◇421 -残滓と記憶のカケラ-5



 青髪───水色の髪と左目尻のホクロ。そしてキャスケット帽子。あの帽子は魔女界にしか存在しないブランドであり、あのタイプの帽子はそのブランドでもひとつしか存在しない、わたし以外に持っている生き物は存在しない帽子だ。

 さらにはあの服。夜空色のジャケットと黒ブラウス......間違いなくあれはわたし専用の装備【ナイトメア】だ。腰に吊るされてる白い剣はおそらく刀身がほんのり青色だろ? あの持ち手を包み守るようなナックルガード、レイピア風スタイルであり全体的に細剣ではなく剣に寄せた作りは間違いなく【ブリュイヤール ロザ】、それもわたし専用の剣だ。

 つまり今わたしの前にいるコイツは、わたしという事になる。


「ま、そんな観察する必要ねーんだけどな」


『ほんとな。でも雰囲気的にやりたかったんだろ? わかるぜ』


「お前はあれだろ? 噂の能力人格だろ?」


『そだぜ。お前は俗に言うオリジナルだろ?』


「あぁ。で、なんでお前が? わたし無茶したか?」


『んや、無茶してねーうえに無茶してもわたしはお前にあっさり全部渡すつもりでいっから一生出会う事はなかったハズなんだよ』


「は? なんであっさり渡すの? もっとこう......なんかあんだろ?」


『あー、プーやワタポみたいなあのアレだろ? わたしアイツ等と違って別に支配してやるぜ的なのねーからな。むしろお前にさっさと押し付けて一生寝ててーわ』


 ......なんだろ、コイツは噂の能力人格とは全然違うぞ。プーやワタポがフレームアウトした時に会った能力さん達は言ってしまえば噂通り予想通りだった。あれが普通で、だからこそ呑まれるという現象が起こる。んでもコイツは全くその気がない。嘘ついてるならそれはそれでいいが、わたし相手に油断させて奪うなんて通じると思ってるワケない。だってアイツもわたしなんだし。

 それにStageとFrameを壁まで上げた覚えもない......確かにクソピエロの時にすこーし、ほんのすこーしだけ無茶したが、呑まれるだの暴走するだののレベルにゃ遠いラインだ。つまり今こうしてコイツとわたしが出会っている、会話している事がおかしい。


「何がどうなって、お前と会話してんだ?」


『それがわかんねーんだよな......実際まだ会話するレベルでもないし、会話が出来るなら即話しかけてSF引き上げさせて全部渡してわたしは退場してるっての』


「何か.......お前何か変だよな? もっとこうオリジナルを無きものにするというか、支配欲ムンムンなのをイメージしてたからお前変だぜ絶対」


『そりゃ始めはわたしもその気ムンムンだったぜ? サクッと頂戴して暴れ狂って遊んでやろうと思ったけどさ.......ちっせー事でも大きく変わるもんなんだよな』


「あ? 意味わかんねーな。でも今はどうでもいいか」


『んだ。今の問題はこの謎空間がどこで、何でこうなってて、どうすりゃ戻れるのか、だろ』


 まさにその通り。今わたし達がいるこの暗い空間がどこなのか、何でここにいるのか、どうすりゃ出られるのか、それが知りたい。勿論知ったら即出るが......そもそもわたしは、わたしの身体は今どうなってるんだ? この浮遊感や能力が居るって事は意思的な覚醒であり、肉体的───リアルの覚醒ではない。眠ってるのか?


『お前どこにいたか覚えてるか?』


「んやー......全然思い出せねーんだよ。お前は?」


『思い出せねーんだよ』


「ハッ、アホかよ」


『あん?』


「あん?」


 やべぇ自分が2人いると即喧嘩コースとかどんだけ短気なんだよわたし。いやわたしは短気ではない、わたしの能力がクソ短気でうぜー感じに喧嘩売ってくるのが悪いんだ。ついでに頭も悪いだろアイツ。いやそんな事はどうでもいいんだ、今はとにかく状況の整理を───したい所だけど真っ暗で整理もクソもないんだよなーコレが。

 もう考えたりすんのが面倒くせーし、魔術でもブッパして穴でもあけりゃいんじゃね?


「おう、わたしよ」


『なんだ、わたしよ』


「同時に魔術ブッパしね?」


『おいおい、同じ事考えるとは流石だな』


「だろ? んじゃ同じ魔術を全力でブッパすんぞ」


『よしきた任せろ得意だぜ』


「『......』」


『「せーの───」』


 当然のようにスーパーシンクロ率を披露し同時に魔法陣を展開。魔煌まこう魔女力ソルシェール、使う魔力の量も同じ。わたしが選んだ術は炎属性系譜、爆裂魔術。もちろん隣のわたしも───


「『 ───ってお前魔術ちげーじゃん!! 』」


 同時に叫んだ時には既に爆裂魔術と巨岩魔術がフルパワーで炸裂し、魔術は大喧嘩したあげく大爆発を起こした。


 お前はタイタンズ ハンドかよ.......いや迷ったけどもさ。





 褐色で流動するように発光する巨大魔法陣が蜃気楼の天井に展開した。


「───タイタンズハンド!?」


「全員散って回避!!」


 ワタポが魔術名を言い当て、ひぃたろがすぐに指示を飛ばした。巨大魔法陣から巨岩の剛腕が現れ、容赦なく地を殴りつける。展開から発動までの速度はまさに一瞬であり、腕の数は複数。攻撃数も一発ではなく追撃も隠し持っていた。

 タイタンズハンドが何かと接触した瞬間、爆破を起こす。それも一発の爆破ではなく連動するような爆裂を。大型魔法陣にかぶせるように爆裂魔術の魔法陣が展開されていた事に気付けず、対魔女レイドは降り注ぐ迅速の剛腕と燃え爆ぜる爆裂にのまれた。





「くっそ! お前ちゃんと合わせろよ!」


『あ!? お前だろ髪ひっぱんなクソゴミ!』


「うるっせーお前もひっぱってんだろカス虫! つーか足引っ張んなや!」


『あァ!? 巨岩で擦り潰すぞ雑魚魔女!』


「あァ!? 爆裂でバラすぞ雑魚魔女!」



 くっそ、クソ、くっっそ! なんだってコイツは地属性創成魔術なんてゆー大魔術を使ってんだよ! 爆裂で穴あけた方絶対気持ちいいだろセンス無さすぎて参るぜ。

 だせぇ魔術使ったせいで煙すげーし、全部この無能な能力人格のせいで失敗だろ! ふざけんな!


 しかし、なんだろう、この手応え。まるで何かを殴りつつ逃げようとするヤツを爆裂で追撃したかのような手応え......悪くないぞ。


「おい無能」


『あ? 話しかけんな脳足りん』


「もっかいやんぞ」


『仕方ねーな、次は何やんのよ?』


「......スーパー魔術」


『あぁ、アレか』


「ガチで使うのは初だけどお互い天才なら余裕だろ?」


『余裕だな。なんなら手伝ってやろうか?』


「ハッ、くたばってろ無能魔女」


『なんかかっけーな無能魔女......魔女の常識じゃ計れないから無能と言われた、みたいな?』


「確かにかっけーな......常識を超越した神クラスの魔女、てきな?」


『いいなそれ。超越したって言葉がかっけー』


「だろ? このまま神も越えて最強にサクッとなっちゃうのもアリだろ」


『アリだな───ん? その場合わたしとお前どっちが最強だ?』


「わたしだろ? だってお前は全部くれるんだろ?」


『あぁ、そうだったな───いやそれだ! 最初からそれやっときゃよかったんじゃね!?』


「どれよ」


『わたしがお前に全部渡す。こうやって謎にも出会えてるワケだし、サクッと全部渡してわたしは退場しちまえばあとはお前がどうにかすんだろ』


「確かにそうだな......でもそれでいいのか? お前それって二度と起きれねーと思うぞ?」


『いいんだよ、後はお前が全部やれ。お前はわたしなんだから余裕だろ?』


「余裕だな───んじゃサクッと全部渡してさっさと消えろ」


『おう、頑張れよ』


「おう」



 能力エミリオさんはカラフルな魔法陣をわたしの足元に展開させ、身体が一瞬、本当に一瞬ふわりと浮いた気がした。


 この一瞬で能力人格は綺麗に───わたしの中に本当に呆気なく───溶け込んだ。




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