第74話 覚醒は生死の狭間で

「崖下が川でなかったら死んでるわよ、クーラーボックスって浮くのね、助かったわ」

 プリンセス天功が海藻プリンを食べながらクーラーボックスにドカッと座り込む。

「そこそこ深い川で助かりやしたぜ、生きた心地がしやせんでした」

 オヤジはたき火に手をかざしている。

 HALが川に放電して魚を獲って、B・Bが串焼きにしている。

「落ちてこないわね~アレ」

 B・Bが鮎をムシャッと食べながら上を見上げる。

「エディも器用よね~あれだけ揺られて顎から手すりが外れないってね~」

「瞬間接着剤でくっ付いてるんじゃない?」

「そりゃアレですな、器用じゃなくて異常ですな」

「エディしゃくれてないのにね~」

「生命反応はあります」

 HALが心配ないといった口調でシレッと報告する。

「それが不思議なのよね~」

 プリンセス天功が首を傾げる。

「ダンナは丈夫でやんすな」

「いや…丈夫の域を超えてるわよアレ」

 B・Bが2匹目の鮎に手を伸ばした。

「ダンナ…エラ呼吸なんでしょうか?」

「いや…エラ呼吸なら地上にあがった時点でアウトよね」

 プリンセス天功が鮎を見ながらエドモンド、エラ呼吸説を否定した。

「カミキリムシでしょ、魚じゃないのよ、虫なのよ~アレ」

 B・Bが鮎をムシャと食べながらぶら下がったエドモンドを眺める。

(生きてんのかしら?アレ)


 結果を語ろう…

 生きていた。

 幸か不幸か、早い段階で意識を失っていたエドモンド、坂道を転がるように逆走した荷台に身を任せていたおかげである。

 溺れた時には力を抜くのがベストだ。

 溺れていたわけではないが…


「おまんら、ぶらさがった仲間を肴にキャンプとは…見下げた連中じゃの~」

 聞き覚えの無い声、全員上を向いて鮎をムシャっていたので気付かなかった。

 誰よりも早く振りかえったプリンセス天功。

 おそらく誰よりエドモンドの生死に興味が無かったに違いない。

「誰よ?」

 全員の目の前に赤い布を纏った半裸のムッチョリおかっぱ男が鮎をムシャっていた。

「エドモンドの分が…無くなったわ」

 B・Bが鮎の本数を瞬時に判断したと同時にオヤジが自分の分を左手にサッと握りしめていた。

「では、もう一度…」

 HALは特に問題ないといった対応力を発揮しようと転がり出した。

 半永久機関を内蔵しているオーバーテクノロジーは食に頓着が無い。

 土掘りゃ機械蚯蚓ミミズ(ナノマシーン)がワサッと捕れるのだから…。


「尋ねられて応えるのもおこがましいが…坂田の…」

「金太郎ですね」

 HALがシレッとネタばらし…

「坂田さん?」

 プリンセス天功が首を傾げる。

「で? キンタマーだか坂田だか知らないけど…何かごようかしら?」

 B・Bがムシャり終えた鮎を指していた串を坂田さんの足元にヒュッと投げて突き刺す。

「薄情な連中じゃと言うとるんじゃ」

「否定はできやせん!! だが…今、アッシらにできることは、ダンナがくるのを鮎焼いて待ってることしか…それしか…そのダンナの鮎をー!! さぁ食った分、金を払ってもらいやしょうか?」

 オヤジが食べかけの右手の鮎を左手に移して右手をズイッと坂田さんの前に差し出す。

「ジャパンマネーで2万でやんす」

「天然ものは高いの~」

「養殖じゃ、この味はだせやせんぜ」

 初めて食った鮎を語るオヤジ。

「金は無いが…」

「あん?」

 眉間にシワ寄せてプリンセス天功が坂田さんに凄む。

「おかっぱ…身ぐるみ剥ぐぞ」

「金は無いが…アレを下ろすことくらいはしちゃろうか?」

 ムシャった鮎の串で歯をシーシーしながらノソッと立ち上がった。

 ムチッとした身体、2mを超える巨体は、先ほどのクマを思い出させる。

「毛の無いクマかしら?」

 B・Bがボソッと呟く。

「クマにしたら…毛は薄いほうよね~」

 プリンセス天功が坂田さんの丸出しの尻をジトッと見ている。

「このくらいでいいかの?」

 クマにしては毛の薄い坂田さんが河原の石を拾い上げてブンッとエドモンド目掛けて投げつけた。

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