぞ」


 もうひとつ食べたい所だが、あの眼はヤバイ。次手を伸ばしたら恐らく肩辺りからザックリ斬り落とされるだろう。そんな危険極まりない眼をしている男は店の人を睨み手招きで呼ぶ。


「ここにもう一枚大皿を頼む」


「はいよー!」


 店の人───どう見ても妖怪が元気よく返事をして大皿をすぐに持ってきた。男は2000v支払い、その皿を、


「ほら」


「あん?」


 わたしの前へ置いた。何も乗ってない無地の皿......わたしは今何を求められているんだ? エア食事でも披露しろと? それからの食レポか?


「眼の前に料理があるだろ? 食いたいもんを食えるだけその皿にとれ。残すと別料金だから考えてとれよ」


「......この料理?」


 わたしが座っているカウンター的な場所はテーブルもイスも隣と繋がっている一枚板。そして前が棚のようになっていて、その上には様々な料理が超巨大皿で並べられている。


「こういう座って食える屋台は皿の金を払って自由に食いたいもんをとるんだ。残さなければそのまま帰る。残したら別料金だからそれは自分で払えよ」


「へぇー、いいなそれ! 好きなだけ食っても残さなきゃ2000vか! お得だな」


「残したらこの店の場合は大体5000vだ。他だともっと取られるから調子に乗って自爆するなよ」


「ほう。で、この料理はなんだ? こっちのは?」


「それは豚の足、そっちは豚の耳だ」


「......取らなくてよかったぜ」




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