第76話 その名はムッチョリーニ

 ビシュッ!! フォーン…

 エドモンドのライトセイバーレプリカが宇宙的な音を発して怪しく光る。

「ほぉ…旧世界の武器か、珍しいモノを持ってるの~」

「理由はどうあれ、命の恩人だ、できれば退いてくれないか?」

 エドモンドは真顔で一応聞いてみた。

「アチャッ…エディ…どんだけ呑気なの…」

「バカ!! ソイツ『太郎玉』を持ってるのよ、退かせてどうするのバカ」

 B・Bが怒鳴る。

「いや…ダンナには深ぇ考えが…考えての…」

 オヤジはエドモンドの目を見て悟った。

(あの目は…いつもの騙されるときの目…ダンナ、本気でさぁ…)

「退けぬなぁ…そんな旧世界の武器まで見せられては尚更退けぬ!!」

 金太郎の鉞がゴゥッとエドモンドの鼻先を掠める。

「見切った…などと思うなよ」

 金太郎がニヤッと笑う。

 金太郎と距離を取るエドモンド。

「やるわね、あのムチムチした身体、柔らかい筋肉なのかしら?」

「柔らかい筋肉…そりゃ贅肉じゃぁ?」

「違うわ…アレは…」

『アレは、ミュータントです』

「HAL!!」

 説明しようとしたB・Bの言葉を遮ってHALが説明を始める。

『アレは旧世界の………』

 長い説明の98%は理解できないまま時が流れた。

「なるほど…つまり、普通じゃないわけでやすな」

「そういうことのようね」

 オヤジとプリンセス天功が、したり顔で頷く。

 理解したのは2%だけだ。


「エディ!! そんなムッチョリーニ、サクッと細切れにしてしましなさい!!」

 プリンセス天功が叫ぶ。

「それが出来ないのが、あのミュータントだって…まぁ理解はしてないと思ってたけど…」

 B・Bが呆れた顔でプリンセス天功を見る。


「カッハハハ…斬ってみよ、その自慢のセイバーで!!」

 砂利を巻き上げてムッチョリーニこと金太郎が突進してくる。

「まるで…毛の無いグリズリーだな…」

 一瞬、ふと昔、グリズリーと一晩過ごしてワライダケ食った日の事を思い出した。

(あの野郎…)

 思いだし怒りである。

 何の役にも立たない太鼓をテケテン叩いて死にかけ夜を…

「うぉぉおぉぉー!!」

 エドモンドの中でシード種割れが弾けた。

 キーンッ!!

 エドモンドの瞳の色が変わる。

 スッと表情が消え、白目が真っ黒に変わる。


 ブォンッ…

 豪快に振り回された鉞を躱し、身をひねってセイバーをムッチョリーニの首の付け根に…。

 ザンッ!!

 セイバーは首を跳ねるに足る速度と深さであった。

 が…ムッチョリーニの首筋からは血の一滴も垂れることはなく、ただ白い煙が立ち上るだけ、落ちるはずの首をグキッグキッと鳴らし再び鉞を構える。

「早ぇな…がそれだけだ…」


 ズズズッ…黒目が艶を失いさらに深みを増す。

 ビキッ…

「…変身…」

 エドモンドがカミキリムシへと変態を遂げる。


「ほう…上書き兵士かオーバーライトソルジャー…」

「オーライソルジャー?」

 プリンセス天功が顔をしかめる。

「なんだか呑気な名前ですな」

「オーバーライトよ…英語圏でしょアンタ達…」


 シュンッ…セイバーをオフにしたエドモンド。

「どうした?」

「オマエは斬れないと知った、ならば砕いて、すり潰す」

「ふんっ、オマエは剣士ではないのか?」

「この姿…剣士どころか人ですらない…体裁を気にして勝てる相手とも思わん…他人であれば剣士として対峙もしようが、オマエは人ですらない」

「獣は獣らしく…そういうことか…」

ビーストではない…モンスター化物だ…」


 ムッチョリーニが鉞を捨てた。

「その意気やよし!! 来い!! 我をすり潰せれば、玉をやろう」


「いや~玉をすり潰すなんざぁ身震いしやすな~」

 オヤジがブルッと震える。


「いよいよ…化け物じみて来たわね~エドモンド…」

 B・Bがエドモンドの姿を見て唾をゴクリと飲み込む。

『融合が進んでいます…形状から判断するに40%を超えたあたりでしょう』

 HALがエドモンドの変態後の状態から分析をする。


 拳と拳が唸りを上げて交差する緊迫感の中、御一行は河原でバーベキューの準備を始めていた。

「組木はそうじゃないわよ」

 B・Bが元気に指揮を執っているのである。



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