◇351 -現喰-6
狸の神様的なおっぱい女、ポコちゃんから聞いたシルキの現状。その話題に出てきた【華組】とやらが、ターゲットである鬼を狙い、真面目な顔で突っ走っているのを、わたしは上から観察する。
「鬼の猛毒ってのがどんなもんなのか知りたいし、観察しようぜ」
「私は構いませんけど......あちらの方は既に瘴鬼を一度受けていますね」
「あん? どちらの方よ?」
巨大鳥の背から竹林を指差す千秋ちゃん。その方向には───
「───れぷさん!? ハァ!? なんでいんの!?」
和國防具とカタナ系武器、濃い緑髪の男は間違いなくわたしの知る冒険者。フレンド登録済の烈風だった。
「エミリオさんのお知り合いですか?」
「知り合いもなにもフレだぜ。えっと、友達だ」
フレンド、という単語は冒険者用語とも言える。フォンが存在しないであろうシルキで冒険者用語を使っても通じないので、言い換えた。
「妖怪のお友達がいらしたんですね、それも大物の」
「妖怪!? 大物!? れぷさんが!?」
「はい。妖怪で鎌鼬。烈風といえば龍組でも指折りの実力者ですが、実力よりも優しさが強い方だとお聞きした事があります」
なんてこった。れぷさん......烈風は妖怪らしい。しかも大物妖怪で実力者ときたか。確かに底が見えない強さは感じていた。いつもどこか余裕あったし、強さより優しさが濃いヤツだったのは確かだ。烈風だけじゃない。アスランもアクロスもジュジュも、いつもどこかに余裕があって、本気を出しているのかさえわからない連中。でも陽気っぽい性格が彼等を丸く柔らかいものにしている。
その陽気妖怪の烈風が今まさに苦しそうな表情で迫る華組を見た。
「どうします? お友達をお助けしますか?」
れぷさんの実態や華組という連中、鬼の存在が気になるうえに、妖力───妖術や妖剣術を見れるチャンスでもある。れぷさんもちゃんと考えて、自分で決めて、ここにいるんだろうし。下手に乱入するのは色々と美味しくない。
「いや、もう少し見る」
わたしは観察を続ける事を選んだ。
◆
ふわりと身体を翻し、大門の上に足をつけた大神族の療狸。首を動かし肩コリを気にするような仕草をしていると下から声が届く。
「療狸様! お戻りになられたのですね」
ひとつ眼を向ける可愛らしい妖怪が療狸を見て瞳を不安色に染める。
「ただいまじゃ、ひっつー。ところで.....ここで何をしとったんじゃ?」
ふわりと浮かび、優しく石畳へ着地した療狸へひとつ眼は言う。
「千秋ちゃんとエミリオが夢幻竹林へ、鬼を退治すると言って出ていってしまいました」
「そかそか。それより、ひっつーワラワ久しぶりに飛んで疲れたのじゃ。肩揉んでくれんかのぉ?」
「療狸様!? 放っておいていいのですか!?」
「大丈夫じゃよ。なるようになる、じゃろ。ワラワのお部屋へ行くぞひっつー」
───華と龍、妖怪とアヤカシ、その中に人間と魔女.....そして、外からまだ入ってくるじゃろなぁ。こりゃ本格的にシルキは変わるのぉ.....いや、そろそろ変わらなきゃイカンじゃろ。この国は。
「その変化が良いか悪いか、それは解らんがのぉ」
「───? 療狸様?」
「何でもないのじゃ。それよりはよぉ肩を揉んどくれぇ~」
◆
ジリジリとそこへ招かれるように集まる亡者達が竹林を擦る。
異形な姿を日の光の下へ晒し、ズルズルと豊満な身体を擦る亡者達は見るに耐えない姿でズルズル、ズリズリと竹林を進む。
亡者達が向かう先には、か細い呼吸を微かに響かせる少女、テラ。
モモの絵魔、猫人族が感知した複数の気配はゆっくり、しかし確実にそこへ近付いていた。
既に移動しているモモにとっては関係ない事だが、その場に倒れ残されたテラは知らず知らず囲まれていた。
「甘美な香り甘露な甘美」
「おいでましたか? おいでまし」
「動かぬが吉、動かぬが凶」
「かしこかしこみ」
「あなかしこ」
悶々と脈打つ異形を濡らす───腐敗仏達に。
◆
「あるるん......と、あれは」
すいみんが見た夜叉のアヤカシあるふぁ は半鬼状態で苦しそうに唸っていた。その半鬼の近くで隙を探していた烈風は、すいみんが喋った途端に能力を使い、一瞬で華組の前へ。
「逃げろ」
華組は烈風の衣服───装備を一目見た瞬間に龍組だと判断出来たが、まさか超速度で距離を詰められるとは思いもよらず、そのうえ「逃げろ」と言われてもすぐに脳は現状に追い付かない。
しかし、時間は待ってはくれない。すいみんの声に反応した夜叉は無造作に大太刀を振り飛燕剣術を放つ。烈風はこの事を予想し、華組の前へと移動し「逃げろ」とすぐに言ったのだが、すいみんが声を発し烈風が移動し夜叉が飛燕剣術を放つまで僅か3秒とない時間。敵である龍組が仲間である夜叉とどう見ても戦闘していた状況で、敵である龍組が「逃げろ」と言い脳が理解したとしても素直に身体は動かなかっただろう。
逃げる逃げないにせよ、烈風は夜叉の飛燕剣術を引き受ける以外に道は無い。
連撃系ではないものの、幅広な斬撃は土を裂き烈風へ届く。烈風は迎え撃つべく濃い無色光を放ち震える太刀を絞るように握り、単発重剣術を飛燕剣術へぶつけた。ここで烈風は自分のミスに気付くも、既に遅かった。剣術と剣術が衝突する事で音が発生する。武器と武器でも、武器と鎧でも、人の小声よりは大きな音が。能力が暴走に近い状態であり、呑まれるか呑まれないかのSFラインに立っている夜叉は視覚が歪み塗り潰されたような状態である事は間違いない。つまり、視覚以外の何かで敵を見極めている。一番手っ取り早く大体の位置を判断出来る音は夜叉にとっては攻撃の合図。剣術と剣術が衝突した瞬間に発生した音が夜叉の身体を引き寄せる。
「こまたねぇ、これは無理だ」
飛燕剣術をイナシ終える前に夜叉は既に攻撃範囲まで移動を終え、飛燕剣術をイナシたタイミングで瘴鬼を纏う大太刀が烈風を深く抉り斬った。
ドップリと血液を押し出す。瘴鬼が直に触れた肌は溶けるように煙をあげ焼け爛れる。
傷口───斬り口は鋭く深く、周囲は瘴鬼で腐るように爛れ、鎌鼬は斬圧に弾き飛ばされる。
───あれは......、
空に浮かぶ大鳥と、その背に乗る新装備を纏う魔女を見て「新装備.....はしゃいで厄介事を増やしそうだな」などと考え、鮮明な痛みの中でも不思議と笑いが滲んだ。
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