◆191
【マナ サプレーション】
魔力隠蔽魔術で、魔女の異質、特種な魔力を包み隠し、他種族と変わらない程度まで質を抑える魔術。
魔女としてではなく、魔力が恐ろしく多い “人間” として感知される。と、同時に魔女だけが持つ魔術の威力を爆発させる強大な武器───魔女力を抑える効果もある。
エミリオの場合は【マナサプレーション】で魔力を隠し、魔女力を抑え、右手首につけられたブレスレットのマテリアで、まだ扱えない深い部分にある魔女力を抑えている。
エミリオの魔力を全て抑える事が難しくなっていたマテリアだが、扱えない部分の魔女力だけを抑える事は簡単だった。
そのブレスレット───マテリアを外し、マナサプレーションを解除する事でエミリオは全魔女力を解放できるが、今はマテリアを外さない。
今エミリオの前にいる琥珀の魔女 シェイネも、全ての魔女力を操れるワケではないにも関わらず、全てを解放し、ディアを上乗せし、自分自身で力を制御できなくなっていた。
そんな琥珀の魔女 シェイネを見て鼻で笑うのは、魔女の中でも異質な存在、堕落───黝簾の魔女。
深緑の瞳を小さく、薄く発光させた黝簾は、暴れ狂う琥珀をターゲットに、風魔術を飛ばした。
◆
風属性 上級 魔術 ストームニードレス。
渦巻く風針───竜巻の棘 をわたしは弾丸のごとく飛ばした。風棘は触れた瞬間さらに渦巻き、触れたモノを螺旋状に斬り進み貫通しようとする魔術。
だっぷーが使う魔銃の弾丸を見て思い付いた魔術だが、この魔術は簡単に言えば、飛ぶ小さな竜巻だ。数を作り、形を維持し、竜巻を制御し、飛ばす。これが中々に難しく、放てて二、三発だった。一発が細く小さいので数発では話にならない。しかし魔女の魔力がこの問題 ───数を作り、形を維持し、竜巻を制御し、飛ばす─── を簡単に解決してくれた。
緑色の魔法陣から勢いよく放たれるストームニードレスの数は、術者のわたしでさえ、数えきれていない。
風棘の数は多いものの、一見細く華奢。シェイネは警戒や観察もせず、タイタンズハンドの片腕で風棘を防ぎ、もう片方の腕で打撃の枠を越えたプレスをする作戦にうって出る。
琥珀───宝石名を持っているとはいえ.....観察力や判断力、経験値、その全てがダプネやグリーシアンとは比べ物にならない程低く浅い。
「.....初見の魔術に対して軽い判断は、自殺と同じだぜ?」
「アァ? ....───ッ!?」
風魔術【ストームニードレス】と地魔術【タイタンズハンド】が接触した瞬間、琥珀は魔煌する瞳を驚きの色に染め、防御に使った巨岩の腕へ視線を流した。風は岩に触れた瞬間、回転をさらに加速させ岩肌を抉り進む。一発一発は小さいが、貫通力は上級の名に相応しいモノとなっている。その風棘が数えきれない程、タイタンズハンドを通過し、岩肌を風化させる。
創成魔術は扱えれば規格外な範囲と威力を持つ最上級魔術であり、切り札となる魔術。
継続効果も持つ厄介な魔術だが、形がハッキリしていて継続発動している分、
地属性には雷が最も効果を発揮するが、風も地に対して大いに働く。穴だらけになった巨岩の腕は土塊と同じ。シェイネは巨岩の腕を引き戻そうとするが、その動きにも最早耐えられないだろう。
「....なんで」
堅く力強い巨岩の腕も、穴だらけになり風化。そうなれば腕の形をした土でしかない。引き戻す衝撃にも耐えきれず、ボロボロと崩れ落ちる。
「最上級 創成 魔術も、術者の頭が悪いと、集中力と魔力を喰い続ける、ただのゴミって事だ」
属性の相性や地形、天候によっては、中級魔術でも上級魔術を簡単に喰う事が出来る。魔女のように普段から魔術に埋もれた生活をしていると忘れてしまう基礎知識であり、魔術を扱う者にとっては重要な知識でもある。
誰かさんが出してくれた毒雲のおかげで、バリアリバル周辺の天候は曇り。街の外に雨は降っていないが湿気を乗せた風が吹いている。
シェイネが使うタイタンズハンドやその他の地属性魔術は、堅く、鋭く、重く、のパワー系。そういった魔術はどの属性も強力だが、地属性は範囲も広くどの場面でも基本的に発動出来る。しかし術者の知識量と気転、そして経験が足りない場合は、簡単に刺し崩される属性でもある。
「お前のディアはテイムしたペットを喰って自分が生きるディアだろ? わたしのは───」
シェイネの頭上───上空に青色の魔法陣、さらにその上に紫色の大型魔法陣が展開。そして足下、地面に茶色の魔法陣。
三種の魔術を同時に超高速の省略詠唱し、同時に展開する。以前は二種だったが、ダプネの空間内で三種まで可能となり、発動も微調整が可能となったわたしのディア。
「───こんな感じだ」
地面を強く揺らすだけの地属性 初級 魔術。全身を叩く様に雨が降るだけの水属性 下級 魔術。雷が拡散落下する雷属性 中級 魔術。
震動音、豪雨音、そして落雷音がウンディー平原を走り抜けるように響き、シェイネのいた場所はまばたきする様な一瞬の時間で、抉れ焦げた。
「初級や下級も、頭を使えば中級や上級クラスと張り合える。そこに中級をぶつけてやれば最上級クラスの爆発力を発揮する。これは属性関係の基本だろ?」
無残な姿で平原に横たわり、辛うじて意識を保つシェイネへ視線を流し、わたしは続けた。
「地属性が得意なら、火や炎を覚えてみろよ。こんな事も出来るようになるぜ?」
砂粒のような地属性に火属性の熱を混ぜ、魔術で小さな球体を作り出したわたしは、倒れているシェイネのクチへその球体を押し込む。苦しむようにもがくシェイネを見て、ゾクゾクと踊るような何かがわたしの胸の中で暴れ、妙に楽しい気持ちが沸騰する。
「ハハ、知ってる? 蝶の鱗粉って揺れ擦れると爆発するんだぜ?」
「───!?」
地属性と火属性を混ぜ作り出したのは爆破する鱗粉に似せて作った粉───鉱物を使った火薬というべきか。それをさらに地属性で球体に閉じ込め作った小さな爆弾。
わたしは先程使った地面を小範囲の揺らすだけの地属性 初級 魔術を使い、シェイネごと球体を揺らした。球体内で火薬が揺れ擦れ合い、一瞬で熱を上げその熱を放出するように爆破系魔術はその名の通り爆発した。
◆
堕落の魔女。
魔法学校にも行かず、好きな事だけを自分で好きな様に学び、誰に何を言われてもダラダラとした態度を見せていた魔女。
他の魔女達が注意する程度で終わっていたのは、堕落の魔女の魔力量や魔力質が他の魔女とは比べ物にならないモノだったから。そこに大魔女や天魔女譲りの魔術センス。
堕落の魔女は僅か数歳で、強魔女クラスまで実力を伸ばしていた。
黝簾の魔女。
堕落の魔女に与えられた宝石名だが、本人は知らない。
現在の魔女界で堕落イコール黝簾と知る魔女も少ない。
堕落はダラダラとした魔女の恥。黝簾は危うい魔女。として語られてる。
堕落───黝簾は、ウンディー平原でゆっくりと深呼吸し、沸騰する衝動を鎮め、襲い来る疲労感に眉を寄せつつ【マナ サプレーション】を発動させた。
「..........ふぅ、魔女力はスゲーけど危ねーな。スゲー疲れるし、使わないで済むならそれがいいな。アイツみたいに狂って、知り合いに殺されるなんて事になるのはゴメンだぜ」
帽子の魔女は琥珀の魔女を見て、
「.....それで生きてたら今度顔見せてくれよ? きっと可愛い顔になってると思うから」
鼻で笑うように呟き、長く伸びた髪を鬱陶しく思いつつ、|黝簾の魔女(タンザナイト) は、徒歩移動する体力がないのか、簡単な空間魔法を使い、毒雨が降り続けるバリアリバルへ戻った。
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