第8話 ◇身勝手な人間

8.



 元夫は会社でもちょっとしたセンセーションを引き起こしたようだった。


 離婚理由を彼は馬鹿正直に話したからだ、というより

扶養家族の手続き上、知られちゃうよね。



 そりゃぁそうよね。自分の子を2人も捨てて子持ちの女と不倫、再婚だもの。


 実の子を捨てて行けるほど不倫女に入れ込んで、そんなことが

つまびらかにされたのだから皆興味津々ってところでしょ。



 私のほうも会社でいろいろと申請しなきゃいけないことがあって、

離婚のことは隠しておけなかった。



 慰謝料を請求してないと言ったら、社内で親しくしている人たちから

子供たちもいてこれから大変なのにほんとにあなたは欲のない人ねって

言われた。



 私は私なりに考えるところがあり、罰として慰謝料を取るというのは

止めることにしたのだ。



 元夫にコケにされてプライドなんてズタズタと言いたいところだけど、

私は自分をそんなふうに貶めたりはしない。



 実の子を2人も捨てて女に走れるのは、彼がただ身勝手な人間だったって

だけのこと。


-


 私が落ち込む必要なんてないって。


 前を向いて顔を上げて一生懸命生きていけばそれでいい。

 

 同居こそしていなかったが元夫は養子だったので、私の両親も

ガッカリしたことだろうと思うが、そんなことはおくびにも

出さず、私を励まし金銭的にも応援してくれると言う。



 その後不倫女は、元夫と再婚してからも相変わらず働かず

専業主婦として暮らしているようだ。


 私は産休や育休取りながら結婚後も頑張って働き続けてきた。


 名の知れた大きな企業なのでシングルになっても健康でさえいれば

あまり将来の不安は感じない。


 何より両親がそこそこ裕福で、いろいろと私たち親子のサポートを

してくれるので本当に心強い。


 約束通り元夫は子供たちとあれから一度も会ってないけれど……

っていうか会わせてほしいの一言もない。


 私が会わせないと言ったとしても、普通親なら会いたいと

思うものじゃないのだろうか。


 私とは縁が切れても子供たちとは血の繋がった親子なのに。

 ほんと、今更だけどガッカリな人だ。

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