第67話 アイム・ア・ルーザー

 ふんふんと鼻を鳴らしながら武舞台にあがるエドモンド。

 決勝なんぞ気にもしていない。

 というか割と、どうでもいい。

(なんか必要な物なら、奪えばいい)

 その程度にしか考えていない。

 比較的、常識人に思えるが、しっかりと裏稼業を生業とした先祖の血筋と、倫理がねじまがった世界を生ける住人なのだ。

 そもそも、カミキリムシのDNAを戦闘用に摂り込んだ変わった人間なのだ。

 常識を求めるほうが無理であろう…


 右斜めから、ユーラシアが姿を現す。

 ホームとあって歓声も大きい。

 左斜め…グロテスクな化け物が立っている。

(なんだアレは?)

 イワシとは違う解り難い姿、その正体不明さが気持ち悪さを際立たせる。

 クルッと後ろを振り返るエドモンド

 指が正体不明を指している。

 何も言わないが…言いたいことは御一行に伝わっている。

(アレはなんだ?)

 一同、コクリと無言で頷く

(気持ちは解る)

 唯一、そういう機能を持たないHALだけがエドモンドに答える。

「アレはアノマノカリスです、マスター」

「……アノマの何て?」

「アノマノカリスですマスター」

「アノマモ…ソレなんだ?HAL」


 HALとの距離はソコソコ離れているのだが、エドモンドの触覚へHALが電波を送るという通信手段で、この2人(人としてカウントしていいのか?は置いといて…)は会話可能なのである。

 ちなみにエドモンドは空気の振動に過敏になったため、ある程度ならば離れていても相手の話していることは理解できる、しかし自分の声の大きさは変わらないわけで会話は成立しないという盗聴さながらの能力を確保している。


「古生代カンブリア紀に生息した節足動物との関連性が認められている当時、最大にして最強の海洋捕食生物ですマスター」

「最強…節足…言われてみればエビに見えないこともない」

「その通りです、アノマノとは奇妙な、カリスとはエビという意味です」

「エビの御先祖様というわけか…なら負けるわけにはいかないな…」


 なぜ?エビに負けるわけにはいかないのか?それはHALには理解できないエドモンドのプライドであろう。

 カキキリムシとしてのプライド。

「俺は節足生物王になる!!」

 ドンッ!!

 と思っているか、どうかは知らないが…まぁカミキリムシとしてはエビには負けたくないのであろう。

 深く考えるだけ無駄というものだ。


 キシキシ動く腕だが触覚だか解らない長い突起が顔から突きだし、背中から腰まで羽だがヒレだか解らないビラビラがクネクネ動く…

(不気味悪い…)

 生理的に受けつけない嫌悪感と、なんとなく通じるモノがある親近感がエドモンドを不愉快な気持ちにさせていた。


 観戦席でたこ焼きを食べている御一行

「アレ見なさいよB・B」

「なによ」

「アレ…共食いじゃない?」

 4つ離れた席でイカ男がイカ焼きを食べている。

「アレね…生態系線引きの謎ね」

「どこで線を引いてるのかしら?」

 プリンセス天功が首を傾げる

「喋るかどうか…とか」

「いやいや…アソコのは喋らなそうよ」

 プリンセス天功が指さす先には魚の頭に直接、手足が生えたとしか言えないような思い切ったフォルムの生き物がタバコを吸っている。

「なんでしょうな…もう悪趣味な誰かが作ったような世界でやすな」

 オヤジの発言は確信に触れていたのだが…今はHALですら、その事実を知らない。

 正確にはLOCKされている情報である。

 HALの意思では呼び出せないブラックボックス…末端には知らされていない本来HALが米軍に狙われていた理由、表向きは旧世界の兵器情報を手に入れるとかナントカ…言われて動かされていた兵士には知らされていない米軍が真に欲している情報…。


 自覚の無いサッカーボールは、今、カミキリムシVSアノマノカリスの節足生物戦を記録せんとブレ補正中であった。

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