第5話 肉戦争
牛・豚・鳥…etc.
肉とは種類も調理も豊富なのである。
「魚は身…なぜ肉ではないのだろう?」
魚の肉でもいいじゃないのだろうか…奥が深い。
エドモンド少尉はジャポンの調理本を眺めていた。
なにが書いてあるかは解らないが、写真つきなのがありがたい。
写真を手掛かりに大方のメニューは再現可能なのだが…問題がある。
たまに素材から間違えるのである、怖いのは誰もソレに気づかないことである。
まぁ、ゲテモノ料理もあるということだ。
今回の依頼は…謎の肉を再現せよ。
謎の肉とは?
広く軍隊にも普及されている、カップめん。
このヌードルに入っている肉、ボソボソと粉っぽい肉、スープを吸って表面しっとり、中ボソボソのキューブ状の肉。
なんだか解らないが美味い!
この肉の量産が言い渡されたのである。
要するに、もっと食べたい…と偉いさんが言い出したのである。
色んな肉をキューブ状にしてはみた…あるいは混ぜて四角くしてみた。
そして失敗した。
あのボソボソ感が出せないのだ。
どうしてもジューシーに仕上がるのだ。
乾燥させると干し肉になる…硬くなりすぎる、それはそれで美味いのだが。
「どうやったら出来るんだ?」
旧世界の技術恐るべし。
エドモンド少尉はカップラーメンを食べながら考えていた。
フォークでヌードルのうえに乗っかったキューブ肉を繁々と眺める。
「ふ~む」
一唸りして、ズルッと食す。
「美味い!」
それだけだ…。
旧世界の保存食は優秀だ…今はダメだな…。
干し肉…干し果物…干物…干してばっかりだよ…。
素材の味を丸ごと活かすっていうか、素材の味しかしねぇよ。
「ごちそう様でした」
さて、情報収集に出かけますか……。
エドモンド少尉は、重い腰を上げる。
行くあてもなく、足はアソコへ向くようだ。
「毎度!ダンナ」
(また来ちゃったな~)
「実は…コレなのだが」
エドモンド少尉はバッグからカップ麺を取り出す。
「へぇ~ソレがなにか?」
「この中に入っている肉料理の再現がしたいのだが…何か知っているか?」
インチキくさいオヤジの顔が神妙な面持ちに変わる。
「ダンナ…パンドラの箱を開けるおつもりですかい?」
「パンドラ…大袈裟な」
「ダンナ!大袈裟ではありません…旧世界ジャポンの3大戦争のひとつ、『日清戦争』に踏み込もうとなさっていることに気づいておられないようで…」
「日清戦争…戦争が絡むのか?この小さな肉に?ウソ?だよな…」
「ダンナ!あっしがウソをつくような商売人に見えるんですかい」
(そのようにしか見えない!それ以外に見えない!)
強く思うエドモンド少尉、思わず真顔でコクリと頷く。
「再現に役立つかどうかは解りませんが…あっしが知ってる限りお話ししましょう」
そういうと丸メガネがキラーンと光る…。
かって……と親父が話だす。
このお湯を入れるとラーメンやら焼きそばができる旧世界の技術は飽和状態にあったという。
様々な食材、料理をこの製法で未来へ残そうとした旧世界の人々は文化的な生活を謳歌していたのではないだろうか、しかし、いつの世も権力者というものは独占を求めるものである。
この技術をわが物にし、すべての類似品を排除しようと目論んだ。
結果、技術は進歩し…そして迷走した。
ヌードル大手のメーカーは焼きそばではトップに立てなかったのだ。
焼きそば大手の老舗メーカーに追いつけない…。
そんなとき、焼きそば老舗に致命的なミスが発覚した。
焼きそばにゴキブリが入っていた…。
いや、あるいは仕組まれた罠だったかも知れない…。
この事実は広くジャポンに知れ渡ることとなる。
焼きそば老舗メーカーは廃業寸前まで追い込まれることになる。
ヌードル大手のメーカーはここで一気にシェアの独占を図るべく動き出す。
しかし…焼きそば老舗メーカーを擁護、後押しする人々も多く、長き沈黙を破り、ついに焼きそばは復活を遂げるのである。
焼きそばでは勝てない…そう悟ったヌードルメーカーは、ヌードルの開発に尽力するのだが…。
ここで迷走が始まる。
『肉』をより美味しくジューシーにと粉感を廃止し、柔らかさを追求したのである。
結果…売り上げは落ちていく…なぜかは解らない…あるいはDNAに組み込まれた、いや刷り込まれたあの肉が拒絶したのかもしれない。
メーカーは頭を悩ませていた…美味しいはずなのに…受け入れられないジューシー肉。
「半分にしてみれば」
誰かが言ったのだろう、半分は粉肉、もう半分はジューシー肉、で売り出したのだが、それは粉肉復活の声を大きくしただけであった。
メーカー内でも勢力は真っ二つに割れた。
ジューシー肉のごり押しを続けるメーカーと粉肉を求める人々。
開発と営業から端を発すメーカー側。
ジャポンのアチラこちらで小競り合いが起こり、ソレが戦争に発展した。
これが現代に伝わる『日清戦争』である。
「で?どうなったんだ…」
ヌードルを食いながらエドモンド少尉がオヤジに尋ねる。
「ダンナが今食ってる肉が答えでさぁ」
エドモンド少尉はフォークの先に乗っかった粉肉を眺める。
「なるほど…」
美味い不味いでは計れないナニカがあるということか…。
エドモンド少尉はスープを飲み干して、店を後にした。
寄宿舎に戻り、活動報告書を記す。
[本日、快晴なり。粉肉の再現にあたり、まず粉肉の歴史を知る。]
そこで筆が止まる……………………………。
[特に特記することなし]
エドモンド少尉はカップ焼きそばにお湯を注ぐ。
そう2食続けてヌードルだったのだ、夜くらいは焼きそばでと思ったのだ。
焼きそばの粉肉も美味い。
「粉肉とはDNAに刷り込まれた味か…俺もジャポンの血が入っているのだものな」
焼きそばを食す、エドモンド少尉は数秒後、驚愕することとなる。
麺の中で、黒いナニカが控えていたからだ…。
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