◇224



「おーおーおーおー、攻めるねー! ルービッドちゃん」


魔王サタン 相手でもやれるものだな」


道化魔女のふたりはルービッドとナナミを上空から観察し、ルービッドの動きにフローは鳴らない口笛を必死に奏でる。


ルービッドの冒険者ランクはSに対し、ナナミはSS。ランクだけ見ればルービッドは厳しい戦いにも思えるが、S以上の者同士が戦闘になった場合、ひとくちにどちらが有利とは言えない。

SがSS、SSSに勝つ事もある。このランクからは戦闘力ではなくクエスト経験数や他の活動が大きく関係し、S~SSSのランクを与えられる。キューレなどは普段から戦闘と言える戦闘はしていないにも関わらずSSを持っているのがいい例になる。


「SとSSだっけかい?」


「あぁ。魔王サタンがダブルだ」


「モンスターのSとSSは絶望的な差だけども、冒険者や騎士のランク差はあって無いようなもんだし......あるんじゃないコレ!?」


「さぁな。それよりいいのか? 他の連中も教会へ戻ってくるぞ?」


「え、いいトコなのに......ダプネちゃん足止めよろしく!」


「絶対言われると思った.....早く頭数集めろよな」



ダプネは面倒そうに溢すも、マジカルメイクを使い空間魔法から落ちるようにアイレインへ。





ギルド【アクロディア】のマスター、ルービッドは2本の剣で悪魔のナナミを圧す。

闇色のカタナで上手く捌くも、ルービッドの剣劇は加速し続ける。

低い位置からの突きが来たかと思えばすぐに水平斬り、2本の剣を扱う者は交互に似たような筋の攻撃を仕掛けてくる癖があるが、ルービッドにはそれが無かった。左右の動きが完全に孤立しているとでも言うべきか、ラグもブレもなく、的確に嫌な位置を攻めてくる。

ナナミは剣撃を捌きつつ、ルービッドの武器を観察していた。そして、バシャリと水溜まりを蹴り水滴をルービッドへ飛ばす。

一瞬だが確実にルービッドの視線は水滴へと流れた。この瞬間にナナミは闇色のカタナを大きく振り、ルービッドの剣を激しく叩き圧す。


嫌な鋼鉄音が響き、雨の音が戻る。


「誰だか知らないけど.....その武器じゃ、もう戦えないな」


刃の根元から砕き折られた2本の剣にルービッドは焦る仕草も見せず、迷いなく捨てた。

決して安い剣ではないものの量産品。Sランク冒険者が使うにらいささか頼りない剣だが、ルービッドは普段からそれを腰から吊るしていたが量産品の武器ではナナミもピエロメイクが何者なのか判断出来なかった。


「その場におとなしく座───ッ!」


「なんて?」


充分な距離があったにも関わらずルービッドはひと蹴りで攻撃出来る間合いへ入り、ナナミへ問いかけ、独特な体術でナナミを圧し蹴った。

移動速度には少々驚かされたナナミだったが、遅れる事なく防御に成功。押し飛ばすような蹴りで数秒前と同じだけ間合いが開く。


「武器が.....なんだって?」


笑い捨てるように声を発し、ルービッドは新たな武器を装備していた。

フォンを取り出し操作していたからこそ、それを邪魔されぬよう間合いを詰め蹴りを放ち、再び自分が一歩で攻撃範囲へ飛べる間合いを産み出していた。ナナミはルービッドがフォンを操作している事にも気付いていなかった。1対1の戦闘中に堂々とフォン操作を行う者など存在しないという決め付けから、独特な体術に違和感を感じていたものの気に止める事もしなかった。


結果ルービッドは新たな武器を腰から吊るす事に成功、シャムシール タイプの剣が6本、ナナミの視界で奇妙に走る。


「はや」



「───危ねぇい!」





危ねぇい、と声を出し乱入してきたキノコ帽子がナナミの視界端でユサユサ揺れ、複雑な6本の線は響くような音と火花を散らし、雨音を遠ざけた。


闇色のカタナは2本の線を弾き、流動する蒼色の大剣が2本を、雨の中走る鉛弾が1本を、突然生えた鋼鉄のように堅いキノコが1本を弾き飛ばした。クルクルと宙を回るシャムシールは持ち主が柔軟かつ優雅な動きで回収し同時に攻撃範囲外まで下がり現状を確認するように、お互い雨にうたれる。


左右に握られた2本の剣、わきで挟むように1本、肘関節を器用に使い1本、膝関節を同じく器用に使い1本、最後は足元に刺さる形で1本。合計6本のシャムシールは弾かれ、弾き飛ばされてもルービッド支配下にあった。


「あの人すごぉー! 剣たくさん持ってる!」


鉛弾で剣を弾いた魔銃使い、だっぷー はルービッドの剣数に驚く。続くようにキノコ帽子のししも同じように驚いていた。


ナナミと別れてすぐに、ししはだっぷー達へ声をかけ教会を目指し走った。到着するやナナミへ襲いかかるピエロが視界に映り、カイト、だっぷー、ししはピエロの周りに見えた湾曲する光を狙い動いた。


「ナナちゃん大丈.....───後ろ!」


ししの声を拾うと同時にナナミは背後に冷たく刺さる気配を感じ、カタナを水平に走らせ振り向きと同時に攻撃する。


「───お前.....ッ、クッソ」


ナナミが見たのは大盾だったが、盾の所有者が何者なのかすぐに理解し、グッと眉を寄せた。

大盾に長剣、金属系パーツの多い防具で身を包みながらも素早い動きの攻防を見せる男───元ドメイライト騎士団長であり現レッドキャップの【フィリグリー】が大盾の裏から、温度を感じさせない瞳でナナミを見る。


「ずいぶんとカドがとれたな。ナナミ」


「ッ......悪い、その曲芸ピエロはお前達に任せる」


言い終えるやナナミは力技で大盾を押し返し、小道へ走った。するとナナミの予想通りフィリグリーが後を追う。


「やはり狙いは私か、騎士団長」


「後始末だ。邪魔しなければ君以外相手にする気はない」


人の気配がない裏路地を抜け、少し広くなった場所でナナミはフィリグリーと対峙する。


「お前が相手となると周りを見る余裕が無くなるからな......これも使わせてもらうぞフィリグリー」


ナナミはフォンを撫で、2本目のカタナを取り出した。

闇色のカタナよりも少し長いカタナは背負うように装備される。


「闇色のカタナと夕色のカタナか。君が同時にそれを使うシーンは初めてだな」


「お前らと一緒の時は使う相手がいなかったからな.....今の相手がお前だ。迷わず使わせてもらう」


「好きにするといい」



興味の欠片もない声色でフィリグリーは答え、以前とは違う長剣をゆっくり抜いた。







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