◇323 -療狸寺の妖怪-2



アクビのような開戦合図を気にする様子もなく、石畳を蹴り進む妖怪 ひとつ眼のひっつー。

スピードは遅く両手持ちのカタナを引いている事から力もないだろう。プンプン級のスピードだったらどうしようかと思ったが、これならやれる。


わたしは白銀の剣【ブリュイヤール ロザ】の薄青色の刃を見せるように向け、ひっつーが射程距離に踏み込んだ瞬間、短剣【ローユ】へ赤色光を纏わせる。


「───!?」


単発の直進───突進系の剣術を短剣で発動させる。勿論ただの剣術ではなく、火属性を持つ魔剣術。


「目玉焼きにしてやるぜ」


石畳を蹴り、速度をブーストして放つ魔剣術。短剣の刃は熱を宿し空気を焼き進む。狙いはカタナだ。ひっつーの武器を火剣術で叩き押し、すぐにロザで剣術を───あのでけー 眼球に叩き込んでやる。


「妖術───ではないですね」


呟いた眼球女子はカタナの刀身に青色光を纏わせた。魔力は───感じない。しかしあの剣術光は....魔剣術とよく似ていて、属性は恐らく水。


「───ッ!」

「───シッ!」


お互い気合いの声を切り捨て、武器を振る。相手はカタナ───大型系の武器とも言える種類で、わたしは小型の代表 短剣。しかしわたしは剣術を発動する際に前のめりになる程走り発動させている。対するひっつーは一度走るのをやめ、構えて発動させた。威力を最大限に乗せているのはわたしだ。燃える刃と濡れる刃が衝突し、鋼鉄音や蒸発音が寺に響く。お互いの武器は反発し、数メートル下がる。しかしわたしはもうひとつの武器へすぐに緑色光を纏わせる。

短剣だったからこそ仰け反り時も軽く、すぐに足へ力を入れる事が可能。相手はカタナなので大きく仰け反り、爪先立ち状態。

わたしが必死に考案したスーパー五連撃剣術へ風属性───緑色光を纏わせた【グリーン ホライゾン】は容赦なく一撃目の斬動を始める。


「眼玉何個にしてほしい?」


お化け───妖怪に剣術が効くのかしらないが、ここまできたらブチ込むだけだ。わたしの初撃に対応した事から考えて効かないなんてクソ判定はないだろうし、アイツの瞳は今確実に焦り色だ。

緑色光の斬動は吸い込まれるように大きな瞳へ迫った時、わたしとひっつーの間に狸女のポコちゃんが割り込み、わたしの剣を摘まみ止めた。


「魔女っ娘の勝ちでお開きじゃ。お主見た目以上にやるのぉ、驚いたぞ」


「.....はいはい、殺しはダメだったしな。わかったよ」


剣術は止められ、ファンブル扱いになり剣にはずっしり重いディレイが課せられる。左手をだらりと降ろし、右手の短剣をヒラヒラ扇ぎ戦闘終了を承諾。狸女の影に隠れている眼玉へ視線を送ると、驚いた事にひっつーは大きな瞳にこれまた大きな涙を溜め、ポロポロと泣いていた。


「お、おい泣くなよ.....悪かったっての」


「泣き虫じゃのぉ。まぁでもひっつーより魔女っ娘の方が圧倒的に強かったのは事実じゃ。残念じゃがひっつー、お前さんの負けじゃ。まだまだ弱いって事じゃぞ。頑張れ」


「おいポコちゃん、もうちょい優しい言葉をかけてやれよ」


タレ目狸は結構ズカズカ言うヤツなんだな.....でも、ボロボロ泣いてるヤツに泣き虫だの弱いだのはちょっと可哀想だ。ディレイも終わり、わたしは武器を鞘へ戻しつつひっつーへ歩み寄る。


「おい泣くなっての。眼にデコピンすんぞ」


「......本気で斬られるかと思いました......」


ぐっ......確かにわたしは本気で斬ろうと思ってた.....が、結果斬っていない。そう、結果オーライなのだ。


「斬ってないだろ? つーか斬られるのが嫌なら喧嘩売ってくんなよ.....いやわたしも悪かったけどもさ」


「うぅ......怖かった.....」


.......はぁ。なんだってコイツはこんな恐怖の象徴みたいな見た目してんのに泣くかなぁ.....わたしだって初対面の時泣きそうになったんだぞ。


「いつまで泣いとるんじゃひっつー。ほれほれ、仕事に戻るのじゃ。廊下の水拭き確り頼むぞい」


「......、はい。では私はこれで失礼します」


大きな涙を拭い、ひっつーはわたしとポコちゃんへ頭を下げ走って行った。


「うっわー.....泣いてる子に廊下掃除させるとか鬼だろポコちゃん.....わたしなら逃げ出すぞこんな寺」


「逃げ出してここへ来たんじゃ。優しくするだけで皆成長するんじゃったら誰も苦労せんじゃろ」


「そうかー? 優しくされた方がわたしはいいけどな。で、勝ったぞ! 早く教えろよ鴉の場所とか謎の力の正体とか!」


「ぬ、戦う理由がわからんとか言っとったくせにキッチリ覚えとったのかえ」


ぐぬぬ、と唸りつつわたしの肩へ手を乗せるポコちゃん。すると突然、靴底が石畳から離れ、フワリと浮く。


「おわっ、なに!?」


「暴れると落っこちるぞ~。ほいっ!」


ほい、という声を合図に身体は勢いよく浮き上がり、寺の大門の上に着地。魔力なんて1ミリも感じなかったし、わたしが知りたい内部的に効く力の気配も無かった.....今のは一体なんだ? と考えるもすぐにその考えを捨てた。大神族だいしんぞくとか言っていたし、ブッ飛んだ力を持っていても不思議じゃないうえに、その力を知ってもなんの参考にもならなそうだし。


「ほれ、見えるかえ? あの竹林、夢幻竹林むげんちくりん でお主を拾ったんじゃ」


「おー広いな竹林」


ポコちゃんが指差す先には広い竹林が。あんなにも広いとは思わなかったし、近くにこんな大きな寺がある事も知らなかった。


「あとはもっと高く登らんと見えんが、色々とあるぞ~シルキには」


「ふむ。で? 別に観光に来たワケじゃねーんスよ。アレが竹林~みたいな案内はイラネッスよ」


わたしが欲しい情報は【夕鴉】と【夜鴉】がある場所の情報と、腐敗仏はいぶつが使っていた謎の力の正体だ。シルキ大陸には言ってしまえば興味ない。


「可愛くないのぉ~、もっとこう話に興味を持って欲しいもんじゃわ」


「興味ねーよ。鴉の場所と力の正体を早く教えろよ。それ以外はどーでもいいし勝手にやっててくれよ」


「わかったわかった、本当に魔女というヤツはいつの時代も可愛げがないのぉ。鴉は廃楼塔はいろうとうに在る。廃楼塔は廃楼街はいろうがいにある塔じゃ。で、その街は無法地帯、ルールなんて無い。そんで塔にはワラワと同じ大神族が居って、そやつが命彼岸めいひがんを独占して腐敗仏はいぶつを作って遊んどる。街に腐敗仏は居らんが塔内にはウジャウジャ居るぞい。だからと言って街が安全と言うワケでもないのじゃ」


わたしはフォンを取り出し、メモ機能を使う。

【はいろうがい】という街にある【はいろうとう】に鴉があって、街は無法地帯、塔は腐敗仏地帯、とメモする。


「お主が知りたい力は、妖力ようりょくじゃの。魔女で言う.....魔女力ソルシエールみたいな物じゃが、これは妖怪やアヤカシ以外でも使える力じゃ。魔力と同じで体内に宿る力でのぉ、体力的な面を消耗して使う力と言うんかのぉ? 魔力のように乱用するには魅狐ミコやらオニやらその辺りの上位種族じゃなきゃ無理じゃわ。剣術や魔術を使い、ここぞと言う時に妖力を使って妖術を使う。妖術には必ず属性があるから便利じゃぞ.......ってお主は既に属性剣術を使えるみたいじゃしイラン事かのぉ」


妖力ようりょくときたか。そして属性持ち.....こりゃ確かに便利だ。が、乱用出来ないならわたしは魔力でいい。


「その妖力ってのは、体内.....内部的にダメージを与えられるものなのか? わたし内部がブッ壊れてたろ? あれは腐敗仏の多分妖術を食らったからなんだよ。声も出せなかったし、わたしも使えるなら使いたいんだけど」


属性持ちとかそんな事は魔女にとってはどうでもいい事だ。ひっつーがさっき使った水属性の剣術も多分この妖力だか妖術だかの剣術だろう。魔力では無かったが、何らかの力として感知出来てしまうならわたしは魔力でいいし魔力の方が使い慣れてて使い勝手がいい。

それよりも、内部破壊の詳細が知りたい。身体は動かず、声を出そうとすれば血が上がってくるあの感じ.....魔女相手に使えれば最強だ。


「確かに内部がズタボロじゃったのぉ......アレは中々難しいぞ?」


「難しい? 無理ではない、って事でいいのか?」


「さぁのぉ? それはお主次第じゃよ.....ところで、お主名前は?」


「あ? あー、まだ言ってなかったな。わたしはエミリオ、天才魔女だぜ」


「──────!? エミリオ......」




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