◆64



話していた時には違和感を感じなかった。でも...今ワタシを殺そうとするこの人達の動きには違和感しか 感じない。


機械的な動きが繰り返されるだけの、戦闘とは言えない動き。

剣を抜く気はないがやむを得ない場合は。と考えていたがその必要もない程 単調な...。

武器を持った途端意識がないかの様にワタシのどんな言葉にも反応しない。

指揮官である男もその部下もまるで変わらない動き。実力的には指揮官が上だと想像していたが全員が同じレベル同じ動き。



「いくらやってもワタシに攻撃は当たらない...もう無意味な事は終わりにしよう!」



ワタシの声が届いたのか、それは解らないけど全員の動きが1度停止。再び起動する。

何度やってもワタシに攻撃は....変わっ...た?


攻撃のパターン、攻めのパターンが違う。

今度は数人同時に攻め、その好きに別の数名が背後から...。

よし、試してみよう。


最初の数名の攻撃は回避して後ろからの攻撃も回避。ワタシを掴み動きを止めようとする人の手が肩に当たる様に動けば...。



「...うわっ!?」



思わず声が漏れちゃった。

力が強いとかじゃなく...温度に驚いた。

肩を掴ませたのは義手部分では温度を感じられないから。

狙い通り肩を掴んでくれたので温度を感じる事には成功、素早く手を払い攻撃を回避。



機械的な動き。

会話機能の停止。

驚く程冷たい手...体温が無い。

間違いない。この人達は死体だ。



会話機能の停止が起こったという事はエミちゃが話してた通り、本当に自由に操れるんだ...。

この力を使った事を前提に考えれば突然変わったデザリア王の事も説明がつく。

エミちゃの予想は間違っていなかった。デザリア王はリリスの死体人形で軍の人達を王の立場で操り、行きすぎた仕事は死体人形にやらせる。今眼の前にいる彼等の様に使い捨てにして。


...その場で見て、生きて帰った者が他の兵に言えば、王の言葉よりも力ある言葉になる。死体の動きは殺してくださいと言っている様な動き。

今ここで生きて帰れそうなのは...ハイディングし続けている誰かだ。

リリス...の確率も高いけどそれならそれでいい。とにかく。



「そこにまだ隠れてる兵隊さん...出てきてよ。あなたは 生きてるんでしょ?」



「...あーぁ。バレちゃった」



男の声。それもカナリ若い。

この声はシケットを襲撃した時のメンバーじゃない。

あの時いたメンバーは4人で...最初にワタシ達と会話した男と、ワタシが向かった場所にいた男。

エミちゃの所にはリリスがいたと言っていたから、あの時は男女2人のメンバーで間違いない。

ワタシが会ったレッドキャップのメンバーはこの声の主じゃない。ワタシが会ったのはロキだ。



「初めまして...だよね?出てきてよ。レッドキャップのメンバーさん」


「そう。ボクはレッドキャップのメンバー。今は軍人って事になってるけど...今日で卒業かな」



草影から顔を出した人物にワタシの全てが停止した。

背後から死体の兵が襲って来ていれば確実にやられていただろう。

周りへ気をつける事も忘れてただその人を見た。



「エミ...は元気?久しぶりだねヒロ」


白い髪、眠そうな瞳、銀色の眼鏡。

今ワタシの事を ヒロ と呼ぶのは彼しかいない。


「リョウ....え、レッドキャップ...なんで」


「あの後さぁ...出してくれたんだよねぇ。ドメイライト王国の騎士団長様がボクをね」



ドメイライト王国の騎士団長...フィリグリー。

騎士団長がなぜリョウを?

あの後...リョウは確かに騎士に捕まったはず。



「セツカを殺す様に流れを作ったのもフィリグリー、ボクを出してレッドキャップに入れたのもフィリグリー、ボクが殺したい程憎んでた男もフィリグリー、レッドキャップで最近までボクが組んでたのもフィリグリー」



リョウがレッドキャップに?

騎士団長もレッドキャップのメンバー?セツカ様を殺す任務を命じたのはドメイライト王、でもその流れを作ったのは騎士団長...?



「ボクをレッドキャップに誘うなんてバカだと思ったけど、ボクじゃアイツを殺せなかった。話を聞いてみたら世界を創り変えようとしててさぁ。フィリグリーも王の命令で嫌々魔結晶作りをやらされてたみたいなんだ。アイツもこんな世界は狂ってるって思ったらしい...考えてみればドメイライトを裁けないこの世界が悪いよな?ドメイライトに住むバカ共に...いや、こんな世界で笑ってるバカな奴等にボクと同じ思いをさせてやるんだ!それから世界を創り変えればいい!」


「なに言ってるの?世界を創り変える?そんな事出来るワケないでしょ!?」


「できるよ。凄い力を持った魔結晶とその力を最大限まで搾り出せる魔結晶を集めれば誰も逆らえない。そうなればボク達がルールを作れる!世界の歪みを治せるんだ!お前も一緒に来いよ!エミは...魔女らしいじゃん?だからダメだけどヒロは人間だ!きっとリーダーも許してくれるさ!」


笑顔で悪魔の会話の様な内容をクチにするかつてのギルドメンバーに返す言葉を探すも見当たらない。

悪い方向に変わってしまった...変えられてしまった。


「突然じゃ迷うか...まぁまた会えると思うしその時までに返事聞かせてくれればいいさ。あ、あとフィリグリーがレッドキャップって言ってもいいけど、誰も信じないと思うぞ?アイツ外じゃ真面目に騎士団長やってるし」



リョウの言う通りだ。

騎士団長フィリグリーは誰もが尊敬し憧れる騎士。

そんな人物が世界最悪の犯罪集団レッドキャップだった なんて誰も信用しないし証拠もない。

なんで...なんでリョウがレッドキャップに...。


「ねぇリョウ...まだ遅くないよ、レッドキャップを抜けてワタシ達と一緒に、違うやり方で世界を変えよう?争わないで世界を変える方法だってきっとあるよ!だから、ね?」


「ないよそんな方法。綺麗事じゃ世界は変わらない。やられたやり返す。そうやって世界は出来てるんだ。ヒロならもしかしてって思ったけど...やっぱダメだったか」



やられたらやり返す...そんなの間違ってるよ。その繰り返しは何も生まないし何も変えられない。その繰り返しは永遠に続くんだよ?リョウ。



「お前もういいよ。ボク達の邪魔されるとイラつくし邪魔しそうだし」


「え?」


赤黒いローブを揺らしフォンを慣れた手つきで素早くタップし何かを取り出し、眠そうな瞳の奥に悪意の様な炎を燃やして続けた。


「お前みたいなのは計画の邪魔だから...死んで。ヒロ」


自分の身長よりも長い武器をまるで身体の一部の様に操るリョウはワタシの知る、ワタシの記憶にあるリョウではなくなっていた。

本や絵画で、死神が人間の首を跳ねる時に使う武器、大鎌を持ちワタシを冷たく燃える瞳で見る。

大鎌の刃は片方に大きく1つ。でもリョウの持つ大鎌は左右に1つずつ...Tの様な大鎌。

その気になれば2人同時に首を跳ねる事が出来る死神の鎌で今ワタシの魂を狩ろうとしている。


大きな武器を待つリョウは予想以上の速度で動きワタシの死角へ回り込み鎌を振る。

本当にワタシを殺すつもりだった。今の攻撃に迷いは無かった。


「あー、そうそう。言っとくけどボク多分、ヒロより強いから本気で来なきゃ死ぬよ?死にたいならいいけどね」


次は横ではなく縦に振り降ろされる鎌。

狙いも完璧で速度も早い。言う通り今のリョウは相当強い。


「あれ?終わったと思ったのになぁ...」


余裕ある声で呟き砂煙を吹き飛ばす様に鎌を回す。

攻撃中もワタシの姿を捉えていた事にも驚かされる。

本当に...変わっちゃったんだね。


どこかで、誰かの大切な人を奪う前に...ワタシがリョウを止めなきゃ。



灼熱の剣を抜き自分の迷いを焼き払い、ワタシは地面を重い足で蹴った。


どうして?

なんで?


そんな言葉しか思い浮かばない中で武器をぶつけ合った。

楽しみ笑い、声をかけてくるリョウにワタシは何も言えなかった。

いや...言う資格がないのかも知れない。


ギルドに誘って、人間の悪意を嫌と言うほど背負わせたのはワタシだ。

その結果で悪意を揺らされてレッドキャップに入った。

元を辿ればワタシの責任になる。



「集中しなよ?」


「え!?」



見えなかった。

この 眼 を使っても全く見えなかった。

突然耳元で声が響いて隣に現れたリョウへ反応が遅れる。

大鎌を引き背後から迫る鎌の刃はワタシだけじゃなくリョウも斬り裂くだろう。

ここで回避すれば自滅で終わるが回避行動に入る余裕が無いワタシは剣でガードする事を選んだ。


「それは不正解だよ」


声が届いた時には鎌の刃が剣を通り義手を通りワタシの腹部へ少し侵入した所で停止。

強引に鎌を突き出し刃をワタシから抜き、回転させる様に大きく横振りする。

無色の光が強く、悲しく輝きワタシの首へ吸い込まれる様に迫る。

大鎌にブレはない事からワタシのディアでは先が見えないスピード。剣を掴んでいた義手も、剣も綺麗に切断されていて 痛みで動きも大きく遅れた。



汚い世界を見せてたね...ごめんね。

助けられなくて...ごめんね。



両眼を閉じ終わりを待とうとした時、落雷の様な光が無色光を叩いた。

轟音と衝撃がワタシ達を引き離した。砂煙舞う中でリョウは小さく笑ってどこかへ消えた。


「よかったぁ...間に合った」


終わりを待った命を掴み繋いでくれたのは...銀色の髪と猫人族より大きめの2つの耳、髪と同じ銀色の太い尻尾と深紅の瞳を持つ人物。



張り詰めていた心が切れ突然世界が傾いた。

ゆっくり 傾き バランスを崩した。



「ワタポ!」



倒れそうなワタシを、崩れそうなワタシの心を支える手は温かくて...緩んでしまう。



「傷は深くないわ。大丈夫よ」


「周囲にデザリア兵がいないか全員で捜索!必ず3人以上で行動してください!アクロディアは街中を赤い羽は逆側の平原へ!」








「ワタポ、何があったの?」


「エミちゃ...あのね...」



眼を細める程強い太陽の光と青空の下、緩んだ隙間からポツリ ポツリ と雨が落ちた。






何があったのか。

話してくれるなら聞く。

でもわたしからは聞けない。


たった数十分 別れていただけなのに、ワタポの右腕...義手は肘から無くなっていて涙を流してクチを閉じていた。

平原にはバラバラになった人間の死体と綺麗に切断されていたワタポの義手と剣。

そして 綺麗に掻き斬られた地面の傷が1つだけ残っていた。


セッカの声で全員が周囲の探索や街の警備をする中、わたしは膝をつき崩れるワタポを支える事しか出来ない。

ハロルドは治癒術で腹部の傷を回復。


プーは...銀色の髪、頭には2つの耳、お尻には太い銀の尻尾と宝石の様に深く濃い赤色の瞳を寂しそうに地面へ向け立っている。

あれが 魅狐の...プーの持つディアか。

時折 ビリビリと全身から溢れる様に青白い雷が顔を出す。


「ハロルド」


「うん...。傷は塞いだわ...先に私達の家へ戻ってて。プンちゃん連れてすぐ行くから」


「ありがと」



泣き崩れるワタポは「ごめん」と湿る声で言い力無い足を引きずる様に歩いた。隣で支えハロルド達の家へ向かった。

















「プンちゃん」


「...えへへ、みんなの前でこの姿になっちゃった」


「そうね、でも助ける事が出来た」


「うん...」


「家へ帰ろう。プンちゃん」


「....うん」





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