第34話 占い
「ところで、何でアスルールさんは俺に付いてくるの?」
俺の左腕が軋む程ガッチリとしがみついているシャナ・アスルールは、不満げに眉を顰める。
「シャナって呼んで、アキト」
「……えっと、じゃあシャナさん」
「『さん』要らない。シャナ」
「じゃ、じゃあシャナ」
「うん!」
俺の呼び掛けに満面の笑みを見せるシャナ。
だから、何でしがみついてんの?
廊下を歩いてる生徒達の視線が痛いんですけど。
そしてリアルに腕も痛い。
その小さな体で、どこからそんな怪力が出て来るんだよ?
「シャナ。君、今日から編入するって言ってたけど、自分のクラス分かってる?もう授業始まっちゃうから、腕を放して行った方がいいよ?」
「大丈夫。アキトと一緒のクラスだから」
な、何ですとー!?
やべぇ、嫌な予感しかしない。
今日は厄日なのか?
今朝の占いを見逃しちゃったけど、牡羊座は何位だったんだろう?
まぁ見て無くても、なんとなく13位のような気がするわ。
態々へびつかい座とか入れるせいで、最下位がとっても不吉な数字になってる。
解せん。
為すがまま、シャナに引き摺られて自分のクラスに辿り着いてしまった。
入口の扉の前で、俺はいまだに腕に絡みついているシャナを見る。
「そろそろ腕を放して欲しいんだけど」
「イヤ」
「いやいや、イヤじゃなくてさ」
なんでそんなに引っ付きたがるんだよ?
意味分からん。
そんな俺達の声に気付いた生徒が扉を開けたのか、目の前が突然開ける。
そこに立っていたのは長く美しい黒髪を棚引かせた女神。
「あ、真黄君。おはよ……う……?」
我が女神黒木さんは、俺に挨拶しつつ視線を落として行き、そして固まった。
「や、やぁ黒木さん。おはよう」
一応笑顔で挨拶を返してはみたが、俺の頬は盛大に引き攣っていただろう。
黒木さんはギギギという音がしそうな動きで、視線を徐々に上げる。
「真黄君、この娘誰?どうして中学生が此処にいるの?」
何時もより一オクターブ低い声で問う黒木さん。何か怖ぇ。
さすがコランダムの娘、恐ろしい程の威圧だ。
目の錯覚だろうか?黒木さんの背後に般若のス○ンドが見える。
でも、何で俺は威圧されてるんだ?
「えっと、この娘はシャナ・アスルールさんと言って、今日からこの学校に編入する高校一年生だよ」
「へぇ。それで、何で腕なんか組んでるの?」
「あ、あの、この娘日本の文化に慣れてないみたいで、エスコートはこのようにするらしく……」
何故だ?黒木さんの瞳がどんどん灰色になっていく。
あれ?もしかして嫉妬してくれてるの?
……な訳無いか。
俺、既に振られてるもんな。
「「「きゃあ~、可愛い~!!」」」
シャナは教室から出て来た女子達に取り囲まれて、連れて行かれてしまった。
おかげで、俺の腕はなんとかシャナの拘束から解放されたけど。
シャナに群がる女子達が、俺をケダモノを見るような眼で見ていた気がしたが、それは気のせいだろう。
事案発生してないんだからねっ!
そして黒木さんは、幽鬼のようなユラユラした動きで、自分の席へ戻っていった。
黒木さん、最近情緒不安定だよな。
悪の組織の事で色々大変なのかも。
もっとも、黒木さんの仕事を妨害してるの俺だけど……。
まだ少し始業まで時間があったので、俺が席に着いた処に親友の守がやって来た。
「秋人、あの娘誰だよ!?」
「ああ、転校生らしいよ。俺はこのクラスに案内しただけ」
「そ、そうか。なら良いんだ」
何が良いんだよ?
モテ男の守らしくない焦ったような態度。
まさか、守ってロリコ……いや、まさかな。
「ところで秋人、例の都市伝説について何か分かったか?」
守は妙に真剣な顔で聞いてきた。
「いや、何も。俺は別に都市伝説について調べてる訳じゃないからな」
「そっか、残念……」
暗い表情で俯く守。
なんか今日の守は様子がおかしいな。
何時もの飄々とした感じが無いし。
「守、なんかあったか?」
「う、うーん。まぁ、ちょっとやらかしちゃったと言うか」
「お前、八方美人で彼方此方の女の子にいい顔してるからだよ」
「ええ~、まさか秋人に女の子の扱いについて意見されるとは思わなかったよ」
「黙れイケメン、たまには痛い目見て反省しろ!」
ブー垂れてる顔までイケメンな守は、笑いながら自分の席に戻っていった。
その姿を追った先で、俺の方を見ていた黒木さんと目が合ってしまったが、それに気付いた黒木さんは直ぐにプイっと前を向いてしまう。
何だろ?守との会話の中で、また自分の名前が出るかと警戒したのかな?
そう思ったのとほぼ同時に、俺の背筋に朝感じた悪寒と同様のものが走った。
――この教室にいる!?
おいおい、この学校の生徒かよ。
もうすぐ授業が始まるから、他のクラスの人間は教室内に居ない。
同じクラスの奴なのか。
朝から黒木さんの家の付近を彷徨いてるって、ストーカー?
で、何故か俺が黒木さんの家から出て来たから、邪推して殺意を俺に向けたってとこか。
確証は無いけど、たぶんこの推測で間違って無いよな。
まさかの第4勢力。
クラスメイトじゃヒーローの力を使ってぶちのめす訳に行かないし、どうしたものやら。
だがその後、授業中は俺に敵意が向けられる事は無かった。
考え過ぎか?
翌々考えてみれば、廊下とか窓の外から覗いていた可能性もあるよな。
そもそも殺気を感じるとか、漫画じゃ無いんだから、有り得ないし。
昨日色々有り過ぎたせいで、疑心暗鬼になってるのかも。
悪寒については考えないようにしよう。
午後からの授業は、俺の苦手な体育だった。
しかも、今日は特に苦手な球技であるバスケ。
中央を網で仕切られた向こう側では、女子も同様にバスケを行っていた。
男としては無様な姿を晒したくない処だが、こればっかりは普段鍛えて来なかった俺が悪い。
お義父さんの道場で体鍛えたら、少しは運動神経も良くなるだろうか?
「ピーッ!」
先生の笛で試合が開始される。
俺は補欠で良いのに、授業だから全員が一度は試合に出なければならない。
動体視力だけはいいので、ボールの動きどころか全員の動きもはっきりと捉える事が出来るんだが、筋力が無いから付いて行けないのが悲しい。
変身してない状態がもどかしく感じられるって、俺、スーツ依存症になって来てるな。
通常の状態でも普通の人と同じぐらいには動こうと頑張ってみるが、結局ボールに触れる事すら出来ないまま試合終了した。
「秋人、お前ちょっとは運動した方がいいぞ」
「ぜぇぜぇ。守、今限界以上に運動してたの見えなかったのか?ぜぇぜぇ」
「いや、だから今の運動が限界超えてるようじゃダメだろっての。日々体を動かせ」
守の言ってる事はもっともなのだが、運動出来る人に出来ない人の気持ちは分かるまい。
今日は朝から走って学校来たり、体育で限界まで動いたりしたので、もう完全に体力が尽きた。
でも、この後お義父さんの道場にも行かないと。
憂鬱だ……。
今日の授業は体育で終わりだったので、守はそのまま部活へ行ってしまった。
俺が一人で教室に戻ろうとした処を、シャナがピョコンと飛び出て遮った。
「な、何?」
「ねぇアキト。アキトは本物のアキト?」
「はぁ?言ってる意味が分からないんだけど?」
「さっきの体育は手を抜いてた?視えてるみたいなのに、何故か変な動きしてた」
シャナが不審な眼を俺に向ける。
確かに動体視力はいいから視えてるんだけど、スーツを着てないと体が付いて行かないんだよ。
「タイガーフェイスとはもっと上手く戦ってたのに」
あぁ、シャナもあの模擬戦を見てたのか。
あれはスーツの動作補助と出力強化が有ったから戦えてたんだし。
「俺の運動神経なんてあんなもんだよ」
そもそも、この娘は俺に何を期待してるんだ?
シャナは真剣な眼差しで俺を見つめてきた。
「アキトはシャナのヒーロー。そして再会出来た時、本物のヒーローになってた。でも今のアキトは偽者」
「いや、何言ってるか分からないんだけど」
シャナの言葉に困惑していると、不意に後ろから肩を掴まれた。
驚いて振り返り、後ろにいた人物を確認する。
「おい、真黄。この後ちょっと付き合えよ」
殆ど話した事も無いクラスメイトだったが、その眼を見た瞬間、朝感じたのと同じ悪寒が背筋を駆け抜けた。
そして、確信した。
今日の占いやっぱり13位だな。
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